6章5
謝砂と爛は蔵書閣から出て町へと並んで歩いた。
桟橋に続いている町は人で賑わっていた。商人や旅人たちも大勢いる。
匂いに我慢できず蒸されていた饅頭を一つ買い爛に半分を分けて歩きながら話していた。
「爛は蔵書閣で探し物は見つかった?」
「鼈の怪についての書がないか調べていたんだ。妖力を蓄えた鼈の怪の中には妖丹ではなく鼈宝というものが腹の中にある。眼が良くなると記載されているが第三の眼だ。霊眼のことを指していると考えていいとは思う」
「第三の眼って額にある目とか? 星星は6個額に目がある」
「額じゃなくて第一は光や色の認識をする六識の中の眼、第二が人でないものを見る眼。つまり霊識で見る眼。鬼とか妖怪、妖獣を見る眼のことだと言われているんだ」
「そして第三の眼を霊眼と呼ぶ。霊力で見る眼のことだ。同じ第三の眼でも妖眼かもしれない。霊眼も妖眼も同じだと思うが妖眼は妖気や邪気を帯びた妖怪、鬼の眼。霊眼は霊気を帯びた霊獣の眼で邪気や妖気で傷ついた魂が見えるとも言われているが実際には見たことがない」
(段階のことを指すのか。額に眼があってビームをだすとか想像してたんだけどな。言わなくてよかった。説明できないし)
「違いはないから考えなくていいさ。どちらも同じだろう」
「そうだな。謝砂は霊眼を持っているから気にならないだろう。星星と同じ眼で見えるのは契約する前から霊眼で見えてるから馴染むのも早いんだ」
(招魂された魂が入ったから妖魔や悪鬼の括りで霊眼で見えてるというのか。でも霊獣って呼ばれたらかっこいいかも)
「もっと調べないと詳しくは分からない」
謝砂はもぐもぐと爛が話している間に口を動かし食べ終えた。
軒を連ねる店を見ていくと商店街のような雰囲気だった。
刺繍をした巾着の店や織機の音がして覗くと反物や服を作ったりする店もあり、書を扱って売っていたりしていた。
「謝砂兄さん! 爛様こっちです。麺料理ならここだと招功様が教えてくれました」
柳鳳が出てきて食べ終えた師弟たちと入れ替わるように店に入った。
頼んでいてくれたのか暖かい麺料理が運ばれてきた。具はひき肉でスープは黄金色。
「これでたったの三文」
ちゅるちゅると麺をすする。
「招功に確かめたけどよく人手が欲しいと言って師弟たちを貸してもらえたよな」
「言い出したのは謝砂だろう。知ってるから隠すなよ」
謝砂はごほっと咽た。気道がおかしくすすった麺が鼻に入ったようにツーンと痛い。
「謝砂すまない。桃家の傘下など戯言を聞かされたんだろう。私のせいだ」
(帳宗主が話したんだな。謝家に来てから一人で閉じこもってた理由が分かった。調べものは言い訳だ)
「逃げれる問題は最大限逃げないと。立ち向かわなくても済むように逃げる道があることが大事なんだよ。爛も立ち向かわずに嫌なことからは逃げろ。招功が人手といったのは知らなかった」
「逃げれない問題が一つある」
「なんだよ。逃げれないことなんてないだろう」
「小仙家が相談に謝家の傘下である帰家を尋ねたらしい。そこの当主が帰家と知り合いらしいが虎鬼が出没し村を襲っているという。虎鬼が人を殺すのはありえないが帰家が訪れるとその小仙家の一族は皆殺されていた。手に負えないと思った帰家が謝家に助言ではなく駆除の助けを求めてる」
謝砂は衝撃で箸を落とした。転がった箸は入ってきた男の客に拾って渡してもらう。
「ありがとうございます。あれ見覚えがあるような」
男は受け取った謝砂をじっとみて、正面に座った爛を見るとあっと口を開けた。
「探してたんです。謝家のお方ですよね? 桃岳泰山の薬果酒を覚えていますか?」
「うん。あのときの酒屋さんか。美味しくてすぐに飲み干したよ。また枇杷酒を飲みたかったんだ」
「あなた方を探してここにきたんです。公子は仙師のお方ですよね。先に帰家に立ち寄り話を聞いていただけ伝えておくと。公子は本家の方の服だったと知り謝家荘の近くにきたんです」
「もしかして虎鬼のこと?」
「すでに知っていらっしゃるとは。その山は柿の産地でそこにしかない生えない柿は山吹色から紅葉のように赤く色づいて完熟になるとじゅるっと吸って食べれる実なんです。そして酒に漬けてもとっても甘い果実酒になるんです。ですがいつも取引する村が襲われたと噂に聞き山にも入れないので様子だけでも知りたいんです」
「そうか。怖いけど柿は食べてみたいな」
呟いた言葉は爛に拾われる。
「分かった。私たちで引き受ける。謝砂は謝家の宗主だ」
「ありがとうございます。お若いので公子だと勘違いして失礼をお許しください。私は呉健吾と申します。礼に酒をたっぷり漬けて謝家に届けます」
(美酒には代えられない。修練というのだから師弟を向かわせくれるんだろう)
「いいよ。引き受けるけど様子を見てくるだけでもいいかい?」
「もちろんです。それだけでもありがたい」




