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6章10

「丁安! 丁安しっかりするんだ」

 丁安は虎妖の目を見るなり怯えて握りしめた剣を手から落とした。

 手足が謝砂以上に震えていた。

 謝砂は丁安の肩をぐっと掴んで揺さぶった。

「教えてくれ。あの煙が虎妖?」

「虎妖が襲ってきたときと見た目が違います。妖気が増してます」

「もっと恐ろしくなったというのか」

「でも師兄や村を襲ったのと同じです。あの二つの目が忘れられない。すべてを燃やすような怨念がこもった目」

(襲ってきた黒い煙が虎鬼の正体だったんだ。虎鬼の屍である体はすでに食べて消化してるから虎妖の一部となってしまってる)

「謝宗主、敵を討たないとと分かってるのに体が言うことを聞かないんです」

(よく気を失わないでいられる。それだけですごいんだけんど)

 顔は一気に青ざめて蒼白だ。

 立っているのも限界だろうが槐の木と虎妖から目を逸らせないようだ。

「師兄が殺されたのに僕なんかが敵う相手じゃないんです」

 丁安は謝砂の後ろに数歩ずつ下がるが足がもつれてそのまま座り込んだ。

「この弓と矢預かっていてくれ。爛なら倒せるから待っていよう」

 謝砂はしゃがんで肩に背負っていた弓と矢筒を丁安に持たせる。

「代わりに丁安の剣を貸してもらうから気にするな。隠れてたって悪くないし逃げたっていいんだ」

 謝砂は落とされていた丁安の剣を拾った。

「謝砂宗主! はやく来てください」

「どうした?」

 謝砂は桃家の師弟の一人に呼ばれて立ち上がる。



「妖気が入って屍が虎鬼になりました」

 虎の影は木に登り器用に槐の木から屍をドサッと落としていく。

 細い紐でくくられていた屍に煙が口の中に入ると起き上がり虎と同じように唸り声をあげる。

 つんざくような声に顔をしかめた。

 干からびてくぼんだ屍の目が真っ赤黒くてより一層怖かった。

 屍は髪もぼさぼさで口が開くと歯をぎりぎりと擦り合わせる。

「猟師の村以外にも山で他にも殺されていたようです」

 干からびていて年齢は区別できないが男女問わず気にっていたのを木に吊るしていたようだ。

「ガァルル」

 虎鬼の口から吐き出されたような真っ黒な人魂のような煙も謝砂たちに飛んでくる。

「全部虎鬼なんだよな。普通は子供だって爛から聞いたのになんで鬼のままなんだ」

「虎妖ですから手下に山で彷徨う鬼も従えたんですよ。上下関係がはっきりしていて鬼の場合、怨念が弱く人を祟ってない鬼の場合は強い妖気や邪気に取り込まれることがあると書で読みました」

 謝砂に桃展が説明する。

「分かったから虎鬼を斬ってくれ。そのあとは起き上がらないようにするから」

 謝砂は桃展、桃常たちが虎鬼の屍を斬ったあとすぐに起き上がらないよう鎮圧符を屍に飛ばす。

 桃家の師弟たちは交互に襲ってくる煙を防いでは斬るを繰り返した。

 桃常の背後から黒い煙が飛んできていることに気づいて謝砂はビリと指先に霊力を込めて呪符を飛ばしてから叫んだ。

「桃常伏せ!」

「犬じゃありません。あぶなっい」

 謝砂に言われた通りに素直に桃常は伏せて呪符を避けた。

 呪符は妖気に触れるとすぐにバンと爆破し後ろの雪児の目の前にいた虎鬼も吹き飛ばした。

 虎鬼の腹に穴が開いて地面に倒れた。

「人に飛ばす前に言ってください。なんの呪符ですか?」

「ただの駆除符だよ。呪符と護符を大量に持ってきてるんだ。すごいだろう」

 謝砂は外衣の内側を開いて見せた。

 外衣の身頃と背中には護符をびっちりと縫い付けられて帯には呪符を束にして一周挟んでいる。

 桃常と雪児は口を開いたままで呆気に取られている。

「よそ見は危ないよ。桃常、雪児」

 桃展が二人に手を伸ばしていた虎鬼を剣で刺すと煙が体から出て消える。

 すぐに謝砂は懐から鎮圧符を取り出して飛ばし起き上がれないようにした。

「桃展、見てみろ」

 雪児が顎でくいっ桃展の視線を謝砂へと向けさせる。

「爛様が作っていた特注品ですね。謝砂兄さんよく似合ってます」

 桃展はにこっと笑って謝砂の外衣を褒めた。

「うん。もらったんだ。外衣の内側に護符の束がいっぱい縫い付けられてるんだけど薄い紙だからあまり重くはないんだけど外衣ってこんなに護符がつけて持ち歩けるんだ」

「爛様が? いつ? 護符を外衣に縫い付けるなんて知らないけど」

 桃展はむぐっと雪児の口を塞いだ。桃常は知ってるようで黙って雪児を叩いて黙らせる。

「爛がくれた外衣のおかげでなんとか気を失わずにすんでる」

 外衣をふわっと広げるとベルガモットのようないつもの柑橘の香りがして爛がそばにいなくても安心して倒れずにすんでいた。

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