閑話:シンイチとミサ
俺がミサに会ったのは、FPSゲームの大会やった。今みたいにネットにつながったなんとか…が当たり前の時代ではなく、ローカル、つまり実際に同じ空間にあるPCをつなげて8人ぐらいまでしか対戦出来ん時代や。ゲームはダウンロードやなく、ディスク版のみ。基本は一人で遊ぶゲームが多かった。つまり誰ともつながへん場合は、NPC戦になるわけや。
PCは、オフィシャルの大会開催用のものの仕様が発表されていて、ランカーはそれと同じ仕様のPCを自分で手に入れて、使うのが王道ということになっとった。
遅延のない大型モニタは今と違って恐ろしく高価で、たとえばアジア、北米、ヨーロッパの各地域で、2ケタクラスまで上がろうと思ったら、百万単位かけるやつらもおるようなもんで、あんまり一般的な趣味とは言えんかったな。
俺のPCは、ギリギリのスペックやったが、なんとかランキングに上がれるぐらいの腕で、日本大会でミサに会うた。
こういうゲームをしている人間、それもランカーともなれば、過集中でゾーニングしているなんて珍しくもなく、一つ一つの動作を正確に、ハンドアイコーディネーションと、反射速度の組み合わせでいうなればマシンのように正確に操作出来るプレイヤーが多い。
国の組織にはそういう部署があるんかは知らんが、軍隊の遠隔射撃部門みたいなところへ行けば、昇進間違いなしといったようなタイプやな。
それが日常にどのぐらい役に立つのかというと、それほどでもなく、研ぎ澄ましたスキルは、つまりはまあ、ゲームにしか役立たへん。ストイックにつきつめるのが好きというだけで、金が儲かるようなスキルやないといえばない。
この手のゲームは、何の加減なんか女性は少ない。パズルゲームはともかく、競い合い、戦うという本能も関連しているんやろうか、一割も女性プレイヤーがおらんのが通例や。このゲームもそう。
なので大会にいっても女子が目立つこと。声をかけられるだけやなく、粋がってちょっかいかけるやつや、ナンパ気分のやつら、女なんかにとか女のくせにとか言うやつらを、ミサは無視して、きっと聞こえているやろうにクールやった。
そして…強かった。
ドット単位で見えているんやろうかと思うような正確な射撃、無駄のないマニューバー、無理のないコース取り、いっそこのゲームの開発者なんやないかと思うぐらい、軽々とクリアしていくその速さ。タイムアタック、個人の射撃成績。
初めて声をかけた俺を見た目の冷たかったこと。いや、ナンパやないから。
そのあとの大会やイベントでもゲームの話しかせん俺と、いるのは居心地がええと思うてくれたんか会場で会うたび、話をした。コースをどうとるべきか、敵が隠れているところをどう狙うか、タイミング、コース、エイムがどうの、とまあ、このゲームを知らん奴が見とったら、何語やねん、というような話や。
エキシビションマッチのペア戦で、組んでもらった。こっちが組んで「もらう」方や。ミサの方がうまかった。ちょっと悔しかったが自分の腕と、相手の腕を正確に測れんと、ランカーにはなれん。女だからとなめとったら見誤る。実力は実力や。
必死で付いて行った。もっと早く、もっと正確に。
そのゲームはフレンドリーファイヤーに「当たる」ゲームやった。つまり誤射あり。ゲームによっては、同じチームの射撃は当たっても無害というんもあるが、もちろん、誤射ありのほうが難しい。練習なしで組んだら、誤射でお互いえらいことに…というパターンもあるから、このエキシビジョンマッチはあくまでその時だけのお楽しみというわけや。
ミサは、ペアでプレイするのもうまかった。どうなっとるんか知らんが、俺の射線が通る場所が空く。細いけれども、十分狙えるぐらい空く。ミサに一度も誤射せずクリア、そして俺にもミサは一切当てへん。実は俺はほとんど配慮出来んかった。
つまり俺が意識してどうこう出来たわけやない。でも、当たらんかった。こういうプレイヤーはよく「後ろに目がある」と言われる。もちろんゲームのスクリーンは前方にしかないんやが、空間を認識する能力でゲームが計算している「はずの」空間をつかめるような能力があるんやないかと俺は思うとる。
射線がこれが本物やったらあるはずの空間をどう通っとるか。そういうことがわかって、それがゲーム上でどう計算されとんのかが、何かの都合でちゃんと脳に届いてわかる、そういう能力がある感じがする。
多分出来る人間と、出来ん人間がおって、ゲームをたまたま、やったからそれが使えた。そういうことなんやろうとしか言えんけど。
頼みこんで、一緒に練習してもらった。
シヴァと一緒にこのゲームは練習しとったんやが、ミサはイヤな顔をせず付き合うてくれた。
途中でミサがまだ高一とわかったときはびっくりや。初めて会うた時は中学生や。女の年はわからんもんや、顔立ちと化粧と、服でかなり上下に幅が出る。てっきり同い年か、1つ下ぐらいやと思うとったからな。
ゲームのスクリーンに入れる名前は、俺がShin1、ミサはMissaそして柴本弟はSiva。(ちなみに俺の同級生の柴本兄よりも、今はシヴァの方が仲が良くなっている)こんなに長い付き合いになるとは思わんかったけど、今でも俺たちは一緒にここにいる。
アジア大会でミサは3位。俺が2位。シヴァは12位やったかな。世界ランキングではミサと俺の順位が入れ替わってミサが5位と俺が6位。
そういうゲーム大会が、オンラインゲームに押されて、流行らんようになってから、メールアドレスを交換したオランダ人で世界ランカー2位だったプレイヤーが、王国の話を俺に教えてくれた。
面白いから来いよと。
王国で待ってるぜ、と、言われて、ゲームを買い、気が付いたら、なじんどった。
今は、割とのんびりプレイ出来るのがええと思うとる。ロックにもニコにも手がかかるしな。多分放っておけへんのや、この世界を。
(ギルマス、死んだ)
(もうちょっと情報を出せ)
セブンは成長せんのぅ。ほんまに。どこや、いうねん。
(pked at easter dungeon 2nd floor 2pks)
すっかり英語が板についたな、ロックも。
(シヴァ、ロックがイースターの二階でpkされたらしい、いったって。2pks)
(おk)
(ギルマス、南深層、赤デーモンの前)
(何匹おる)
(三匹)
(わかった)
ここが割と、気に入っとる、いうことやな。さて、セブンを助けにいくか。




