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35 その頃地球は

 日本圏で異星人の遺跡が発掘されてその異星人の子孫らしき者達と接触を始めていた頃。多くの始祖勢力が宇宙に出て太陽系外に勢力圏を拡げているにも関わらず、地球上には覇権等に拘る奴等がまだいて争いが続いていた。

 だが日本圏の始祖達の年に一度の会合での一番の関心事は異星人の技術を利用した宇宙艇の開発だった。この宇宙艇が完成すれば宇宙航行において魔法使いの個人能力に頼る事が減りそうだったからな。金は掛かりそうではあったけど。よって日本の始祖達の殆どは地球に留まっている勢力に対しては興味が無く、地球上での争いに関心を持って話題としているのは修と美里の二人ぐらいだった。


「シナ状勢に変化は有る?」


「相変わらず殺し合いが続いているわ。それで人口も減少して二勢力を合わせても二億人もいないようよ。年々衰退していて日本にとってはもう脅威とは言えないわね」


 シナの覇権争いは七十年以上に亘って続いていてその間にシナの威信は地に落ちていた。現在のシナの二勢力は政治的には何処からも相手にされてはいなくて、周辺国の共通認識としてはどちらがシナの覇者となろうが今更如何でも良かった。

 周辺国はシナの力を削ぐと同時に経済的な利益を得るとの思惑が有ってシナの内戦状態を長引かせる為に物資の供給を操作していたが、シナが衰え且つ利益も出なくなった為、シナの動向なんて如何でも良くなり始めていた。


「シナ人は何で覇権争いを止めないかな~。このまま争いを続けても衰退して人口も減る一方なのに」


「シナ人にとってはシナの覇権が何よりも重要みたいよ。そして何か不都合があれば全て日本の所為にして非難声明を出す訳ね」


「鬱陶しい奴等だよなぁ。日本の所為にした所で物事が好転する訳でも無いのに」


「日本を悪者とするのがシナの内政的には都合が良いんでしょうね。少し前の東アメリカと同じよ。シナ人は『日本の所為で覇権争いが長引いている』と言っているわよ。まぁ、日本がシナへの物資の供給を操作して覇権争いの決着が付き難くくしているのは事実よね」


「シナへの物資の供給を操作しているのは事実だけど、でもそれが無ければシナの状況はもっと悲惨だった筈だよ。食料供給が足りなければ人口減も今程度では済まなかった。それは非難される様な事なのか?」


 日本はシナの覇権争いを煽る様な事は一切してはいない。確かに難民の発生を抑え且つ覇権争いの決着が付き難い様に物資の供給を操作してはいる。でもそれはシナから難民が出たり、覇者が決まってシナが拡張主義に走ったりするのを警戒しているからだ。シナ人の覇権争いによって派生する自国への被害を最小限に抑える為に行動するのは当然の自衛行為で非難される謂れは無い。


「日本が非難される謂れは無いわ。でもシナ人は日本の所為で覇権争いが長引いてシナの力が落ち人口も減ったと考えているのよ」


「馬鹿らしい。そもそも覇権争いを続けているのはシナ人だ。その結果が如何あれ責任はシナ人にある」


「その通りね。それで日本政府はシナのお望み通り今迄の様なシナへの物資の供給は止めようとしているの。シナは人口も減って覇権争いさえ止めれば自領だけで充分に遣って行ける筈なのよね。後は如何なろうがシナ人の選択した結果よ」


「それは構わないけど餓死者でも出たら間違いなくシナ人は日本を非難するよ」


「シナ人は日本が如何動こうが何か起きれば責任転嫁して日本を非難するのよ。シナ人に餓死者が出ても覇権争いを続けているシナ人の自業自得なんだから日本人が気にする必要はないわ」


 当然の事だが、シナ人が覇権争いを続ける限りその結果に対する責任は全てシナ人にある。現状が嫌で抜け出したいのならシナ人が覇権争いを止めれば良いだけの話だ。現に覇権争いから早々に手を引いた台湾や満州等は宇宙にて勢力圏を拡大中だ。


「確かにその通りだけど日本はシナ人の難民が急増するのが嫌で物資の供給を続けてきたのだろう?日本が手を引いてもシナ人の難民を嫌がる他の勢力が代わりに供給を始めると思うけど違うのか?」


「その辺りは為政者の思惑次第だけど他のシナ周辺諸国もシナ人にはもううんざりしているから日本が手を引いたら倣うんじゃないかしら。シナも衰退して今なら如何とでもなるし」


