6章炎虎に蜘蛛糸
虎妖が逃げれないように桃常たち師弟が木を半円に囲んだが、謝砂も逃げられない。
虎と向き合うように立ち丁安の剣を地面にぐっと突き刺した。
謝砂は焔呪符を一枚人差し指と中指に挟み剣にはりつける。
剣を媒体に虎妖に向かってバンと炎がでた。
大きなバーナーであぶってるみたいだ。
火であぶられているというのに水圧の強いシャワーの水をかけられるように嫌がっているだけだ。
呪符の効果が消え白い煙が視界を遮った。
謝砂はごくっと唾を呑み込んだ。
「ガウゥゥ!」
虎妖は低い声で吠え身をブルブルっと水を払うように燃えカスの火の粉を振り落とす。
白い煙は尾を振りバンと地面に打ち付け消される。
「うわぁっぁ。虎は火を怖がるって言ったのはうそだったんだ」
謝砂はすぐさま桃展と桃常たちの後ろに隠れた。
焔符で火傷を負わすことができてないようだ。
ごつごつとした岩のような硬い鎧の皮膚はひび割れている。
隙間から覗く地肌は燃えているような炎の赤とオレンジ色だ。
火花が散りパチパチとした燃える音がする。
「虎は火を怖がるんじゃなかった?」
「あれは虎ではなく炎虎の精怪のようです。火は効きませんし怖がりません」
謝砂に桃展が振り向いて教えた。
「虎はネコ科だ。大きな猫。子猫のにゃんこ。猫ちゃんだ。落ち着くんだ」
「何を言ってるんですか? 猫じゃなくて炎虎ですよ」
ぶつぶつと唱える謝砂がおかしくなったと思い桃常が覗き込んでくる。
「桃常止めるな。自己暗示だ。言っていたら猫に見えてきて怖くないかも」
4つ足で立ち大きく口をあけて牙をちらつかせた。
尾っぽをゆらゆらと揺らす。
「やっぱ猫にはみえないし、猫も怖いんだった」
謝砂は炎虎に向けられる視線に全身の毛が一本ずつすべて逆立った。
獲物を横取りしたと思った謝砂に炎虎の怨念が向けられる。
「ここからは逃がさない」
師弟の誰かが言った。
桃家の師弟は一斉に刃先を炎虎に向かって剣を振り下ろす。
カシャン、カシャンと刃が擦れて当たる音が響くが謝砂は巻き込まれたくなくてできるだけ遠ざかる。
炎虎の腹は白く前足の爪で地面をえぐった。
「「「うわぁ!」」」
虎の尾を振り柚苑と雪児たち五人の師弟たちが打たれる。石燈籠に飛ばされ衝撃で壊れがれきの下に埋もれた。
頭を一振りするだけで桃常と桃展たちを斜め後ろに離れた屋根のある休憩場まで飛ばした。
血の臭いを嗅ぎがれきにのしのしと歩く。
口を開けて隙間から火の粉が見えた。
(噛まれたら終わりだから防がないと。剣は使うことがないと思っていたのにな。ちゃんと修練して剣飛ばし出来たら離れて攻撃できたのにな)
ふぅとため息をついて謝砂は携えていた剣を抜くとカシャンと音がした。
護符をがれきに飛ばして防御の結界で噛みつこうとしたが弾かれた。
結界は虎の吐いた炎をおびた息も防いだ。
焔虎は急激に向きを変えて謝砂に跳びかかる。
自分の前に結界を作るよりも素早くて体制が整えられなかった。
瞬間に腹をめがけて遠くから矢が3本同時に放たれた。
矢は足元に刺さり炎虎は足をひっこめて後ろに下がる。
すぐに矢が飛ばされて襲う前に炎虎に命中する。
爪でひっかこうとして持ち上がった一本の矢先は炎虎の前足に刺さった。
「謝砂宗主今のうちにお逃げください。時間を稼ぎます」
桃常たちを見るが衝撃を受けて怪我をしているが生きている。
がれきの下で立ち上がろうと動いている。
もう一度攻撃されなければ爛がくるまで持ち堪えられる。
謝砂は立ち上がって炎虎の反対側へと離れた。
木の下の屍を避けて桃展たちがいない庭園の奥へと走る。
もう一度仙筆代わりに血を出して糸をだすしかないがさっき刺した血は止まり乾いていた。
謝砂は雪花の刃に指先を滑らせて切った。
血がすっと流れてくる。
「痛っ。目の前で誰かが死ぬのは見たくない」
(紙で斬ったとおなじで地味に痛いけどこれで仙筆の代わりだ。蜘蛛の巣の糸はさっきよりも使える)
指先から謝砂の血のついた蜘蛛の巣が飛び出る。
梱仙網とおなじように炎虎を捕らえはりついた。
指先から糸に血が流れて水滴のようにぽつぽつと糸についていた。
糸を弾き血を飛ばすと星星が使っていた水滴と同じだ。
謝砂の血の滴で炎虎の硬い鱗のような皮膚をじゅわっと溶かし地肌に糸がつきぐっと締め付ける。
「やっと使えた。水泡は無理でも水滴ぐらいなら使えるんだ」
「ガウゥゥ」
口を大きく開けて牙にひっかけようとした。
炎虎は体をよじらせて地面に擦り糸から抜けようと暴れた。
糸を弾いた瞬間にぐっと引っ張られて糸がプツッと途切れた。
「あっ。やばっ」
謝砂は両腕を顔の前にあげて頭をすくめた。
「爛!」
「悪い。待たせた」
謝砂が叫ぶと爛の声が聞こえた。
ガシャンとした剣がぶつかる音に腕を下ろす。
爛の剣が謝砂の前に飛んできて虎妖の振り下ろされる攻撃を防ぎ足を斬りつけた。
高い塀を超えて木々を飛び謝砂の前に爛が降り長い外衣の裾がふわっとなびいた。
「遅い! ものすごく怖かったんだ」
謝砂は爛の背中に隠れてから怒った。
「爛様。やっぱり叫ばれてましたね」
後から柳鳳が走ってきた。
「虎妖じゃなくて炎虎だった」




