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聖騎士皇子は今日も、婚約者を甘やかす〜断罪イベント?いえいえ、ただの溺愛イベントです〜  作者: 湯ノ宮 春
聖騎士皇子は今日も、婚約者を甘やかす

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6/7

6話『あなたの傍に居られて、幸せです』

「……──」

 

 カシウスがゆっくりと吐息をこぼす。

 

 その息は微かに震えていた。

 

「……魔力を感じる」

 

 低く、静かな声だった。

 

「守護と癒しの魔術をかけております」

 

 満足に社交もこなせない代わりに、誰にも劣らぬ能力を欲して必死で磨いた、セレスティーヌが最も得意とする魔術。

 

 カシウスが強いことを知っている。

 

 その魔術の腕も、剣の腕も優れていることを知っている。

 

 それでも、祈りを込めて、セレスティーヌにできる最高の魔術をかけた。

  

 カシウスが、ハンカチをそっと額に当てた。

 

「……何か隠していると思っていたが」

 

 セレスティーヌは肩を揺らした。

 

(先生に預けていて良かった……)

 

「それが、私への贈り物だったとは」

 

 ハンカチを下ろし、青い瞳が、じっとこちらを見つめていた。

 

 いつもの甘くとろけるような眼差しとは、少し違う。

 

 もっと深く、静かに、揺れている。

 

 

「……嬉しい」

 

 

 たった一言だった。

 

 それでも、その声に混じる熱が、セレスティーヌの胸を強く打った。

 

「胸に満ちるこの幸福を……どのように言葉にすれば良いか」

 

 カシウスは、ハンカチをそっと胸元に引き寄せる。

 

 まるで、大切な誓いの品を預かるかのように。

 

「汚れても、破けても、何度でもお贈りいたします」

 

 セレスティーヌはその言葉だけで、十分だ。

 

 それでも、願うとするならば……

 

「ですから、どうか肌身離さずお持ちください」

 

 カシウスは目を伏せる。

 

「……これほど、心強いものはないな」

 

 そして、小さく笑った。

 

「ルナが贈ってくれたものが、汚れるのも破損するのも考えたくはないが……」

 

 カシウスはハンカチを丁寧に畳み直し、箱ではなく、自分の胸元の内側へ収めた。

 

 心臓に近い場所だ。

 

「ルナがそう望むのなら、肌身離さず持っていよう」

 

 大きな手が、セレスティーヌの頬を包む。

 

 固く、少し乾燥した親指が、目元を撫でた。

 

「今日は、少し腹立たしい一日だった」

「……はい」

「だが、たった今……すべてがどうでもよくなった」

 

 カシウスの額が、こつりとセレスティーヌの額に触れた。

 

「っ……」

 

 息のかかる距離にある深い青の瞳が……真っすぐとセレスティーヌを見つめる。

 

 頬がじわじわと熱を持った。

 

「ルナを婚約者にもつ私は、この世でもっとも果報者だ」

「わ、私の方こそ……」

 

 声が詰まる。

 

 言いたいことは、たくさんあるはずだった。

 

 それなのに、胸がいっぱいで、うまく言葉にならない。

 

「っ……」

 

 代わりに、セレスティーヌはそっと手を伸ばし、カシウスの胸元に触れた。

 

 布越しにハンカチの感触と、トクッ、トクッと穏やかな鼓動が伝わってくる。

 

「……あなた様のおそばにいられて……幸せです」

 

 青い瞳が、ゆるゆると愛おしげに細められた。

 

 カシウスの唇が、ゆっくりと、セレスティーヌの額に触れる。

 

 一瞬だけ、あたたかな熱が残る。

 

「ずっと、持っている」

 

 囁くような誓いだった。

 

 セレスティーヌは、ふわりと笑った。

 

「はい……お願いいたします」

 

 庭園を、穏やかな風が吹き抜けた。

 

 花々のこすれ合う音が聞こえる。

 

 花の香りが、二人の間をくすぐっていった。

 

 

 ──くぅ

 

「っ……!」

「……」

 

 カシウスがセレスティーヌを静かに見下ろした。

 

 セレスティーヌは羞恥で真っ赤になった顔を、カシウスの胸元に埋めた。

 

(気、気が抜けて……お腹が……っ)

 

「……帰りに、ルナの好きな店に寄って帰ろう」

 

 聞こえていた筈の音には何も言わず、カシウスはセレスティーヌの頭を優しく撫でる。

 

「何が食べたい?」

 

 その声はいつも通り、とろとろに甘い。

  

「……苺の」

「うん」

 

 セレスティーヌは、そろそろと顔を上げ、上目でカシウスの顔を覗く。

 

「苺の、タルトが……食べたいです」

  

 深い青の瞳が、とろりと蕩けた。

 

「承知した。では、そうしよう」

 

 カシウスは、軽々とセレスティーヌを抱き上げ立ち上がる。

 

 胸元には、深い青のハンカチ。

 

 そこに刻まれた二つの紋章が、彼の心臓の傍で、静かに寄り添っていた。

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【第一章完結済み作品】
最愛の妻と創る癒しの迷宮〜一度失った君とこの世界で過ごす永遠の時
一度は死に別れた妻と、もう一度生きる奇跡を得た夫。
今度こそ離れないと誓う。
永遠に続く、二人で過ごす夫婦の第二の人生。
(異世界転生・恋愛・夫婦愛・ほのぼのシリアス )

目の前の男が言うには、私は使徒になるらしい
強大な力を持つ使徒になっても、優美が望むのは、もふもふな家族たちと過ごす穏やかな毎日。
(異世界転移系ファンタジー・もふもふ・ほのぼの全27話)


【連載中作品】
聖騎士皇子は今日も、婚約者を甘やかす〜断罪イベント?いえいえ、ただの溺愛イベントです〜
「ルナ、口を開けて?」
始まった断罪をよそに、繰り広げられるあーん。
婚約者にだけ甘い皇子のとろける溺愛劇。
(甘々溺愛系恋愛ファンタジー・悪役令嬢・断罪……?・全六話)
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