 シナの周辺国はシナから逃れてきた始祖勢力を使ってシナの領域を削ってシナの力を削いでいたのだがもう止めてしまった。今なら惑星開拓を二十年も続ければ居住可能な惑星をいくつも確保できる。シナの領域を削る為に使う労力が有るなら宇宙で勢力圏を拡げる為に使う方がどう考えてもマシだ。宇宙に勢力圏を拡げて国力を上げた結果として今の衰退したシナなら覇者が確定しても如何とでもなるからな。


「シナの威信も落ちたものだな」


「問題なのはシナ人にその自覚が無い事よ」


「シナ人はそんなもんだ。仮に自覚が有っても自らが上位にあるかの如く偉そうに振舞わないと面子が保てないんだからさ」


「シナ人は唯の声明でも何か偉そうなのよね」


「シナ人なりの理屈は有るんだよ。ただ我々には理解し難いだけで」


 シナ人はシナの覇者が宇宙に拡がる諸勢力より上位にあって当然と考えている。

 まぁ、考えるだけなら自由だよな。

 シナの覇権を巡って争っている二つの勢力ではどちらの始祖も次代の覇者は己だと考えている。

 まぁ、そうとでも考えないと覇権争いなんてやってられないよな。

 それでシナ人は己が未来の支配者であると考えていて対外的には貢ぐのが当然との緩慢さで物資を求める。今の内に未来の支配者に対して媚びて置けば悪いようにはしないと言った感じだ。

 まぁ、そうとでも考えていないとシナ人なんてやってられないよな。

 シナ人がそんな感じなのでシナとの交易に経済的な旨みがなくなった今ではシナ人を相手にするのは周辺国の政府が裏に付いている一部の者達だけだ。

 まぁ、紐付きで政府からの裏手当でもなければシナ人の相手なんてやってられないよな。


「それで日本はシナ相手の交易からはもう手を引くつもりだけど何か有る?」


「手を引くって交易に関わるのを止める事?それとも交易自体を止める事?」


「シナとの交易に政府が裏から関わるのを止めるだけよ。民間が交易するのを邪魔する気は無いわ。裏手当も無しに旨みの無いシナとの交易を続ける者が居るとは思えないけどね」


「……補助金付の輸出を止めると物資の値が上がるかもな。値が上がればそれなりに交易をする者達も出て来るんじゃないかな」


「物資の値が上がるとシナ人からはクレームが付くわね」


「値が上がってもシナ人のお望み通りに物資の供給の操作を止めた結果だ。シナ人が結果を気に喰わなくても我々の知ったことではないな。嫌ならシナ人が日本との交易を止めれば良いだけの話だし」


「シナではまた日本が悪者になる訳ね」


「まぁ、シナでは悪い事は全て日本の所為だからな。……話は変わるけど宇宙開拓関連のシナに対する情報操作は上手く行っているのか?」


「あまり操作したつもりもないのだけどシナでは太陽系外の開拓については信憑性に欠けるとしているようよ。『欺瞞情報に振り回されるな』と眷族に対しての声明が有るもの」


「……それは信じたくないだけかもしれないよ。奴等の信じるシナの優位が崩れて内政的なダメージが大きそうだからな」


 諸勢力が太陽系外の宇宙に勢力圏を拡げている事は以前一部のムスリムと惑星開拓の現場で揉めて地球で知れ渡る事になった。だが地球に留まっている勢力にとっては突飛すぎて信憑性に欠ける話であるらしい。シナ人は諸勢力の宇宙の勢力圏を太陽系内の話と考えている様で「月と火星はシナの領土である」と度々声明が出される。シナ人は諸勢力が太陽系外へと勢力圏を拡げているとは信じていない様だ。

 薄々気付いている者が居ても表向きは認めない。諸勢力がシナよりも明らかに繁栄している事実を認める訳にはいかない。そんな事を公式に認め様ものなら反動分子として粛清されるからな。シナの優位に反するものを認める訳には行かないのだ。少なくともシナの覇権を掴めば覆せる程度の差でなければならないのだ。


「このままだとシナの優位どころかシナは巻き返しすら無理となりそうよ」


「もう既に無理だろう。シナの二勢力には宇宙に乗り出すだけの能力が無い。シナから最後に離脱した始祖勢力にすら宇宙開拓では後塵を拝しているんだ。シナ人が銀河に君臨するのを想像できるかい?」


