芋きんとんと引け目
数日が経ち桃展たちも怪我が治って動けるようになっていた。
炎虎と虎鬼の妖毒は食べ物で体の内側から治ったらしく思っていたよりも早かった。
霊力も回復し傷跡も消えていた。
「取り合うぐらいならお代わりを作ってもらいなよ。騒ぐと傷の治りがおそくなるだろう」
「だって柳鳳兄さん怪我してないのに僕たちの分まで食べるんですよ」
「美味しくって手が止まりません」
「謝砂兄さんが作ってくれませんか?」
「なんでだ? ここのご飯おいしいだろう。料理人の腕がいいのに素人に頼まなくても」
「兄さんの料理を食べると傷の治りが早いんです」
「作ってください。味がちょっと違います」
「はぁ。まったく。間食につくるよ」
瑛と同じ5歳の小さな子たちが菓子を取り合うような声に謝砂は呆れて耐え切れず柚苑や雪児たちがいる部屋に入っておとなくさせるのには考えが甘かった。
(あいつらはどれだけ食べたら満足するんだ? しまった爛にも手伝わせればよかった)
厨房でひたすらポテトフライを作ることになった。
柳鳳は姜と二人で柿の収穫をさせることを約束しジャガイモ洗いを頼めた。
部屋で報告書を書き帰家の門弟に指示している爛にポテトフライを食べさしながら聞いた。
「爛は手伝ってくれないの?」
「私は謝砂が作ったのが食べたい」
「爛もだな。分かったよ。指示は爛が一人でしてるもんな」
桃展たちが治るまで数日間、謝砂は厨房で何度もポテトフライのお代わり注文を受け作っていた。
謝砂は剣術よりもスライスが上手くなったがしばらくジャガイモは見たくない。
柳鳳にも手伝わせていたのだが帰家から姜たちが帰家についたと知らせがきた。
柳鳳が迎えに先に行ったらしく謝砂は二人を宿で待っていた。
厨房から解放された謝砂は妖丹に触れて見えたことをまとめて爛に話した。
「もともと虎鬼は人を惑わせて森に連れていき、虎は血肉を食べるのが好きで虎鬼に死体を木の枝に吊るさせた。虎はもとから妖丹をもっていたわけじゃない。妖丹を誰かが与えたんだ」
「虎塚に召喚陣の痕があった」
爛は虎塚に残っていた召喚陣を記憶して紙に描いていた。
「虎に妖丹を食べさせて虎妖にしたんだ。殺された怨念を抱いていたから猟師を虎鬼に襲わせて村も襲い、虎塚に納めていた丁家も襲った」
「丁一若殿に詳しい話を聞こう」
「その前に手土産を用意するから手伝ってくれ」
謝砂は丁家への手土産用に用意した給食で食べたことがある芋きんとんを作っていた。
爛に鍋でサツマイモと蜂蜜などをつぶして滑らかにしてもらい丸めて詰めていた。
レモンが欲しかったがないものは仕方ない。
サツマイモの蜂蜜煮なのだが手間暇をかけることで時間をつぶしていた。
謝砂と爛はつまみ食いをしながら話していた。
「謝砂は自分のことを言うとき『私』とか『僕』とか言わないんだ? 遠慮せず好きにいえばいい」
「以前はどう言っていた?」
「僕と言っていたがしばらく前から以前から自分のことを私とか言わなかった」
(自分のことを名前で『紗々』と言っていたなんて恥ずかしくて言えない。学校では『僕』と言ってたけど通信生になってから八年間交流もないし一人だったから会話は電話で親だけだったし『紗々』って呼ぶのに戻っちゃったんだ。秘密は絶対に隠さないと。恥ずかしすぎる)
「なるべく私か僕っていうよ」
「謝砂が血で蛛糸を使うのは意外だった。私が行くまで逃げてるか隠れてると思ってた。怖くなかったのか?」
謝砂は炎虎に目の前で吹っ飛ばされた桃家の師弟たちを思い出しただけでぞっとする。
「怖いよ。どっちが怖いか比べたんだ。逃げるよりも目の前で死なれるほうが一番怖い。守る者がいると分かったんだ。ずっとこの体で生きていていいのかと悩んでた」
「丁安が死にたいと言ったとき止めるつもりはなかった。生きることに許可がいることもある」
「許可?」
謝砂は呪縛とは違うが招魂のされたときにから胸の奥にずっと抱えていたものを爛に淡々と話す。
爛に話すのは知っていてほしいというよりも知るべきだと思った。
「自分が呼ばれただけだけどそれには理由があって殺されたし殺したようなもんだ。だから守りたいと思っているものを守らないと割りに会わなくて体に呪われそうで怖いじゃないか」
「呪われてはないだろう。十分引き継いで守ってる」
「生きている理由というか唯一守る理由がこの体で生きていいと許されているような気がするんだ」
(招魂のときに約束したことだ。知古を守ることをひっくるめて謝砂として受け継ぐと決めたんだ)
「信じられないなら謝砂は生きているだけで私を守ってる。引け目を感じず堂々と生きてくれ」
謝砂は何を言っていいのか分からず開いたままの口のなかに芋きんとんを爛に入れられる。
タイミングよく馬車が止まり謝砂は急いで芋きんとんを素早く詰めた。
「瑛と姜ちゃんだ。丁家に行こう」




