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聖騎士皇子は今日も、婚約者を甘やかす〜断罪イベント?いえいえ、ただの溺愛イベントです〜  作者: 湯ノ宮 春
聖騎士皇子は今日も、婚約者を甘やかす

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3話『甘く優しい皇子は、怒ると怖い』

 カシウスが口にした罪状に、サロンが静まり返った。

 

 ヴィクトルもまた、目を見開いている。

 

「そ、そんな……」

 

 エミリアは焦りの表情を浮かべ、唇も、声も震わせている。

 

「反逆罪なんて!私は何も……っ!」 

「ベルローズ男爵家の調査は完了している」 

「……っ」

 

 可憐な顔が、真っ青になった。

 

「心当たりがないとは言わせぬぞ」 

「わ、私は……私は……っ、何も知らない!私は関係ない!お父様が全部──っ!!」

「詳しくは尋問官に話すことだ。──連れていけ」 

「違う!違う違う違う!私は違う!私は!私はただ!」

  

 叫び暴れても、か弱い令嬢では騎士の力には叶わない。

 

 そのまま引き摺られていき……

 

「っ」

 

 血走った桜色の目が、ギロッとセレスティーヌを睨んだ。

 

 セレスティーヌは息を呑む。

 

 カシウスの目がスーッと細められた。

 

「お前が!お前が悪い!全部お前が悪い!悪役令嬢のくせに、何もしないから!」

 

(アクヤク、レイジョウ……?)

 

「だから……」

 

 ヒュッ!

 

 サロンに風が吹く。

 

 ──バサッ。

 

 エミリアの栗色の髪が一房……床に落ちた。

 

「……え?」

「──何をしている」

 

 感情を抑え込んだような、冷徹な声が聞こえた。

 

「連れていけ」 

「!はっ!」

 

 カシウスの手には剣がある。

 

 一瞬で傍にいた護衛騎士の腰元から引き抜いた剣だ。

 

 カシウスが何をしたのか理解し、生徒たちの顔が青を通り越して白くなった。

 

 ついでに、制止する間もなく剣を奪われた騎士の顔も白い。

 

「リューク様……」

 

 冷たかった目が、あっという間に優しくなる。

 

「どうした?」

 

 先ほどのようにとろりと甘い目だ。

 

「怖かったか?もうあれはルナに近づかない。安心するといい」

 

(この場にいる多くの方にとっては、あなたの方がきっと……)

 

「守っていただきありがとうございます。ですが……護衛騎士から剣を奪うのは、よろしゅうございませんよ?」

 

 それでも、セレスティーヌは知っている。

 

「うん?ルナがそう言うなら、気をつけよう」

 

 カシウスがその剣を、セレスティーヌにだけは絶対に向けないことを。

 

 例えエミリアの言ったことが本当だったとしても、カシウスだけは最後まで味方でいてくれることを。

 

「ヴィクトル」 

「……はい」 

 

「此度の件は、学園内で内々に済ませられるものではない」 

「承知、しております……」 

 

「お前は私の婚約者にして、月の魔導士に名を連ねるルナを、調査もせず公の場で糾弾した」 

「はい……」 

 

「お前の告発内容について、正式な調査の完了後、皇帝陛下から沙汰が下されるだろう。それまでは、皇位継承権の上位保有者として、謹慎を命ずる」 

「はい……申し訳ございませんでした……」

 

 すっかり落ち込んでいるヴィクトルは、護衛騎士たちに付き添われ、とぼとぼと城へと帰って行った。

 

「やかましい愚か者たちもいなくなった。これでゆっくりと食べられるな」

 

(……どうしましょう)

 

 あんなことがあったのだから、食欲は正直……ない。

 

 しかし、セレスティーヌにあーんをする気満々のカシウスに、そんなことを言うのは気が引けた。

 

(でも、隠して頑張って食べても、きっと気づかれてしまうし……)

 

 今まで、目の前の婚約者を相手に不調を隠し通せたことは一度もない。

 

 セレスティーヌは少し迷ってから、素直に伝えることにした。

 

「リューク様、私はもうお飲み物だけで結構ですので……」

「……食欲がないのか?」

「先程、あのようなことがございましたから……」

 

「ならば、やはり早退して休むべきだ」

「お、お待ちくださいっ」

 

 心配性のカシウスなら、そういうと思っていた。

 

 それでも、セレスティーヌには、どうしても早退したくない理由があった。

 

「午後の講義だけは、どうか受講させてください」

「午後?……ああ、刺繍の講義があったな。屋敷で刺繍するのではいけないか?」

 

 コクコクと頷く。

 

「講義で作成中の作品がございます。その、どうしても講義の中で完成させたくて……」

 

 深い青色のハンカチに縫っているのは、現皇帝家の家紋と、カシウスが卒業後に団長職を背負うことになる、聖騎士団の紋章だ。

 

(せっかくなら……完成してから、サプライズでお贈りしたいもの)

 

 そのために、作品は持ち帰らず講義が終われば教師に預かってもらっていたのだ。

 

 持ち帰ろうものなら絶対にバレる。カシウス相手に隠し通せる自信はない。

 

 モジモジと揃え重ねる指先を組み替え、また落ち着きなく組み替える。

 

 刺繍が得意なセレスティーヌは、これまでもカシウスに刺繍を入れた品を贈ってきた。

 

 講義で作成しているのは、今まで作ったことのない超大作。

 

 教師にアドバイスを受けながら、コツコツと刺してきたものだ。

 

 それが、今日完成する。

 

(今日、お渡ししたい……)

 

「……わかった。何かあったら我慢しないように」

「はい……っ!」

初めましての方も、そうでない方も、読んでいただきありがとうございます。


明日からは20:30に完結まで、毎日投稿します。


よろしくお願いします。

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【第一章完結済み作品】
最愛の妻と創る癒しの迷宮〜一度失った君とこの世界で過ごす永遠の時
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