「どちらがシナの覇権を握るにせよ権力保持の為に愚民化政策を続けていては無理よね」


「そうだな。現状では宇宙開拓には魔法教育の充実が必要不可欠だからね。研究中の異星人の技術を利用すれば少しは可能性も有るけど如何だかな」


「それはあまり考えたくはない話ね。地球を吹き飛ばすぐらいの事は可能にする技術なんでしょう?シナ人に渡す訳には行かないわ」


「まぁ、あまり心配する必要は無さそうだけどね。シナは長引く戦乱で科学技術の衰退も著しいみたいだからさ」


 シナでは庶民の教育体制が破綻して久しい、中華人民共和国が崩壊して以降は数世代に亘って戦乱が続いているので真面な教育を受けているのは支配層に属するほんの僅かな者達だけだ。これでは近代産業が維持出来る訳は無く科学技術も衰退する一方である。庶民の愚民化は支配層にとっては権力を維持するのに都合が良いのか放置されたままだしな。

 魔素生命のレコードも知識を引き出すための呼び水となる教育を受けていなくては知識は上手く引き出せない。仮に知識を引き出せても教育を受けていなくては知識は使い熟せない。魔素生命と繋がりレコードの知識が入手可能でも知識を使い熟ための教養が伴わなければ意味は無いのだ。

シナでは支配に都合が良いためその教養を身に付ける教育は支配層でしか行われていない。支配には都合が良いんだろうがそれが数世代に亘って続けば国力は落ちる一方だ。


 人は種が分岐して旧人類の魔素生命との繋がりが断たれたためにそれまで人が培ってきた英知を利用するには書籍や電子記録に頼るしか無くなった。まぁ、数世代もすれば旧人類でもあった世代が死ぬから知識の引継ぎとなり問題とはならない筈だ。

 日本では戦乱も無かったので旧人類からの知識の引継ぎも左程混乱も無く進んでいるのだがシナでは続く戦乱と種の分岐により一部の支配層を除いて旧人類の英知からは断絶が進んでいる。シナでは旧人類の英知を持つ世代の多くが新人類となる前に死んでしまっていて知識の引継ぎは支配層の一部でしか進んではいないのだ。


「シナでは庶民の愚民化は進んでいるけど支配層にはまだ知識も技術も残っているのよ。産業化は無理としても兵器利用ぐらいは可能だと思うわ」


「宇宙艇の開発は無理でも地球を吹き飛ばす可能性はある訳か。我々は失敗が怖くて何も無い宙域で研究を進めているけどシナ人なら宇宙にも出ず地球で研究を進めるからな」


「地球が無くなるのは嫌よ。シナに技術を渡してはいけないわ」


「……あまり考えたくはないけど地球だけで済むならその方がマシかもよ。シナ人も絶滅するし」


「……シナの庶民が死ぬのは確実だけどシナのエリートが死ぬとは限らないわ。彼等は私達程ではないにせよ魔法教育を受けているのよ。数万人でも生き延びて宇宙に脱出したら再興の可能性が有るわよ?」


「……現状のまま地球に縛り付ける方がマシだな。奴等が宇宙に拡がるなんて考えたくもない」


「何か良い方法はないかしら」


「核の連鎖反応を制御する魔法を植物の生体魔法回路に組込む事で地球上では核爆発を起こせない様にしただろう。それと似た事をするしかないな。地球上ではマイクロブラックホールの生成が不可能にするんだ。魔素乱流期の間は意味が無いけど今なら有効だ」


「地球の生態系の魔法回路で制限をかけるのね。可能なの?」


「経験上は可能だ。地球の生態系に組み込まれている生物ならこの制限から逃れられない。地球上で魔法の規模に制限が掛かるのと同じだからな。ただ今の所はマイクロブラックホールの生成なんて魔法は誰も使えないから異星人の技術を習得するのと併行して魔法も研究を進める必要があるな」


「その魔法って宇宙空間では制限が無いのよね」


「最近の研究成果ではそうでもないらしい。惑星系にも魔法回路が有って惑星系を維持する為の制限が有る様なんだ。ただその制限の規模が大きすぎて人が今使っている魔法程度では意味が無い様だけど」


「制限の規模が大きすぎるってどの程度の話なの?」


「惑星系を破壊する規模の魔法は使えない様だよ。例えば普通のブラックホールを生成する魔法とかは惑星系内では無理なんじゃないかな。惑星系が破壊されるからね」


「……そんな魔法を使う意味は有るの?」


「実験としては意味が有る。制限の検証が出来るからね。それに今は起きそうにないけど宇宙で戦争を始める輩がいるかもしれないだろう?どんな魔法でも知っておいた方が良いと思うよ。自分からは使う気が無くても使われた時の対処方法は考えておいた方が良い」


