29話宴の身支度
「うん?」
姜の髪の毛が顔をくすぐって目を覚ました。
「なにしてるの?」
「お兄様、まだ寝てていいですよ」
目を覚ましたというのに起き上がろうとするとグッと肩を押さえつけられた。
姜はそのまま謝砂をペタペタと肩や腕を触ったり紐や布を当てて確認をしているようだ。
「終わりましたから。起きてもいいですよ」
やっと起きれた謝砂は見慣れない部屋の一室で寝かされていた。
「お兄様、桃岳泰山でなにがあったのかは招功師兄から聞いています。妖丹の数も謝家は自慢できるぐらいですが塵家が鼈の怪を祓った功績として隕鉄の腕輪を望まれて贈ったそうです」
「驍家の腕輪のことか? 傀儡を操っていた」
姜は怒りながらも茶を湯呑に注ぎ自分が飲んでから継ぎ足して謝砂に渡した。
卓の隣に座ると草餅が皿の上に置かれていた。
お腹が空いていて一口かじるとヨモギの苦みとあんこの甘さが染み渡る。
「腕輪は元々お兄様が献上した品なのに横取りです」
「瑛のことを考えると謝家に置いておくべきじゃないからいいんだ」
「そうですけど」
ぐっと姜の口に草餅を押し込む。
「これおいしいな。店はまだしてるか? お腹空いたんだ」
「三日間が過ぎたのでお腹も空いてるでしょう」
「三日も寝てたのか?」
「違いますよ。正確には3日目の夜明け前に三度目の花火が上がります」
「それはいいことなのかな」
「修宴が開かれる間、桃岳泰山にいると時間の感覚が無くなるんです。妖獣たちや鬼たちの時間の感覚なので花火で知らせてたんですよ。謝家も全員が下山しています」
「寝すぎないでよかった。姜ちゃん、瑛はどこ?」
瑛も来ているはずなのに声も聞こえないし爛の姿もいない。
「今は爛様と一緒にいますよ。瑛と廟の外に迎えにきたんですがお兄様が爛様も帳家の公子に支えらえてるし、お兄様は気を失っていてびっくりしたんですよ。聞いてますか?」
「下山したら瑛と店を回って食べ歩きに行こうと思ってたのに」
「お兄様は今夜開かれる宴には参加しないと」
「一人でなんて顔出してすぐに抜けていいかな?」
「いいですけど世家の各宗主が揃う場です。爛様はご出席されないので気をつけてくださいね」
姜が室から出ていくと星星がふわっと窓を開けて人の姿で謝砂の前に姿を現した。
「星星? 普通に入って来いよ」
「謝砂大丈夫? 霊力を一気に消費したのね」
呼ばれてにっこりと笑みを浮かべすっと謝砂の頬を指先で滑らすように撫でた。
触れられたところがひんやりと冷たい。
「怖かったからだよ。力貸してくれて糸出してくれてたんだろう。ありがとう」
「もちろん。謝砂の霊力で扱えるようになってるもの。それにしても桃岳泰山では霊力を使いすぎよ。爛にさせておけばいいのに」
「それよりもねえ、謝砂。招功殿は優しいのね。謝砂が寝てる間に街中を案内してくれたのよ。泰山で力を貸したお礼だってくれたの」
木で作られた櫛を見せつけた。
「お前たちは自由だな。姜も柳鳳と一緒だったみたいだし。爛は瑛を連れて歩いてるなんて羨ましい」
扉が開くと着替えを持って姜が戻ってきた。
「お兄様。着替えますよ。星星姉さんもいるんでしょ?」
「姉さん? いつの間に親しくなったんだ?」
「秘密よ。お姉さんだからいうこと聞きなさいね」
星星は謝砂の膝の上に座った。
(重みはないんだけど。瑛をのせてるのとはさすがに違うしどうすればいいんだ。姜ちゃんだっているし)
謝砂はぐっいと外衣を肩から脱がされる。
「ちょっと、どうしたんだ?」
口から煙を吐くようにシュルっと糸出して指先につける。
「お姉さん姜も手伝います」
(えっ? ちょっとどういうこと? 爛がいない間に襲われるの?)
頭が追いつかないまま服を脱がされてあっという間に着替えさせられた。
「着飾ったって最後は顔だろ。どうしようもないって」
真っ黒な外衣は白金の羽がちらされていて燕が飛んでいるようなシルエットが背中に大きく刺繍されている。
一つにまとめられた髪は持ち上げてポニーテールだ。
最近はこの世界で髪型が落ち武者スタイルじゃなかったことをありがたいとプラスに考えることにした。長髪というのにもなんとか最近受け入れた。
星星の糸を髪紐に使ったらしくわざと髪の間に糸を混ぜている。
垂らされた糸に小さな水滴が飾りのようにキラキラと光っている。
「ふぅ。こんなに気合いれるのか?」
「お兄様は謝家の宗主です。以前は準備をご自身でもしていましたよ。今回は姜がお兄様が選びそうな柄を用意したんですが気に入らなければ他にも運ばせますよ」
「これ――、これがいい」
(これでいいと口を滑らせたら最初からまた着せ替えが始まりそうだ。ご飯だけ宴で食べて去ればいい。鏡で自分を見なければい)
卓に用意されいた扇子を少し広げてパチンとならし手に持った。
「謝宗主お迎えにあがりました」
家人に案内されたのは桃岳泰山が見えるように作られている広間だった。
ぐっと長い裾を持ちあげて案内されるまま歩いた。




