26 宇宙への拡散
火星は日本による太陽系外の開拓が始まって以降は惑星開拓の為の物資の供給拠点として発展してきた。
惑星開拓初期の開拓地には鉱物資源ぐらいしかなかったし、以前は秘匿の為に地球とのあからさまな交易は出来なかったから当然そうなる。
国外に情報が洩れない様に日本国内でも秘密にしていたからな。
日本の地球外での経済活動については最近まで火星を中心に動いていて発展も著しかった。
現在は太陽系外の開拓も進んで個々で運営可能となる惑星が出ており太陽系外に拠点を移した始祖もいる。
火星は開拓もまだ進んでいるし新規に地球から加わった諸勢力も有るしで以前と変わらず発展している。
日本では火星で培った開拓技術を用いての地下の開発が進んで地球外との交易も盛んとなっていた。
惑星間の交易は転移魔法が使われるため施設は地下にある方が安全上も秘匿上も都合が良かった。
地球では太陽系外の開拓の話は公にしていないので未だにあからさまな交易はしておらず、日本の交易施設は地下避難施設として建設が始まって表向きは避難施設のままだ。
ロシアの始祖勢力が月と火星に来たのはアラスカに遅れる事三年の真世歴六十一年の事だ。
火星開拓に今以上の人手を割けなくなった日本は火星開拓の担い手としてロシアを受け入れた。
その頃には既に友好勢力も火星開拓の為に受け入れていてロシアに対しても同様に対応したのだ。
「火星での話は本当の様だな。地表の生態系に悪影響を及ぼさなければ空いている地下は好きに使って良いそうだ。大気が薄いからまだ地表には住めないそうだ。地表もまだ森林の無い所なら好きな植物を植えて実験をしても良いとさ」
「俺は日本人がここまで地球化を進めているとは思ってもいなかったよ。見る限りは地表でも充分に住めそうだぞ」
「森林なら植物が魔法で大気を維持しているから住めるそうだ。ただ生態系がまだ脆弱だから実験的に動物を少しづつ放している所だそうで人は一番最後だとさ」
「誰だ火星に拠点を築く時に日本と揉めるなんて言っていたのは。揉めるどころか火星の開拓を勧めて来たぞ。地下開拓用の土木機械も対価を出せば売るってさ」
この当時のロシアと日本は微妙な関係にあった。
ロシアがヨーロッパとイスラムの混乱への対処に手間取る間にシベリアがシナの混乱に巻き込まれたら不味いと判断した日本がシベリアの始祖勢力を支援して日本の始祖勢力の傘下に入れてしまった為だ。
以来バイカル湖から東はロシアから独立したも同然の状況が二十年近く続いていたが正式に独立をしてはいない状況だ。
シベリアの始祖は当時支援をしなかったヨーロッパロシアの始祖とは敵対はしていないが友好的とは言えない状況で日本はシベリアが友好勢力となってロシアに対しては以前より関心が薄く成ったいた。
ヨーロッパロシアの始祖勢力はヨーロッパの混乱を乗り切って力を盛り返したけれどシベリアの始祖勢力と事を構えて日本の始祖勢力を敵とする余裕は無く関係が微妙であった。
それでロシアは地球での勢力圏の強化とか太陽系における勢力圏の確保とか考えていて日本とは多少揉めても火星に拠点を築く覚悟でいた様だ。
日本が火星を領土化していて火星に拠点を築く時に揉めると考えていた様だな。
ロシアは火星に着くまではいつ日本の干渉があるかと緊張していたらしい。
火星で宇宙開拓の実情を知るまでは多くの勢力が同じ様に判断していたらしい。
まぁ、日本は宇宙開拓については群れの禁忌として秘密にしていたから仕方のない事ではあるのか?
