第41話 理想論
「最初はグー! じゃんけんホイッ!!」
「っしゃ! 勝ちましたわ!」
「ぐぬぬ……もう一回よ! リゼちゃん!」
ラズベリー王国は、フランボワーズ城にて。
女王ローザリーゼと、果ての魔女ミシュリーは、仲良くじゃんけんをしていた。
…………なんでやねん。
他のチームかと思ったら、よりにもよってお前らだったんかい。
「ミシュリーさん。予言の発動のためには、あと何回じゃんけんをしたら良さそうですの?」
あぁ……予言魔法の準備なのか…………どうやら、真面目な儀式だったみたいです。
「なんでやねん」とか言ってすみません。
「今回、なるべく正確に予言したいのよ。とりあえず、200回くらいお願いできるかしら」
「もちろん。じゃんけんをすることでこの大陸を救える確率が上がるなら、何千回でも何万回でもやってやりますわ」
しゃべる魔物たちをみすみす逃がした彼女たちは、あの後、現場に残された残りの魔物たちを大急ぎで処理した。
まさに圧巻。ミシュリーが集め、リゼが仕留める。
先ほど使用していた炎、土、重力、蔓、斬撃強化などの魔法に加え、ミシュリーの電気、氷、岩、リゼの風、樹木、種、花粉、虫などの、様々な粒度の魔法が飛び交った。
そして5万はいたはずの魔物の雑兵たちは、恐らく半数程度があっという間に肉片と化し、もう半分は一定の時間になると、せっせと逃げ帰ってしまった。
リゼは軍に指示を出す。
「ラズベリー兵は亡骸をできるだけ回収! 夜の警備も怠らぬように!! 魔法伝令兵はアコンに連絡を! わたくしと持ち場を交代させますわ!!」
「はっ!」
厳しい試練をクリアした者だけが名を連ねることが出来る、少数精鋭たるラズベリー兵たちは、無駄の少ない動きでキビキビと仕事をこなした。
統率が取れていて、良い軍隊だというのが素人目にもわかる。
弱点はきっと、数の少なさだろう。
ラズベリー王国の人口は、俺たち三国の中では圧倒的な1位だが、徴兵は原則志願制なので、兵の数は人口に比例しない。
実はピスタチオとビーフシチューには、一定の年齢になると軍に入らなければならないという、がっつりとした徴兵制がある。
……現代日本で暮らしていた俺の感覚では、正直、王としてその事実を受け止めるのに少し苦労した。
しばらく経って、アコンが前線に到着。警備の指揮を開始する。
アコンの魔粒子検知能力は、実はリゼよりも上だ。ひょっとすると、ミシュリーをもわずかに凌駕するかもしれない。透明化する敵がいることが事前にわかってさえいれば、アコンなら、何とか感知できるかもしれない。彼は一晩集中して、敵陣を観測する役目を担った。
今回の戦い。結果として、知能も高くかなり凶悪だと思われる魔物、しかもミシュリーやリゼが見逃すレベルの透明化能力を持つ連中を取り逃がしてしまった。
しかし、リゼはミシュリーを責めなかったし、ミシュリーもリゼに謝らなかった。
しかも、お互いにお互いの行動が間違っていたとも思っておらず、後悔もしていなかったと、年代記に書き記されている。
この時既に、今後のドクダミ皇国との戦い方に関して、2人の見解と方針は一致していたようだった。
彼女たちが決意した内容は、今後ずっと、俺を苦しめることになる——
そして夕刻。
アコンに前線の管理を任せてフランボワーズ城に戻った彼女たちは、すぐに準備をして、予言の儀式を開始したのであった。
ランダム性の積み重ね。
それが予言精度向上の鍵になる。
女王と魔女は他のチームが戻ってくるまで、ずっと2人でじゃんけんをし続けた。
◆◇◆
試練2日目。
もう日も暮れ始めた。
俺と上田については、今日は一日中森の中を歩いただけで、特に植物の変な魔物に襲われることもなかった。昼間に丘の上から見えていた川まで歩き、そこで野営をすることに決めた。
「うへぇー、さっきの釣りでまた汗びっしょりだ。こりゃ今日も葉っぱ1枚になんなきゃだめかなぁ?」
「葉っぱ1枚あればいいだろが。生きてるだけでラッキーだぞ? 今日は俺が先に身体洗わせてもらうわぁ」
上田は川の方に歩いていった。
この世界、今は初夏ぐらいの季節のはずだが、同時期の現世の日本よりも暑いような気がする。
この世界では1年が360日しかないと聞いた。
公転周期が短いということは、俺のいた地球よりも少し太陽に近いとか、公転速度が速いとかもあり得るだろうか。俺の曖昧な理系科目の記憶ではそれ以上のことはわからない。
……そうそう、ちなみにこの世界では、太陽のことを伝仮名で「大陽」と書くそうだ。
だから本来は、ミシュリーがナラハラ戦で放った大技「La Bombe duSoleil ――」も、伝仮名だと本当は「大陽の爆弾」と書くそうだ。
…………知るかそんなの!! 俺は今後書く機会があっても、『太陽』って書くからな!!
日常生活で、こんな感じのニアミスがめちゃくちゃたくさんある。そのせいで、現世とどこが同じでどこが違うのか、コトブキくん、未だに全然覚えきれていません。
昼間に上田が北極の話をしていたが、ピスタチオ国内でギャル2人に教わった内容によると、そもそもこの世界、星や宇宙の構造までもが元の世界と似てしまっているようだった。
ピスタチオ、ビーフシチュー、ラズベリー王国のあるレモンスカッシュ大陸は、ユーラシア大陸——特にヨーロッパの西端にそっくりな地形だし、上田との会話で出てきた極東のハポンという国は、日本にかなりそっくりな形をしている。
位置こそ違えど、フランスに似ている「フホンス」という国があるようだし、ベー語を話す国なんかはそのまんま「アメリカ」という名前らしい。
「大陽系」の惑星も、水金地火木土天海。冥王星はまだ発見されていないらしい。その存在をギャル2人に言ったら、
「まじ!?」
「え、ウチ、探せるように、職人さんに望遠鏡発注すんね!」
と言っていた。
……いや、そんなことは良いのだが。
……なぜ?
なぜ、世界はこんなに似ているのか。
午後も歩きながらずっと考えていたけれど、答えなど出るはずもなかった。
この似方は、例えば過去の転生者がどうこうしたくらいで揃えられるようなレベルではない。
この世界が、宇宙に存在していることは確かなようだけど、果たして俺のいた世界と、同じ宇宙の同じ時間軸に存在しているのか。
その根本的な問題を調べる方法など、俺にはなかった。
「……おう、なんだ? 考え事してたのか? まぁいいや、お前もとっとと水浴びしてこいや!」
腰にデカい葉っぱを1枚巻いて、上田が戻ってきた。
「ふぅ! 冷たくてちょうど良かったわぁ。お前も行ってこい。その間にこの鱒と鮎を焼いとくからよぉ。いやぁ、いい鮎が捕れたわぁ」
「わかったよ。っくぅ、川の水の冷たさ、ちょっと苦手なんだよなぁ」
現世よりも暑いとは言ったが、夕方の川の水で身体を洗うのはかなり冷たいのだ。
ちなみに今日も、上田と違って俺は釣果ゼロだった。
やっぱり俺は「アンラッキーボーイ」なのか!? 悔しいっ!
渋々立ち上がって川へ向かう俺の背中を見つめ、上田はポツリと独り言を言った。
「今夜は改めて、腹を割って話そうじゃんかぁ。なぁ。能都コトブキくん」




