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6章10

 謝砂が槐の木をじっと見ると木の根元にポタポタと滴り落ちる血の雫が染み込む。

 地面に落ちて邪気の強い黒い煙となっているのがはっきりと見えた。

「木に染み込んだ怨念が強くて煙が出てくるんだ。桃展たちでなんとかならない?」

「煙を斬るだけで手一杯です。僕の目にはまだどこを狙えばいいのか謝砂宗主しか見えてません」

 桃展は飛んできた黒い煙を手の首をうまく回しながら弧を描くように振り回した。

(垂れる血を止めるには吊るされているものを下ろすしかない。虎妖に下ろされると虎鬼になるしどうすればいいんだ。爛がいたら剣を飛ばして吊った布を斬ってもらえるのに早く帰ってきて)

 謝砂は木にめがけて護符を次々に飛ばす。

 木の枝からカラスが集団で飛び出したかのように葉を揺らして隙間から黒い邪気が飛んでいく。





 シュルっと滑るように紐が緩み吊るされていた屍たちがドサッと落ちてくる。

 木の枝と葉に隠されて見えなかったが思っていたよりも多く吊るされていた。

 しぼんだようなミイラやキョンシーのような屍ではない。

 血が大量にながれて失い生気が失われて顔は白塗りをしたように不気味なほど真っ白な顔だ。

 踵は引きずられたようで擦れていた。傷口は生々しく爪で裂かれた跡が滲み目を逸らした。

「うぎゃぁぁ!」

 謝砂はあまりにも怖くて一瞬息が止まり時間差で声が出て叫んだ。

「今叫ばなくても謝砂様が木に打ち付けて降ろしたんですよ」

 謝砂の叫び声に驚いたのか丁安が飛び出してきた。 

 丁安は弓肩にかけて立ち上がっていつの間にか謝砂の前にいた。

 丁安が立ち上がり木の近くまで駆けてきて外側に落とされた女性の一人の顔と服装を確認した。

「師姉と門弟たちです。僕がいたときにすでに虎鬼に噛まれて殺されていました」

 内側にもが口からも血を流し吊るされていたようだ。

 丁安はずっと誰かを探しているようだった。

 血がべったりと染み込んだ服だが髪飾りと整った身なりからして丁家の人だ。

 髪を解けている木の幹の近くに落ち横たわる女性に丁安の目が大きくなる。

 涙をあふれさせ手を伸ばした。

「あ、あぁ、一姉上! 安が来ました」

「今はだめです。まだ虎妖が木にいます」

「ですが姉上は僕に助けを呼びに行かせたとき生きてたんです」

 駆け寄ろうとする丁安を雪児と柚苑が必死に引き留める。

「虎妖に食われる前に骸でもいい。僕の家族の骸は食われて姉上しか残っていないんです。まだ魂が残っているなら弔いたいんです」

「丁安分かった。蜘蛛の巣で包むから落ち着いて」

 血を流すのは痛いし嫌だが丁安の前では言えない。

 自分の歯で指先を噛んだが甘噛みしかできず血を出せない。

「ごめん。もうちょっと待って」

 丁安の剣の刃先で左手の指の先をつんと突いた。

(いたいけど薬指なら普段使わないしこれぐらいならすぐに血も止まる)

 ぷくっっとスポイトで垂らしたような小さく血を親指で弾かせると細くキラキラした糸になりその人を繭のように包んだ。

「これで虎妖には食べられないし保存できた」

 丁安はずるっと足の力が抜けて柚苑と雪児に抱えられた。

 



 謝砂はせっかく出した血がもったいなくて外衣の赤い護符に血で文字をなぞり指に挟む。

 胸の前で持つと呪符が飛び文字が赤金色に木の前に浮き出てた。

 木の中に吸い込まれるように文字が入ると姿が見えなかった虎妖を振り落とすように爆竹のみたいなバンバンと音で爆破する。

 音はてっぺんまで追いかけるように駆け上がっていく。

 逃げ場をなくし木から虎妖が飛び降りた。

 よりによって謝砂の目の前に降りられて黒い煙を漂わせた大きな虎と向き合った。

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