地球での国家間の覇権争いや未だに続くシナ絡みの争いや聖地争奪戦や日本と東アメリカの争いと同じで争いの場が火星にまで拡がっただけだと考えていたらしいな。
日本は月では丁寧に対応して基地の設置も揉めることなく認めていたし、火星に居る子供達の件で交渉を進める為に出来得る限り火星の情報を開示していたのだが。
「日本人は他の惑星開拓で忙しくて火星開拓に人を回せないそうだ。火星に来たらモンゴル人やらフィリピン人やらベトナム人やらがもう居て火星開拓を進めているんだからな。ロシアは出遅れている」
「惑星開拓の噂は有ったけど誰も信じていなかったよな」
太陽系外の開拓について日本は公にしてはいないのだが以前から噂は広まっていた。
よくある異星人に拉致されたみたいな感じでゴシップネタとして広まっていたのだ。
「日本人は既に異星人と接触している」とか「日本人は既に宇宙で帝国を築いている」とか「日本人は既に銀河の大半を支配している」とか。
この件は火星に来るまではどの勢力もあくまでゴシップネタだと思っていて実情を知って以降は口を閉ざしてしまう。
日本が帝国ではないけど銀河で勢力圏を築きつつあるのは事実だし、異星人とはいかないけど地球型惑星を発見して異星の生態系を研究中ではある。
「分かっていると思うが惑星開拓の件は箝口令を敷いている。地球では絶対に話すなよ。太陽系外の探査と開拓は最優先事項だ。ロシアに逃げて来たヨーロッパ人の難民も使って我々も宇宙で勢力圏を拡大する」
「了解。それにしても火星の状況がこんなだとは思わなかった。日本が我々に惑星開拓用の物資を売って儲けようとしているとはな」
諸勢力は火星に来ると日本が既に太陽系外に勢力圏を築いていて火星はその開拓拠点に過ぎない事を知る。
日本人が火星で領土争いをする暇が有ったら太陽系外で惑星開拓を進めた方が良いと考えている事も知る。
方法は如何あれ火星まで来る能力が有れば太陽系外に乗り出して探査が可能な事も知る。
日本の始祖勢力が既に二十以上の惑星系を先行して開拓中であることも知る訳だ。
詳しい場所は秘密だけど銀河のどの方面に向かって開拓のための探査を進めているかは開示している。
ここでどの始祖も初めに出遅れたと思うらしい。
そして惑星開拓が早い者勝ちで切り取り放題とは言え競争相手は少ない方が良いと考える。
地球に留まる潜在的な競争相手にこの宇宙の実情を態々教えようと考える奴はいないな。
そしてその潜在的な競争相手が地球に居る間に勢力圏を拡大しようと考える。
日本もそう考えて地球には秘匿しながらいくつもの惑星系を開拓して勢力圏を拡大したのだから他の勢力がそう考えても当然だ。
ところが火星に来た諸勢力に対しては日本は掌を返すようにふるまい、火星開拓を手伝う事で火星の地球化を進めると同時に惑星開拓の技術を身に付けさせていた。
今では方法は如何あれ自力で火星に来て火星開拓を通して惑星の開拓方法を身に付ける事が太陽系外で惑星開拓を始めて勢力圏を拡げる為に必須となっている。
自力で全てを始めても構わないのだけど出来得る限り早期に惑星開拓を始めたい諸勢力にとっては火星での開拓状況を参考にしながら惑星開拓の経験を積むのが近道だ。
日本企業はこれを利用して利益を上げていた。
惑星開拓用の物資を調達するに当たって一番早い方法は火星の日本企業を利用する事だ。
現状では日本企業しか惑星開拓技術やその運用ノウハウを持っていないからな。
こうして惑星開拓を早く進めたい勢力は日本企業を利用する事になる。
日本が宇宙を独占しようとするのはどう考えても効率が悪い。
日本が宇宙を独占しようとして他の勢力の邪魔をするとそのために人手が掛かって自身の勢力圏の拡大を遅らせる事になる。
開拓可能な惑星はいくらでもあると言うのに足の引っ張り合いに時間を取られるのは互いに損だ。
宇宙は一勢力が独占するには広すぎるのだ。
どう考えても日本が優位なうちに他の勢力の勢力圏の拡大を利用して利益を上げて自勢力の拡大に繋げるのが賢い選択だ。
現在、ロシアは傘下の始祖達と共に宇宙開拓を進めているし、満州も同じ様に宇宙開拓を進めている。
他の火星に進出した諸勢力も組んで宇宙開拓を進めている。
何処も皆出来得る限り速く宇宙開拓を進めて自身の勢力圏を拡げたいと考えている。
日本はこれに便乗して火星の経済を成長させようと考えて実行し成功していた。
ただ惑星開拓は概ね五年でほぼ独自運用が可能となるため火星を必要としなくなる。
ロシア圏も満州圏もそんな感じで開拓する惑星系が増えている割には火星との貿易量が減っている。
