6章丁家の屋敷
爛は丁安を座らせて腕をとり脈を図るように触れた。
「丹薬を飲めば一刻しないうちに霊力は回復する。ご飯を食べてからこれを飲んで」
爛は丁安に黒い丹薬を渡し飲ませた。
(苦そうだ。良薬だろうが草を煎じた臭いがする)
「山に行ったが猟師たちが仕掛けた罠の道には死んだ彷徨い歩くだけの屍しかいなかった。矢で射ると消える。大した害はないが山の邪気と妖気に刺激されて昼でも出没している」
「虎の虎鬼ではなく虎妖の手下は妖鬼ですね」
「村も空振りです。血がついた服などしかなく死体はどこかに集めてから食べているのかもしれません」
桃常と桃展も話に加わった。
「村からの獣道に虎妖がいないのなら屋敷の裏側を棲み処にしているかもしれません。丁家荘は寧山へと続いているんです」
(村にいかなくてよかったかも。血を見ただけで気絶してた)
「やっぱり僕は屋敷に戻ります。もしかしたら師兄の助けを今も待って隠れているかも」
丁安は体力も霊力も回復したのかじっとしていられなくなり側に置いてあった剣を手に持ち部屋から出て行こうとする。
謝砂は扉の前に立ち手を広げて丁安を立ち止まらせた。
「丁安殿、無理をするな。屋敷にはもどるのには早くないか。えっと、なんていうか。心の準備は大丈夫か? 何を見ても大丈夫なのか。一人でいくな」
「この目で確かめないと……。迷惑をかけれません」
謝砂の言葉に丁安の顔色が一気に蒼白になる。
爛が謝砂の隣に立ち手を下ろさせた。
「しっかり食べたしみんなで夜に軽く散策にいこうか」
爛は柳鳳に言い師弟を集めた。
丁安に屋敷までの案内を頼むことで配慮した。
爛はいつものとおり剣を佩き謝砂が弓と矢筒を背負った。
謝砂は松明を皆に持たせ自分は提灯で灯りをつけて歩いた。
丁家の屋敷は暗く屋敷の門の両脇に置かれた松明に火はついておらず柳鳳が火符で火をつけた。
「明かりを消さなくてもいいんですか?」
桃展が謝砂に聞いた。
「ふつうは明かりをつけませんよね」
「ここの地域では護符代わりだと聞いたんだ。虎が来ないならいいじゃないか」
「屋敷には誰も近寄れないよ。見た目からして荒れた屋敷だし昼間でも怖いよ」
丁家の屋敷から強く邪気を感じた。
謝砂はためらったが師弟たちに押されていき腰につけていた鞘が謝砂の膝に当たる。
「うわぁ! いたっ」
がくっと敷居に躓き爛の背中に顔をぶつけたが受け止められた。
謝砂は爛のおかげで地面に激突はしなくて済んだが斜めになってどうすることもできない。
爛の背中の衣を掴み後ろに大きく一歩下がってもらった。
謝砂は無事にまっすぐ立つことができて手をはなす。
鼻をぶつけて手のひらをあて確認したが鼻血は出ていない。
親指と人指し指で鼻をつまんでくっっと上に引っ張った。
「謝砂はなにをしてるんだ?」
「鼻がへしゃげたら困る」
「ごめん爛。あいつらが押したんだ。誰だよ! 危ないだろ」
爛は振り返って謝砂の腕を掴んだ。
謝砂は吊り上げられるように敷居を跨いで屋敷に入る。
「謝砂宗主が立ち止まるからですよ」
「謝兄さんの方が危ないです」
「門には敷居があるんですから大きく跨がないと」
「爛様に迷惑です」
桃家の若い師弟たちに口々に言われて切なくなる。
「迷惑って心配してくれないんだな」
「門は壊されてるのに敷居を跨げないなんて」
屋敷の中は明かりがなく松明を照らして歩いた。
柳鳳と爛は山に向かって別行動をとり、謝砂と丁安、師弟たちは屋敷内を探すことになった。
「ただいま戻りました。安です。母上、一師姉、二師姉たちはいませんか? 師妹たちはどこに隠れないで出ておいで」
丁安は屋敷内を走って探し回るのを桃展と桃常に続いて桃家の師弟たちが後を追いかけている。
柚苑と雪児は爛の言いつけ通り謝砂のそばに残っていた。
「弓使うんですか?」
「狩りには弓だと言って爛が持ってきたのを奪ったんだ」
「雉は爛様が狩った獲物だったんですね」
「村で柿をみたか? 大きくて赤くなった柿らしいんだけど」
「軒下に吊るされてるのは見ましたよ。違うんですか?」
「干していたのは干し柿だから違う。皮をむいて枝を刺したり紐で括って雨で濡れないように外に干しておくと水分が抜けて美味しい干し柿になるんだ。けどそのままじゃ渋くて食べられないんだ」
「へぇ。そうやって干し柿って作るんですね」
「お坊ちゃんたちだって忘れてたよ」
「謝砂宗主だって大差ないと思っていましたけど爛様と年齢差を感じません。爛様の方が若く感じます」
「爛は何歳? 大差ないだろう」
「謝兄さんと六か七歳ぐらい離れてますよ。僕たちとは十歳ぐらい」
「そんなに離れてたの? 気づかなかった。見た目が若すぎてまだ青年だとばかり」
(紗々としても爛は年上だったのか。意外すぎて衝撃が強すぎる。そんな素振りないし話してても違和感がない。師弟から爛様と呼ばれているのも納得だ。オッサンじゃなく美少年いや美青年の美しさ。人として男として納得できない)
「忘れてたんですね。僕たちも爛様の師弟の方がいいです」
「柳鳳の師弟だろう悲しむぞ」
「柳鳳師兄だって爛様の師弟だと言い切ってますよ。本来なら柳鳳師兄は桃素貞様の師弟ですが爛様について歩き、謝砂兄さんにどれだけしごかれても姜殿に会いに行きますよ」
「柳花も素貞殿の系譜?」
「柳花師姉と柳鳳師兄は前宗主の命をうけて柳家ではなく爛様の護衛として桃家に入っています。爛様と一緒に修錬をし爛様が育った右手と左手と言われています」
「爛のこと知らないことが多いな」
「僕たちよりも知っていると思いますよ」




