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29話鼈宝

 塵昌達が下山した二度目の花火に乗じて山頂近くの湖に雷が落ちた。

「地面がわずかに揺れてますね」

「塵宗主の陣が発動して雷を落としたんだ。気づかれないよう足を止めるな」 

「やはり鼈の妖怪がいたんですね」

「一緒に登山した門弟は宗主と一緒ですか?」

「すでに宗主の傀儡だ」

「泰山の妖獣、鬼たちは宗主が引き寄せた餌だ。妖獣は妖丹で操られて湖に修仙が近づかないように宗主が出没させている」

「塵宗主である塵千(じんせん)様の正室の息子である塵辰(じんしん)兄君と前妻の子である姉上と私は立場が違う。宗主の子は塵辰兄上だけだ」

「塵昌様、謝宗主に相談しては? 桃家には言えなくても謝家も名仙家ですよ。魂を修復してもらえれば宗主から逃げられます」

「今ではない。今言えば姉さんと塵家に残してきた私たちの師弟たちの魂を砕かれる」

「ですが。塵昌様と塵有眉様の二人だけでは塵家はもう防げません」

「私は前日に呼ばれたときに命をうけたのは妖丹集めだけだからお前たちも大丈夫だ」

「顔色が悪いですよ。妖気にあたったんですか?」

「気にするな」

 塵昌は門弟の肩を叩き頷くが幻聴のようにずっと頭の中で聞える声が耳鳴りのようにしつこく繰り返される。

「塵昌、泰山に鼈怪(べっかい)を呼んだ。あれは私が陣をはり泰山に集めた妖丹を持つ妖獣を喰い妖力の向上を図った採捕によって妖丹と魂霊丹の力によって鼈宝を腹の中にあるはずだ。泰山では犠牲をだしても罪には問われない」

「承りました」

「桃家の傘下の二番煎じだが塵家としてこの修宴で独立を宣言し門弟を大勢招く」

「女である有眉は泰山には入れない。かわりに塵辰(じんしん)を連れていく」

「塵昌は妖丹と実力のある修仙を集めろ。それぐらいはできるだろう」

 塵昌はぐっと奥歯を噛みしめて足を進めて下山した。

 鳥居の下を通って廟の前に到着しやっと深く息を吐いた。

 


 


 泰山の山頂近くにできた大きな池の淵に大きな岩が浮かんでいた。

 黒く銀色の外衣をまとった二人の姿が水面に映る。

「塵宗主、あの岩のようなに飛び出ているのが鼈怪(べっかい)の甲羅なのですね」

「そうだ。今から天雷陣を敷く」

 塵宗主は剣先で陣を描き池の中心に飛ばすと赤く光って池の中へと沈んだ。

 そして小さな八法陣を甲羅の上に飛ばした。

 的の陣が光ると一斉に塵家の枹をまとっていた門弟が現れて甲羅に剣を向ける。

「塵宗主、この者たちは門弟でも傀儡ですか?」

「魂を妖丹に吸わせすでに私の傀儡と化している。陣をめがけて攻撃をする」

「分かりました。あの八法陣は逆陣で傀儡を操るんですね」

 鼈怪は口を開けて傀儡を喰おうと長い首を伸ばした。

 一本の剣を飛ばし一体の傀儡の腕を斬り落として鼈の顔に血を浴びせた。

 陣を移動し池の中央へと傀儡を移動させる。

 鼈怪は斬られた腕を口の中にいれると食欲が湧いたのか血の臭いにつられて湖の中心に移動した。    

 巨大な岩のような鼈は釣られて移動し池に敷かれた陣の中に体を入れた。

 花火が上がるのに合わせて陣を発動させた。

 稲光はドンという天雷で鼈怪の甲羅を一瞬で黒焦げにした。陣の中にいた傀儡も一緒に燃やす。

「傀儡も燃えて残らず鼈怪の硬い甲羅も天からの雷を召喚して打たれれば必ず燃え尽きます。陣で召喚するとはさすが宗主であるお父上の力です」

 手から一撃を出すと甲羅は散っていく鼈はまだ黒い目を向ける。

 塵辰はぐたっとした鼈怪が立てないよう足と首を斬り腹を裂いた。

 どす黒い妖気を帯びた血の中を剣で探ると鼈宝(べつほう)が光った。

「これが宗主が求めた宝ですか? 魂霊丹のように小さい珠ですけどまさしく眼球ですね」

「それが地獄まで見通すともいわれる由縁だ」

「炎のような珠の中心の黒い瞳は瞳孔のように大きくも細くもなる」

 剣に指を滑らせて鼈宝に血を数滴たらすと光を放って宙に浮かびあがり塵千の額に焼け付くように入っていく。

「かはっ――」

 塵千は血を吐いてガクッと片膝をついた。

 目を瞑り体を支えた剣の柄に血が流れる剣の柄に甲羅のような模様が入り赤黒く光った。

 再び開くと塵千の目は鼈宝の色へと変わった。

「これで霊眼と同じ力を得た。妖力から得た妖眼というべきか。鼈怪と契約を交わして私の仙剣に入った」

「血の契約おめでとうございます。当主」

「目的は済んだ。さっさと下山し三度目の花火のあと宣言するとしよう。傀儡になった魂は傷ありだ。泰山でこのまま邪鬼となるだろう」

 塵千が袖を一振りすると陣辰と二人を黒い煙の中に消えて行くのを二つの目がはっきりと見ていた。

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