6章丁家の屋敷2
謝砂は手持ちの提灯をもったまま正門から歩いてすぐ広間の入口に腰かけた。
丁安が言っていた通り虎鬼と戦ったあとのようだ。
扉は壊されていて廊下には人の足跡と引きずられたような二本の筋がいくつもあるのはどうしてなのだろうか。
部屋の中は机や椅子などの家財が壊され、天幕として仕切ってる布は裂けてボロボロになっていた。
部屋を繋ぐ廊下には土埃、屋根と塀の瓦は地面に落ち朽ちかけている。
「ここに虎鬼はいないようでよかった」
謝砂は引きずられたような線を目で追うと門から奥の塀を越えて見える高さの一本の木に目に止まった。
辺りがやけに黒くよどんでる。
黒い煙のような雲に覆われて木は雨に降られて濡れているように見えた。
側にいる柚苑の肩を掴み背中に隠れて木が見える真っすぐ前の門を見せる。
「なあ柚苑、あっちだけ雨降ってない?」
「いいえ。雲一つない月夜ですよ」
柚苑は空を見上げ手のひらを出して確かめるが降ってはいない。
「山だから木の近くだけ降ってるんじゃないですか。雨音も聞えませんよ。聞えるのは走りまわってる足音ぐらいです」
木から離れているのに謝砂の耳にはパラパラと葉に雨が打ち付けられる音が聞えてくる。
丁安は肩を落としてとぼとぼと桃家の師弟たちに寄り添われて歩いてきた。
「どうだった? 誰かいた?」
「謝宗主……。期待はしてませんでしたが人がいないというよりも骸もないのです。虎妖に食われたとしても何かが残っていると思ってたのですがありません」
丁安に謝砂は聞いた。
「見えてるあの背の高い大きい木はなに?」
「木ですか? 庭園に槐の木があります。庭園に案内します」
丁安は屋敷の部屋中を桃家の師弟たちと探し回っても見つからず走り出すことはなく謝砂たちと一緒に歩いた。
屋敷から庭へ繋がる門を跨ぎ庭園まで両脇には神社でよく見る石燈籠が並んでいて丁安は呪符を飛ばして石燈籠に明かりをつけて歩く。
「庭園には槐の木だけなの?」
「丁家の屋敷の庭園には猟師から引き受けた虎と虎鬼を弔う場所もあり、果樹園もあって広いんです」
「槐の木って珍しいの?」
丁安の隣を歩いていた桃展に聞いた。
「槐の木には出世もありますが鬼払いの木とも言われいます。屋敷ではどこにでも植えられている一般的な木ですよ。風鈴を吊るしたり細長い紐の先に重りをつけ木の枝に投げて願い事もしたりするらしいです」
「そうなんだ」
謝砂は数本もの引きずられた跡の上をなぞるように歩いていた。
引きずられていた後も庭園に入ると消えた。
「一姉いないんですか? 謝宗主と桃家の公子たちが来てくれましたよ」
丁安が木のまわりを一周して探す。
根元は庭の土色が違っているのか黒っぽい。
風鈴も飾るようにつけられていて彩りどりのリボンような細い紐が枝に括られていた。
謝砂は大きなクリスマスツリーを思い出す。煌びやかな華やかさはない。
木の下に入ると見上げた謝砂の顔に雫が落ちた。
「うん? なんだろう」
「謝砂様! いつ怪我したんですか? 血が流れます!」
「ど、どうしよう。血だ。血が流れてる。もう駄目だ」
柚苑に顔を指差されて指で触れると頬に血が流れていた。




