6章8
山から下りて宿に着くころすでに日が落ちていた。
宿のまわりは提灯や灯篭が灯されていてすごく道が明るい。
「柳鳳たちはまだみたいだね」
爛は宿の主人に雉を渡していたが謝砂は見ないように受付の隅に立っていた。
外を眺めていると松明を持ち火をつけて歩いている人を見かけた。
「立派な雉ですね。夕飯にお作りします」
「風呂の用意も頼む」
部屋に案内されながら謝砂は宿の主人に尋ねた。
「何か祭でもあるの?」
「あっあの松明のことですか? 祭とは違います。風習なんです」
「いつものことなの? 寒くなってきたとか日が短くなったとかで灯すの?」
「そういうのもあると思いますが今は虎がでると言うので灯りを夜も消さずに灯しているんです。鬼も虎は火を怖がるっていうじゃないですか。丁家という仙師のお屋敷が町から少し離れたところに建っているんですよ。丁家の仙師様から昔から教えられているんです。山に虎や鬼が出たときに町に出てこないように松明を家の門前に置いて火が消えないように見張っています。火消じゃなくて火付けという夜回りをするのが珍しいとよく言われます」
「へぇー。火消じゃなくて消えないように火の番をするんだね。鬼を防ぐなら護符じゃないの?」
謝砂は謝家が配っていた護符を思い出した。
謝家の近くの店や家の門には護符がはられているのを見てきた。町の中に松明はあっても寝るときには消されている。灯りは提灯や行燈だった。
「あははは。面白いことをおっしゃいますね。護符だなんて仙師様が直に書いていただかないと意味がないもの市井の屋敷には配られませんよ。求めにも行けませんし町で売られているのは気休めの詐欺です」
ちらっと爛を見るがうんと頷いた。詐欺ってどこにいってもあるようだ。
(そうだよな。いっぱい集めたから分かる。自分の場合は気休めと分かっていて集めるのが趣味だった。自慢じゃないが収集コレクターとして目は肥えて鍛えられてるし、品定めできるぐらいは専門家だ)
「しかもこの辺りは虎ですから護符なんて意味もないですしね。昔から虎が住んでいる山なので虎鬼が出る前に虎を猟師が狩り、近くの仙師のお屋敷に狩った虎を納めるんです。だから虎鬼が町まで害を及ぼすことはないんですよ。ではごゆっくりしてください」
爛が案内された部屋に入り謝砂は隣の部屋を案内される。
部屋の扉を開ける前に案内人を引き留めた。
「ちょっと待って。広い部屋に一人ずつじゃなくていいから爛と一緒でいい。ご飯も二人分一緒でお願いするよ。連れがくるから代わりにこの部屋を案内してくれ」
「はい。わかりました」
宿は怖くてとてもじゃないが一人で過ごせる自信はない。狭くても怖いが広すぎても怖い。
部屋数が少ないという理由で二人一室にすれば問題はない。
案内された部屋は広くて板の間が2つあった。
「宿ってなれないんだよね」
謝砂は当たり前のように爛の部屋に入っていく。
「頭に枝や枯れ葉もついているままだぞ」
「誰のせいだよ。髪に絡まったんならとってくれ」
爛にぐいっと頭を突き出した。
爛は黙って謝砂の髪についた小枝や葉っぱを抜いていく。
「髪は抜かないでくれよ」
「分かってる。謝砂は顔も汚れてる。土を食べる前に風呂に行った方がいい」
顔を擦ると細かい土が指についた。
「言いたいことは分かった。風呂行ってくる」
謝砂が風呂から先に戻りくつろいでいると爛も戻ってくると雉鍋が運ばれてきた。
「美味しく頂くのが供養だもんな。いただきます」
謝砂はぐつぐつ煮込まれている鍋に向かって手を合わせた。
「肉は新鮮だ。謝砂、二人だけだから言ってもいいけど気をつけろ」
「野菜も豆腐も味が染みておいしい。すき焼き風で思ってたよりもうまい。肉も歯ごたえがあっていい」
「焼いたのも美味しんだ。お代わりもあるからたくさん食べて。美味しかったならまた狩るよ」
「うん。新鮮で美味しいのが分かった。狩りの魅力なんだな」
謝砂は雉もいいかもと狩りの怖さを忘れて食べた。




