6章12
「謝宗主、炎虎は妖丹を持っていたようです。残されていました」
丁安は炎虎が燃え塵となり消えたのをみて謝砂と爛のもとに来た。
妖丹を邪封袋に入れて謝砂に手渡した。
謝砂は巾着の口を緩めてコロンとしたクラッシュ加工のビー玉のような妖丹を手のひらの上にだした。
覗き込むと炎虎の瞳のように赤黒く引き込まれるように映像が頭に直接流れ込む。
謝砂の手のひらのうえで妖丹は熱を帯びる。
霊力を込められて邪気が抜け修復された魂霊丹へと変わった。
「謝砂!」
爛に腕を掴まれて意識が引き戻されたが汗が頭から流れ髪の毛がべったりとはりつく。
「何か見えたのか?」
心配そうなに爛は謝砂を覗き込んだ。
「平気だ。色々見えたことは後でまとめて話すよ」
「私の頼みを聞いてくださってありがとうございます。蛛糸を扱われるとは知りませんでした。おかげで一姉は虎鬼に取りつかれなくてすみました。守っていただいて感謝します」
言い終わる前に急に丁安は下を向いた。
爛は謝砂の指を見た。
糸を出すことになり指先を斬ったのも丁安が原因だと知り目で丁安を睨みつけている。
謝砂は爛の肩を叩いて落ち着かせる。
「霊蛛糸を解くよ。丁安待たせた」
謝砂は霊蛛をシュルシュルと解くと包まれていた人を丁安が腕で抱きかかえた。
身頃には血がついたままだったが霊力のおかげか流れていた血は止まっていた。
白くて細く人形みたいで骸にしては綺麗すぎる。
睫毛は長く閉ざした唇は切れて血が滲んでいるが紅を塗っているようにさえ見える。
「一姉、逃がしてくれたのに間に合わなかった。ごめんなさい。残っていいのは私じゃない。一若姉さんのほうだ」
丁安は膝をつき一若をそっと木の下に寝かせた。
「謝砂宗主! 丁安公子を止めてください」
柳鳳が慌てて叫んだ。
丁安は自分の首に刃をあて目をゆっくりと閉じ涙を流している。
「私だけが生き残ってもなにもできない。私の命で償います」
丁安が泣き叫ばずに冷静に見えた理由が分かった。
はじめから自分も死ぬ気だったんだ。
炎虎に殺されてもいいとさえ思っていたんだろう。それが運命だと。
敵を討てた今思い残すことがないんだろう。
「柳鳳じっとしていろ。丁安殿止めないよ」
「止めてくださいよ。謝砂兄さん」
「止めるよりまだやることが残ってる」
丁安は刃をぐっと強く当てた。
「まだその人は死んでいないのにも気づかないとは。謝砂が血を流した代償が分からないなら私が刺してやろう」
爛が謝砂の代わりに丁安に告げる。
丁安は顔を上げた。絶望から疑念と希望が入り混じった瞳を謝砂に向けた。
「魂を修復してみるけど生き返るかは責任は持てない。死ぬことを止めないかわりに目の前で死なないでくれ。約束してくれるなら修復する」
「完全に修復しないと体が生きていて戻る器があっても戻らないことぐらい分かってます」
「丁安すべてから逃げてもいい。苦しいなら弔うことも役目だと思わなくてもいいし、生きる理由にしてもいい。どっちでもいいけど姉さんが生きていたら生きることを選べ。賭けをしようか」
降ろしかねている丁安にもう一つ約束を増やした。
「死にたいなら自分で死ぬ必要ない。まとめて弓で射てやるから剣から手を放せ」
「約束します。お願いです。一姉の魂を修復してください」
謝砂の言うことに丁安は素直に剣から手を離した。




