29話宴の膳
「今回は塵家でご用意された宴です。ですのでいつもとは場所が違います。新しく塵家に招かれた小世家の方や、個人の修仙の席もご一緒に用意されているのです」
(大きさで言えば家宴は公民館だったんだな。今が大きな体育館だ。こんなに広いなら誰がいるかなんてわからないんじゃないか)
「案内はここまででいいよ。どこに座るか決まってる?」
「空いているお席ならば問題はございません」
「分かった。下がって」
見渡すと煌びやかな宝剣のような剣を携えた修仙ばかりだ。
(着飾っていてちょうどいいのか。孔雀のような煌びやかな中に燕が一羽だな)
謝砂は一人で扉に近くて人目につかない席を探した。
ちょうど端っこで誰も座っていない席を見つけると人が座ってる卓の間ではなく通路にわざわざまわって酒や料理を運んでいる家人たちに混ざって廊下の端を歩く。
「謝家の若当主殿! お待ちを」
「えっと……」
低く野太い声で呼び止められ肩が上がった。
謝砂に気づいた家人たちは謝砂の通り道を塞いではいけないと速足で歩き謝砂も速足で歩くが追いかけっこをしているみたいだ。
ずんずんと追いかけて来られて仕方なく目立たない支柱の近くで立ち止まった。
(まったくどうして気づかれるんだ。誰の邪魔もしていないだろう)
髭を生やし貫禄というか全体的に朗らかなで熊のような雰囲気の男性は年は四〇歳ぐらいだろうか。
「謝砂殿! こちらにいましたか」
「ど、どうかしましたか?」
(この世界にきて仙家の人でレスラーみたいな見た目の人は初めてだ。普段なら怖いんだけどニコニコしていてなんか普通の人がいるってことに安心感と親近感が湧くな)
ぎゅっと手を握りしめられた。力は入っていなくてふわっと包まれる。
謝砂が呆気にとられて黙っているとぱっと手を放し胸の前で手を重ねられる。
「帳大韓が謝宗主に挨拶をいたします。私の息子の荻から聞きました。雲児から魂に帯びた邪気も祓って頂いたと聞き探していたんです」
(帳荻が息子ならこの人は帳家の宗主だよな。帳荻のお坊ちゃんのイメージと違いすぎて結びつかない。あれだ、多分母親がすごい美人だからだ)
「爛様には先に礼を伝えたのですが謝宗主は倒れていたので遅くなり申し訳ない」
「お気になさらずに。助けているのは爛ですから礼は爛に言ってもらえれば十分です」
「謝砂宗主はその冷めきった目だけで鬼も近寄らないという冷徹容赦なしと伺っていましたがお会いするのは理理殿の成婚の宴以来の二度目ですね。謝家は桃家の仙府と隣接していますが離れた西域が帳家の仙府ですからね」
(鬼も近寄らないって何をしてきたんだろうか気になったら負けだ。招魂されてから自分が悪霊と同列のような言われように仲間だと思えばいいのか)
「帳家として謝家の修復術こそが仙術の極みだと感服しました」
「帳宗主! さすが血は引き継がれていますね。お坊ちゃんたちだけで泰山の山頂まで登山し倒した妖鬼の数も百世家の中で名が上がりましたね。順位が発表されましたよ」
「順位?」
通りすがりに帳家の宗主に挨拶を交わすが、謝砂が聞くと視界に入ったか突然きょろきょろと視線を泳がせて話すのを止めて遠くに座りに行った。代わりに帳宗主が答えてくれる。
「順位の発表はこの宴で話されます。よろしければ隣に座って説明いたしますよ。爛様から頼まれていますので謝宗主の壁となります」
(ぐっと寄られると圧がすごい。眼圧がすさまじくて断れない)
席につくと藤蒲で編まれた敷物の上にふわふわの座布団と座椅子が用意されていて腰を下ろした。
倒した妖獣、鬼の数と強さは妖丹の数で順位がつけられるらしい。
上位の名を呼ばれているようだが謝砂は念仏のように聞こえてきたときちょうどよく卓に運ばれてきた食事に目が覚めた。
とくに収穫祭だけあって秋の味覚が勢ぞろいしていた。なかでも新米である米は艶があり金色の栗ご飯に松茸の吸い物がついてきた。
「これって松茸?」
謝砂は運んできた家人を捕まえてこっそりと聞くと頷かれた。
(初めてだ。いつもお吸い物の素で作った松茸ご飯もどきしか食べたことがないから。本来の味なんて区別できないけどありがとう)
謝砂は噛みしめて味わって食べていた。




