6章槐の木の修復
謝砂は爛に声をかける。
「爛、手伝ってほしい」
「謝砂は休んでいたほうがいい」
「大丈夫。槐の木の陰気を浄化しないと魂がまだ残ってる」
謝砂はふらついてないのに支えようと差し出された爛の手を掴んだ。
「魂?」
「魂が残ってる。邪気にとらわれているだけで炎虎に食われてないし守られているのが霊蛛で包んだときに見えたんだ。槐の木の邪気を祓うのを手伝ってくれるだろ?」
「うん。どうすればいい?」
「弓で祓う。槐の木を早矢っていうぐらいだし邪気が抜けるんじゃないかな。この魂霊丹を矢で砕いて浄化し残った魂を修復する。柳鳳、弓持ってるならかして」
「持ってます」
柳鳳が弓と矢筒を謝砂に渡した。
柳鳳の持っているのは狩り用ではなく法器や仙噐としての弓だった。
持ち手にも飾りが彫られている。
爛に手に持っていた魂霊丹を渡した。
「爛は魂霊丹を木の幹の中心ぐらいに埋め込む勢いで投げてくれないかな?」
「分かった」
爛は木に向かって投げた。
「なんで剣じゃないんですか?」
柳鳳が謝砂に尋ねるとにっと謝砂は笑った。
「剣が嫌いなんだ」
(思いつきの何となくなんて言っても信じないよな)
柳鳳は目をパチパチと瞬きを繰り返した。自分が聞き間違えたと思ったようだ。
「そんな理由? ほかの理由がありますよね。もったいがらずに教えてくださいよ」
爛は謝砂と突っかかる柳鳳の間に立った。
「自分で考えなさい」
爛の一言にシュンとする柳鳳が気の毒に思えた。
「木の中に全体に吊るされた魂が残ってるんだ。矢を飛ばして魂霊丹を射れば槐の木の穢れも弾くし魂の修復が一度ですみそうだろ。剣だと木を傷つけるかもしれないし、とにかく見守っていてくれ」
「わかりました」
謝砂は爛を突き振り向かせた。
「一人ではできないから爛があの小さい的に狙いを定めてくれないかな? 弓道はしたことはあるんだけど。いや、したことにはならないな。体験だけしたんだ。矢が飛ばなかったから教えてくれ」
(弓道は久しぶりだな。中学のときに市民スポーツ教室で三か月の腕前だ。的に弾かれてたけどできるんだからな。弓道の弓とは違って長さが短いし軽い。手伝ってもらえればなんとかなる)
「分かった。手伝うよ」
謝砂は爛と一緒に屍が吊るされていた槐の木から数メートル離れて立ち止まった。
爛は謝砂の後ろから重なるように矢をつがえた手を重ねて背中を胸につける。
謝砂は爛から手取り教わることになった。
弓を持つ手を重ねて人差し指と中指の間に矢をつがえて弦を引く。
羽のついた尾の方に溝があり弦にはめて指の関節で挟む。
爛の声が耳元で聞えた。
「矢を射るには均等な力で正しく構えて姿勢を正す。謝砂、弓を引くときはふぅっと息を吐きながら下ろすんだ」
キリキリと弦を引く。
「放つときには指に余計な力を入れると飛ばなくなる。弓を引くときは余計な力を入れず両腕を開き肩の力は抜いて狙う。いち、に、さん。放て」
パンと爛の掛け声と合わせて弦を放つ。
謝砂は霊力を込め矢を放ったときビリっとした感覚があった。
矢は爛の霊力と謝砂の霊力を帯びている。
ヒュッと狙い通りに槐の木の幹に埋まった魂霊丹に突き刺さった。
幹の中で魂霊丹が砕けて入り黒く血が残っていたのが修復されるように白金色に輝き昼間のように明るく照らした。
血が滴っていた木の葉はパラパラと星屑のように降り注ぎ地面の邪気を浄化する。
「なあ爛、綺麗だよな。こんな景色が見ることができるなんて思わなかった。爛のおかげだな」
「二人だからだ。謝砂が見たい望む景色は綺麗だな」
謝砂が感嘆していると爛は謝砂の隣で同じ光景を眺めていた。
きらっとした魂が木の枝に実のように残っていた。
透明なガラスのような果実が枝に実った。
煌めきに包まれて果実は光った。
クリスマスツリーの装飾ライトの電気を入れたみたいだった。
謝砂は木に近づいて手を置き矢をぐっと掴んで引き抜いた。
抜いたあとに重ねるように手を置いた。
ぐっと力を込めるとえぐった幹の中から魂を手に掴み木の亀裂の傷口を修復した。
謝砂はそっと手のひらに魂を包み暖かい霊力を注いで修復した。
そばにいた丁安は黙って場所を謝砂に渡す。
謝砂はその魂を横たわる丁一若の額に戻した。
幻想的だった光は淡く消えて行くと丁一若の長い睫毛が揺れた。




