6章3虎鬼の噂
「最近各地で鬼が出没しているから夜道は控えたほうがいい。夜には必ず閂をして閉じろ」
桃岳泰山での祭が終わり地元へと戻っていく道中は立ち寄った町では噂話に尽きなかった。
持ってきていた酒はすべて売れて馬車は代わりに仕入れた果物を運んでいた。
熟れるまで寝かせるため家に着くころにつけ頃となる。
桃家の仙府からかなり遠ざかった町中でも噂は広がっていた。
山道では鬼に遭遇するのをさけるため日が出ている間だけを移動し夜はなからず町中にいた。
取引先の店に立ち寄るとまた噂が増えていた。客たちが口々に話をする。
「薬果酒の旦那は無事だったんだな。よかった」
「旦那なんて滅多に呼ばないのに何かあったのか。物騒だな」
「これはいくらいだい?」
「少しお待ちを。旦那待っていてくださいね」
出された茶を飲み客が引くまで座って待っていた。
客同士が酒を選びながら話しているのを聞いていた。
「聞いた話では山では人食い虎が出たらしいぞ。出会ったら最後魂まで残らず喰われるんだ」
「山で虎は猟師が狩りをしていないのか?」
「その猟師が喰われたんだよ。山中で虎を狩っていた漁師が今月になって五人も喰われたんだぞ。嘘じゃない。猟師が住んでいた近くの村では虎鬼が現れて全員虎鬼に殺されて妖虎に喰われたんだと」
「管轄する仙家は退治できるかわからん。だから今は山には入るなと警戒して回っている」
聞いていた噂話に口を挟んで尋ねる。
「近くの村と言えば柿で有名なところかい? その村には知り合いがいるんだ」
「そうなのか。でも一人ではいかないほうがいい。小仙家の仙師は相手にできず塵家が募ってる傘下に新しく入った小仙家の管轄地は塵家の門弟が赴いてすぐに退治してくれるらしい」
「そうなのか。塵家は桃家の傘下じゃなかったのか?」
「虎鬼がいつ町に出てくるかわかったもんじゃない。世家の仙師様には噂は伝わらないのか」
「仙師様に助けを求めてみよう。酒を買いにきた公子なら憶えているし気さくな方だった。服の刺繍が謝家の燕だった。一人の公子の顔は忘れられない美貌だったから覚えてるし。駄目元でも謝家に寄ってみるよ。あそこは話を聞いてくれるかもしれない」
「謝家の管轄しているところはまだ鬼は出ていないだろうし。道中気を付けて」
謝家に向かう道を馬車を走らせた。
修宴が終わり謝砂たちが謝家に戻ってからは神輿の後片付けと妖丹の邪気払いをして過ごしていた。
爛と一緒に謝家には柳鳳と師弟たちが十数名が訪れた。
「謝家に師弟たちが堂々と修練に来ておかしく思われないの?」
謝砂は爛に聞くと「謝家が申した褒美だ。私も含まれてる」と言われた。
宗主がしなければならない雑務を招功が代わりに振り分けていた。
「招功聞きたかったけど桃家に何を申し出た? 宴で言えなかったから後でと言っていたんだけど」
「人手が欲しいと言いました」
「人手?」
思わず聞き返すとバンと卓に積まれた木簡や書が崩れた。
「謝砂様、分かりませんか? 謝家は嶺家の手伝いも残っていますし、妖丹の邪気も祓うか鎮圧して封じるには人手が足りないんです。それに管轄内で鬼や報告があれば赴きます。師弟や門弟の修行もしなければと手一杯なので代わりに頼みました」
「そうですね。ありがとうございます」
姜は柳花を心配しているのだが桃家で素貞と行動していると柳鳳が説明していた。
桃展、桃常は途端歓迎されて謝家の師弟たちに混ざって光霊石の修復の修練に励み、雪児と柚苑は招功につき呪符を学んで柳鳳から逃げた。
残された桃家の師弟たちはしぶしぶ柳鳳に剣術の指導を謝家の門弟たちと受けている姿を謝砂も眺めていた。
「爛様は今日も籠っているんですか?」
「うん。爛の邪魔しないように修練場で見てるんだ」
爛は謝家にきてから謝家の蔵書閣に一人で調べものをしているようだった。
「見てるだけじゃなく謝砂様も剣術の修練しないんですか?」
「うーん。だいぶ覚えたよ。でも剣って扱えない」
「謝砂兄さん……。宗主が言ったらだめですよ。体で覚えるんですから。剣術を競う大会で謝砂様は以前優勝してましたよね。もう三年ぐらい前に飛び入りで謝家から出場しましたよね」
「覚えがない」
(記憶は引き継いでないし知るわけないだろう。体が覚えてるからとっさには剣が使えるんだな)
柳鳳はあきれてため息をついた。
「柳鳳師兄、お腹すきましたよ」
一人の師弟が言うとつきつぎと声があがる。
「休憩にしたら?」




