第37話 果ての魔女参戦
さて、2日目の昼を過ぎた頃。
フィジカル&魔具チームの面々も、かなりの苦労を強いられていた。
ドン! ドン!!
ギィンッ
ギャリギャリギャリッ!!
地下空間には、不毛な戦闘音が響いていた。
「ぐぅ……弾が全然当たりませんな……狙いは正しいはずですが……」
「ぜぇ……ぜぇ……わかるよ……弾が勝手に曲がんだよな。おかしいぜこの銃」
まーくんが1丁、バーグ師匠が2丁、『水弾の愛妻』を手にし、無限に自動装填される水の弾を撃ちまくっていた。
が、彼らの言う通り、弾丸は決して素直な軌道で飛んでくれない。
運よく当たりそうになっても、意地悪なことに、人形たちに当たる寸前にグイッと弾道が変わってしまう。
もちろん彼らの銃の腕前は折り紙付きだ。普段なら絶対に当たるはずの撃ち方なのに弾が全く当たらないのは、耐えられないほどのストレスだった。
加えてこの水鉄砲、殺傷能力が相当低いようだ。いくら無限に連射できたとしても、これではまるで使い物にならない。元いた世界で例えると、市販のエアガンに毛が生えた程度の威力しか無いようだった。
「こんな玩具で、どうやって戦えってんだよ……」
「ふぅ…………さすがに同意ですな……」
彼らは当たらぬ銃を手にしながら、ときどき襲ってくる敵の攻撃を避けなければならなかった。
苦労しているのはングディンも一緒だ。
「ナンデヤネン!!!」
ほら。もうイライラしすぎて、カタコトの関西弁が出てしまっている。
彼の嵌める『神経質な拳』の悪いところは単純で、拳を振った際に振りすぎてしまったり、逆に途中でビタッと止まってしまったりする。
「モウ……勘弁シテクレヘンカ……」
…………ングディンがあまりにも辛そうなので、こっちが泣きそうになる。
確かにそんなグローブで戦えって言われたら、俺も泣いちゃうかもしれん。
そして忘れてはいけないのが、この空間は、魔粒子濃度がとっても濃いという点だ。
「ふぅ……ふぅ……ふぅ……う゛っ」
魔粒子の濃さに当てられ続けて、ついに、バーグ師匠の意識が途切れかけてしまう——
昨日からの疲れが回復しきっていないのだ。
「はぁ……はぁっ……ダメです!!」
それを見て即座に、トワリが左手で腰のエターナルドスの柄に触り、瞳を紅くしてまでバーグ師匠のもとに高速移動した。
バチン!!!
コンクリートで囲まれた空間に、甲高い音が反響する。
トワリの右手のひらが、バーグ師匠の頬を叩いた音だ。
「あえあ゙っ!? はぁ……はぁ……あ、ありがとな、トワリちゃん。助かったぜ……」
「はい。この場での気絶は避けるべきです」
トワリはさらに、4人を見回した。
「それでみなさん、私が気を失いそうになったときにも、今と同じことをしてください」
戦闘中の残りの2人も、トワリの方に首を向けた。
バーグ師匠は、驚いて声を発する。
「は?! 気絶しそうになったらビンタしろって言うの?? レディにそんなことできるかよ! 無理すんな!」
トワリは激しく首を振る。
「はぁ……はぁ……それこそダメです! 王の剣であるトワリにとって……前線に赴けない状況など……即ち死を意味します。はぁ……はぁ……バーグ師匠さんたちは……頬を叩くだけで助けられるのに……何もせずにトワリを見殺しにするのですか……? このくらいの魔粒子濃度、耐えられなきゃお話にならないのでしょう?」
トワリの瞳は真っ直ぐだ。
彼女には、常に「王の剣」としての覚悟があるのだ。
「くそぉっ……! 嫌な試練だな本当によぉ。左の頬を殴られたら、今度はレディの頬を殴んなきゃあなんねぇのかよ。神様に怒られそうだぜ……」
バーグ師匠は耳の上を引っ掻きながら言った。
……以前、トワリがボロボロになるまで銃で撃ったくせに、よく言うぜまったく。
「やってくれますね……?」
「ビンタくらいしねぇと起きらんねぇもんな……はぁ……しゃあねぇ……やるよ……」
まーくんも、ングディンも頷いた。
「この試練……10日間フルに使う可能性もありますが……なんとか耐えて、糸口を見つける必要がありますな……」
「ゲロ吐イテデモ、倒レナイ根性、見セテヤリマスヨ……」
トワリも頷いた。
「ミシュリーなんて、果ての森に何年も独りで住んでいるのです……私たちだって10日くらい……耐えてみせましょう」
フィジカル&魔具チーム。
4人はフラフラしながら集まると、誰からともなく手を差し出した。
「……エイ、エイ、オー!」
力を振り絞り、全員で声を出す。
すると、大声を出したせいで、早速ングディンがふっと意識を失い、ガクッと膝から倒れそうになった。
「ングディン殿ぉっ!!」
隣りにいたまーくんが、咄嗟にングディンをぶん殴る。
ゴッ……!!
