29話休憩の棗
「蜘精の気配はないのに巣だらけなのに鬼しかいない」
「これは霊獣の蜘蛛の巣だ。鬼が魂を捕らえられているのが見えるだろう。今いる鬼たちは謝家と爛様たちで祓い終ってしまう」
「だれの霊獣なんだ?」
「謝宗主だよ。今までも恐ろしかったが蜘蛛宗主だ。桃爛殿と謝宗主と言い合ってるぞ」
「おいどうしたんだ!」
色々な話し声が聞えて謝砂は爛の背中から顔を出した。人が多いと安心できる。
「しっ! 謝宗主とは目を合わせるな。蜘糸で捕らえられてしまう」
「別の場所に行こう」
「洞窟のなかに鼈の妖怪がいるらしい。腹の中に「鼈宝」という宝を持っていてその宝で目が良くなるらしい」
「今回の宝だな。だが鼈だろう。相手にはしたくない」
やや離れた距離で話す声が謝砂の耳に入っていた。
(この先に鼈の妖怪がいるって言ってるみたいだな。巻き込まれたらかなわない。この辺で花火が上がるのを待つか)
謝砂はよしっと頷いて決めると突然木にもたれてへたり込む。
「はぁ、はぁ。走りすぎた。一旦休もう」
謝砂が言うと招功が護符を八角形になるように木にはっていき結界が完成した。
斜面だが結界を作った中はじんまりとしているが十分座って休憩出来る。
謝砂は隣に座った爛の手を取り手巾で手を拭った。
「虫触った手は拭かないと」
「そのためだけに休憩か?」
「いいや。お腹すくと思って厨房から干し棗を持ってきたんだ」
大き目な巾着を取り出して親指ぐらいの棗を出し一人ずつ配る。
「おにぎりつくるときに厨房にあったから少し持ってきたんだ。棗ですって主張する匂いだな」
謝砂には干した棗を健康的なポップコーンだと思っている。
口に含んでかじるとスポンジみたいなふわっとした食感からしゃくしゃくに変わった。
林檎に近い味でしっとりとした棗の甘味が広がる。
「泰山で休憩を取ってるのはきっと謝家と僕たちぐらいですよ」
「休憩は大事だ。怪我禁止、単独行動禁止を忘れるなよ」
「棗の食べすぎは良くない。一日五個までだ」
爛が途中で謝砂から取り上げる。
「向こう側が騒がしいですね。見に行きますか?」
「嫌だ。もう下山しよう。中腹ぐらいまでは歩いたんじゃないか?」
背後に虫の気配がしてくるっと振り返った。
爛と招功もぴくっと同じように木々の間を見た。
「どうしたんですか?」
「後ろから怪しい音がする。結界の中だし大丈夫だよな」
爛と招功は剣に手をかけた。
「兄さん風ではないですか?」
ブーンとすさまじい羽音が聞えてくる。
全長が三十センチありそうな顔よりも大きな蜂が謝砂たちの横を通って行った。
追いかけて山を降りてくる地面を滑る足音が聞えた。
「土埃が舞ったじゃないか!」
護符に蜂の羽が擦れて護符が剥がし羽に張り付くと一枚の羽が燃える。
「ぎゃあ! 巨大蜂じゃん! なにあれ?」
謝砂はすっと爛の後ろに隠れた。
煌びやかな白い枹を纏った青年が一番はやく駆け下り手に持った剣を突き刺し血を飛ばして陣を発動させた。妖虫の大蜂を捕らえて陣の中で雷を落とした。
「これは謝砂宗主と爛様」
「塵昌だな。参加してたんだな。久しぶり」
「追いかけていたんですがすばしっこくて。足止めありがとうございます。獲物はもらいましたよ」
「どうぞ。どうぞ。もらっていって」
謝砂は手を出してどうぞっと合図を送る。
「早いですが謝家の門弟の方々と桃家の公子方のおかげで邪鬼は退治されましたので二度の花火が上がったら下山します。それでは私たちはこれにて」
塵家の門弟の列に服装の違う様々な修仙の姿が混ざっていた。腰に玉佩をつけている。
「傘下に入られる修仙の方々もぜひご一緒に下山を。妖丹や鬼を倒したのであれば名士として門弟に招くように言付かっています」
「あの塵家の門弟になれるとは桃泰山に登山したかいがある。俺たちもついていこう」
遠巻きに様子を伺っていた者たちも集まって列の後ろに混ざった。
謝砂と爛に手を合わせて挨拶を済ませると門弟を連れて山を降りていく。
塵昌の隣を歩いていた同じ枹をまとった師弟が声を潜めて聞いた。
「塵昌殿これでいいのですか?」
「ああ。私たちは巻き込まれる前に泰山から下山しろと姉さんから言われている。塵宗主にも命じられているのは妖丹集めだ。これだけ集まれば罰は与えられない」
塵昌が顔を上げると二度目の花火がバンと空に上がった。