日本がその勢力圏だけで経済圏として独立している様に彼等の勢力圏も経済圏として独立しつつあるのだ。
「ロシア圏も満州圏も火星との貿易量が減少傾向にありますね」
「日本圏と同じだ。そろそろ経済圏として独立するんだろう」
「利益が減りますよ。どうにかなりませんか」
「お前は馬鹿か。これは良い傾向なんだ。勢力圏として安定してきた証拠だ」
「でも利益が……」
「一番儲かるのは惑星開拓の初期から暫くなんだ。各種インフラが整うまでは物資を外から持ち込む必要があるからな。開拓を急げぐほど物資を外から調達した方が楽だろうな。だけどインフラが整って調達が惑星内で済む様になったら必要が無くなる」
「そう言うことですか。でも日本圏との貿易はロシア圏や満州圏程には落ち込んでいませんよ」
「火星は混住地ではあるけど日本が開拓を始めて今でも日本が主導して開拓を進めているからな。日本圏みたいなものだ。他の勢力も日本の優先権を認めた形になっている」
これは他の勢力が火星に来た時に日本が認めた形で火星の開拓を始めた事も大きい。
多少でも揉めていれば日本から領土を勝ち取った形になるのだが現状はと言うと日本から与えられた形となっている。
太陽系外の惑星開拓の件が無ければ少しでも多くの領土を火星に確保しようと動いたのであろうがどう考えてもそうして日本を敵に回すより惑星開拓を始めた方が得だ。
そう判断した勢力は皆火星での日本の優先権を認めた形で太陽系外の開拓に乗り出して勢力圏を拡大している。
「言われて見ると何処も火星での開拓地はあまり拡げようとはせず実験施設の様に使っているかなぁ」
「火星は実質的に日本圏なんだ。その日本圏では惑星開拓が安定期に入って人口が増えてから次の惑星開拓に乗り出したからロシア圏や満州圏でも人口が増えたら新規の惑星開拓に乗り出すと思うよ。利益を上げるならその惑星開拓の時だ」
「そうするとそれまではメンテナンスとかで地道に稼ぐぐらいですか」
「まぁ、そうかな。それなら確実に稼げるだろう?それに惑星開拓を始めたばかり勢力も有るからそこでも稼げよ」
「そこはロシア圏や満州圏程パイが大きくは無いんですよ」
「これからはずーっとそんな感じになるぞ。ロシア圏や満州圏の新規の惑星開拓だって似た様な規模だと思うぞ。今迄が異常だったんだ。残った火星に来れそうで比較的大きな勢力は西ヨーロッパの勢力と北アメリカ大陸の勢力ぐらいだな」
「大型案件は二つですか。他にはありませんか?」
「お前も知っているだろう。残りは日本の敵対勢力と我々とは別の文明を築きつつある勢力が殆どだ」
「敵対勢力は問題外として残りの勢力が良く分からないんですよね」
「誰も良く分かっていないんだよ。接触が殆ど無いからな」
「儲けには繋がりそうにありませんね」
「まぁ、無理だな。火星に来られてもどう対応したら良いかも分からん」
「如何するかなぁ」
「思い切って拠点を太陽系外に移したら?火星に拘る必要は無いだろ」
「火星を移る気はないんです。仕事で日本の勢力圏を色々回っているけど火星が一番刺激が有って性に合ってる」
「地球以外だと唯一多勢力が混住している惑星だからな。火星は惑星開拓の基準みたいなものだし、重要度はこれからも変わらないだろう」
火星の地球化も進んで地表の大気も希薄ながら何とか呼吸可能となっていた。
植物がバリアを使って火星の地表に蔓延り始めてから十五年以上になるから開拓地の地表部は既に森林と化していた。
積極的に植林もしたし、水も大量に供給しているからな。
地表に植物が蔓延る事により、開拓地周辺の植物のバリアの保護範囲であれば地球の動物が生存可能となっていた。
水を大量に供給した事によって水の循環も徐々に進んで地表の低い所には水が溜まっていた。
植物の種類も順次増やして動物も適宜に放っていたので生態系も日に日に強固になっていた。
地球から見ても地表に緑が広がって雲が流れているのも観測可能だし水が豊富に有るのが丸分かりだ。
想定よりも植物の繁茂が速い感じではあるな。
地球化が速く進むのは良いのだけどなんか植物の繁栄に利用されている感が……
火星に進出した諸勢力の最優先課題は太陽系外の勢力圏の拡大だ。
火星に進出した諸勢力は敵対をしない限りは他の勢力が宇宙に勢力圏を拡げる邪魔はしない。
他の勢力の足を引っ張る暇が有れば宇宙探査を進めて新しい開拓先を探す方が勢力圏の拡大に繋がる。
幸い宇宙は広くて全ての勢力が勢力圏を拡大するだけの余地が有る。
こんな感じで人の宇宙への拡散が本格的に始まった。
そして人によって植物の宇宙への拡散も本格的に始まった。
地球で争っている奴等?……放置している。