「グボォ……ッ!? ア、アリガトウゴザイマス……」
咄嗟のことで、平手打ちではなく完全にグーパンになってしまっていたが、もはやそんなことなど気にしている場合ではなかった。
◆◇◆
そしてドクダミ皇国との国境地点。
相も変わらず、国のトップツーである女王とアコンの2人は、最前線で戦っていた。
「ふぅ……アコン。敵さんたちが、また増えてきましたわね」
「はい。一刻も早い、試練の完了が求められますね…………そうだ、それで言うとあの魔女は何をしてるんだ? すぐにでもこちらに来られるはずだろうに」
「ミシュリーさんですわね。彼女は予言の魔女ですのよ? 焦ってはダメよ。きっと何か考えがあるのですわ————セエエエエイッ!!」
「グギャアアアアア!!!」
ローザリーゼが、回転しながら斧を振り抜くと、恐らく元はシマウマだったと思われる二足歩行の魔物の肉をズバッと切り裂いた。
「くっ……シマウマさんなんて、どこから連れてきたんですの。絶対に……絶対に、許せませんわ……」
そう言った後、ローザリーゼは突然何かに気がついたらしく、巨大な斧を地面にザクッと突き刺して後方を見た。
「————あらあらアコン。噂話というのを、たまにはしてみても良いものですわね」
アコンも彼女の真意に気づき、ラズベリー王国側を振り返った。
「噂をすればなんとやら——というやつですか」
上空数十メートル。
丸太の上で腕組みをしながら仁王立ちをしているのは、予言の魔女で、炎の魔女で、果ての魔女で、自称ピスタチオ王国一可愛くて、誰もが認める王国最強の魔女——
「お待たせ! ミシュリー=ミシュリーヌ=トーレスプーシュ、ただいま参戦なのよ♡ ——まったくもって、嫌な戦場だわね」
魔女は自ら名乗りを上げた。
彼女は丸太の高度を下げて2人に近づくと、ピョンと地面に飛び降りた。
「……戦争なんて、しなくて済めばいいのにね」
「完全に同意ですわ、ミシュリーさん」
女王は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「アコン! 貴方は一旦城に戻りなさい!」
「御意!」
アコンは返事をするとすぐに、その辺の板切れを拾って、また毒魔法のスケートボードで城へと戻って行った。
「リゼちゃん。ミシュリーってば今、元気いっぱいなのよね。できることしかできないけれど、このミシュリーちゃんが、今から一緒に戦わせてもらうわ!」
「うふふ。光栄ですわ。では————参りますわよ!」
2人は、なおも奥からやってくる、魔物の大群に目を向ける。
「国のため——人のため——可哀想な動物さんたちのために——」
ローザリーゼは斧を、敵軍に向けてかざした。
「私たちが、絶対に侵略を止めてみますわ——」