「まぁ、そうよね。それに相手が地球人とは限らないし、それだけの能力を持つ異星人の存在は確認済みだもの」


「現状は脅威と成り得る異星人は遺跡しか見つかっていないし、その子孫らしき異星人は海辺に都市を築いているだけで脅威とは言えないけどね。警戒はしておいた方が良いよな」


「警戒は必要よ。存在したのは確実なんだから。一万年ズレていたら私達と戦争になっていた可能性が有るしね」


 異星人が脅威と成り得る科学文明を築いていたのは確実だ。日本圏では異星人の遺跡にある文明の成果を利用して魔法を使わずに惑星系間を移動可能にしようとしている。これが可能となれば魔法での移動とは違って移動を拒否する人でも惑星系間を強制的に移動させる事が可能となる。今迄は人との相性が悪くて地球から連れ出せなかった動物等も他の惑星に移植可能となる訳だ。


「まぁ、仮定の異星人の脅威は置いとこうか。地球の話だけどシナ人は地球に縛り付ければ良しとして、たくさんの似非メシア達は相変わらずかい?」


「そうね、争いが収まる様子は全然無いわ。イスラムもクリスチャンも世界中に信者がいるからか眷族になる馬鹿が途切れないみたいよ。シナと違って人は増えるばかりね。いつの間にか外から補充されるのよ」


 シナの覇権争いと同じで聖地争いをしている奴等の争いは収まる様子が無い。その上にシナとは違って外から来て争いに加わる奴等がたくさんいるからか規模が小さくなる事も無い。争っている始祖勢力は外に領域を拡げる様子は無いけど外への宗教的な影響力は強いみたいだな。


「……始祖が死んだら勢力は衰退するんじゃないの?」


「それがそうでもないみたい。イエスみたいに始祖が死んだ後に求心力を増して勢力が拡大する事もあるようね」


「まぁ、宗教だからな。でもそうすると始祖が死んだ後に脱落する事は無い訳だ。争いは確実に続くな。幸い勢力としては宇宙に出張る様子も能力も無い様だけど」


「前に火星開拓で日本と揉めたムスリム勢力が有ったでしょう?こう言った輩は能力が無いから宇宙に出張れないだけで欲だけは有るのよ。聖地争いをしている奴等もその類ね。聖地争いに勝ち抜けば何故か全て手に入ると思い込んでいるのよ」


「神の威光の前に全てが平伏するってやつだな。ん~何処に神の威光が有るのか良く分からないんだがな。もし神の威光とやらが本物なら皆が争う事も無く平伏しているだろうに」


 彼等の崇めるエホバやらヤハウェやらアッラーやらの全知全能の存在が有ってその威光とやらが本物なら聖地を巡る争いも起きてはいないと思うのだが如何なんだろう?考えるに全知全能なるものは元々存在しないか存在しても人なんかには関心がなく威光とやらは人には発揮されないのだ。


「理解不能だけど思い込むのは自由だから害の及ばない限りは放置するわ」


「日本からは一番縁遠い感じだよな。信仰に基づく大きな殺し合いは一向一揆ぐらいで戦国時代の話だし」


「あまり関わりたくないのよね。今迄そうしてきた様に」


「でもシナと同じで覇者が決まったら面倒そうだよな。自分達を勝手に上位者と思い込んでいるんだろう?従わない奴は敵だとか言ってきそうだ」


「そうなったらシナと同じで地球に隔離して置くしかないわ。でも信仰絡みは厄介なのよね。潜在的な信者がどれだけいるか分からないのよ」


「種の分岐以降は信者も群れているから大丈夫ではないの?」


「日本は良しとしてムスリムとかクリスチャンは良く分からないのよ。未だに群れを移ってエルサレムでの聖地争奪に加わる奴等がいるんだから」


 聖地争奪戦が収まりそうにないのは争っている始祖勢力に眷族として移ってくる奴等がいるからだ。聖地争奪戦は地球に居住するムスリムやクリスチャンの間ではかなりの関心事らしい。








 シナでもエルサレムでも争っている輩は上位者を決める戦いだと思っている。でもそう思っているのは当事者だけだな。彼等の争いが終わった時、手にするものは自己満足だけなのだ。人が宇宙に拡がる前なら少しは意味が有ったかもしれないが今更覇者が決まった所で得るものは殆ど無い。

 地球の一地域に過ぎないシナの覇者かエルサレムの覇者では宇宙には影響力は無いに等しい。エルサレムの方は信仰絡みだから少しは影響力が有るかもだけど日本圏には関係が無さそうだ。

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