第36話 試練の行方(2)
「なんだか昨夜、変な音がしませんでしたか?」
「そうですな」
「デッカイ『ズギュウウウウウン』トイウ音ガシテイマシタヨネ」
ラズベリー王国2日目の朝。
フランボワーズ城の最新の設備で英気を養い、朝食のために集まったフィジカル&魔具チームの面々は、昨夜聞こえた例の音に疑問を抱いていた。
「まさか、敵国からの攻撃とかじゃないだろうな?」
「んー……それはなさそうなのですよね。昨夜も寝ながら、この城の周囲を警戒していましたが、敵意のある人間は全くいませんでしたので」
「…………は?? 城の周り? 寝ながら?? トワリちゃん、君、何て言ったの? え? 本気???」
戦慄しているバーグ師匠の後ろで、ミシュリーは唇を尖らせながら黙っていた。
(あーそうか……この子たち、みんな魔粒子検知苦手だから、あれが何の音だったのかわかってないのね。……まぁ、知らないでいてあげた方がいいこともあるのよ)
その時、ナラハラが勢いよく手を挙げた。
「あ、ハイハーイ! その音、僕も聞きましたーーっ! たぶんあれは――ウゲッほおおおおおっ!!?」
ナラハラがみんなに何かを言いかけたその瞬間、ミシュリーはナラハラのお腹に正拳突きをかましていた。
「あらあら、ナラハラちゃん。虫が止まっていたのよ」
フィジカル&魔具チームのメンバーは全員振り返ったが、4人とも「なんかミシュリーに攻撃されてるけど、ナラハラならいいか」と思って、食堂に入って行った。
◆◇◆
さて、昨晩の様子を、この年代記でまだ紹介されていない面々がいる。
そう、俺と上田からなる国王チームだ。
――と言っても、昨夜も上田先輩がでかい葉っぱを組み合わせてテントを作り、焚き火をし、食べられるキノコと山菜を見分けて、めっちゃうまい夕食を作ってくれて終わっただけなので、特に言うことはないのだった。
2人とも疲れてすぐ寝ちゃったしね。大したことも話していない。
虫の音やカエルの鳴き声が心地よかったけど、火を焚いているとはいえ、見知らぬ国の森で寝るのはかなり怖かった。
そして朝が来た。
俺たちは、まだ空が明るくならないうちに起きて支度をし、出発した。
「上田、これ間に合うのかなぁ」
「ううむ、怪しいな。早く平地に出てくれるといいんだがな」
上田は昨日の植物魔物の攻略以降、少し口数が減っており、何か考え事をしている様子だった。
俺たちは黙々と歩いた。
一歩、また一歩と、恐ろしい連中のもとに近づいているとも知らずに。
◆◇◆
一方、運動場みたいな場所で特訓をしているゴージャス☆ナラハラは、半分泣きべそをかきながら、地面の上で仰向けになり、弱音を吐いていた。
「あああ……できないよぉ……僕はダメ魔法使いなんだ……」
「そうね。てんでダメだわね。どうせ今まで出力ばかりにこだわって、精密操作の修行はあまりしてこなかったんでしょう? ウケるw」
ミシュリーは、相変わらず横でヨガみたいなポーズをしながら、身体の調子を整えていた。
「……んねぇー、果ての魔女せんぱぁい。ほんとにヒントくれないんです?? ヒントくれないと僕、脱落しちゃうかもしれない。あぁみんな、僕の分も頑張ってね……先立つ不幸をお許しください……ぷわぁ〜〜ん」
ナラハラは寝転んだまま、両手を羽根にして、空に飛んで行く素振りを見せた。
「んー。確かに、昨日はヒントをあげない方を選んだけど、今日は別にあげてもいいのよ」
ナラハラはシュバッと立ち上がって、気をつけをして、即座に敬礼をした。
「それはっ! 本当でありますか! 上官殿!!」
「ええ。今日以降はミシュリーたぶん、ご用事あるから。もうここにはいられないだろうし」
「……用事なのに『たぶん』なんです??」
「うん。しかも、たぶんそこそこヘビーな用事だわね」
「はえ〜……? 何でもいいですけど、是非お願いします僕にヒントをくださいこのまま使えない魔法使いでいるのめっちゃ嫌なんです助けてください神様仏様果ての魔女様〜っ」
ものすごい早口だ。
まったく、果ての魔女に試されて「ヒントをください」なんて、プライドとかないのか? ナラハラ君は。
……ところで「ヒントをください」って、前にどっかで聞いたことがあるセリフだね。
「ミシュリーは炎魔法でやるけどいいわよね。あまり今、体力使いたくないのよ」
彼女はピョコッと立ち上がると、ナラハラの挑戦の度に毎回ラズベリー王国の係の人が律儀に引いてくれている、石灰の白線の手前までやって来た。
そして、ゆっくりと杖を構えた。
「ふぅ……」
久しぶりに見る、果ての魔女の真剣な眼差し。
と、思ったら、ミシュリーは300m先の的を見るのをやめて、目を閉じてしまった。
「あのね。こういうのは、見るんじゃないのよ。……感じんのよ」
ミシュリーの杖の先に、火の玉が発生する。
周囲の魔粒子がズズズズ……とそこに集まり凝縮しているのが、係の人にもわかるほどだった。
火の玉が大きくなっていく。
ピンポン玉大から、ソフトボール大、バレーボール大にまで達した。
同時に、キィィィィィンという音が鳴っている。
高火力魔法が放たれる時にたまに聞く音だ。魔粒子の共鳴音か何かなのだろうか。
ミシュリーは目を瞑ったまま、右手の照準を、目標の針の穴に向けて定めようとする。
杖はゆらゆらと矛先を探していたが、ほんの数秒で、何かを見つけたように、ピタリと動きを止めた。
「見てなさいね…………」
目を瞑ったまま杖を持つミシュリーの手首のあたりから、彼女の背後に向かって勢いよく風が吹き出した。
「————螺旋炎禍槍・煉錘穿」
瞬間。
それはまるで一筋の流れ星のように、午前中の爽やかな空気を一気に切り裂いた。
バレーボール大の火球から高速で飛び出した、一筋の炎——
ドシュッ————!
————ッキィ゙イイイイイイイイイイインッ!!!!!!!!!
「おわああああああああっ!!!?」
「螺旋炎禍槍・煉錘穿」——放たれたその魔法は、細く、軽く、脆弱な糸のように見えるけれど、実際は堅く、重く、強靭な爆熱の炎を螺旋状に発射する、一点突破型の魔法であった。
まるで空気をノコギリで切るかのような音とともに、灼熱の炎の糸が一瞬で的がある場所を突き抜けた。
糸の周りでは、細かい火の粉が、回転しながら絶えず飛び散っている。しかし、これだけ強力な炎魔法にもかかわらず、なんと的はおろか、針すらも倒れてはいなかった。
ここで炎の糸は、何事もなかったかのように、すっと消えてしまった。
係の人は恐る恐る的に近づき、状況を確認する。
この魔法の最先端部分。高速回転する、0コンマ数mm程度の紡錘形の炎属性の魔粒子が、確かに針の穴の真ん中を通ったらしい。
その証拠に、穴の内側の金属だけが、綺麗にドロリと溶けてしまっていた。
……ピンポンピンポンピンポーン!
軽快な機械音が鳴り響く。
ミシュリーは目を開いた。
「————ね?」
「いや、『ね?』じゃあるかあぁぁっ!! なんですか、今の糸みたいな上級魔法はぁ!? 物理法則どうなってんのさ!?」
「これ、水魔法でもできるわよ?」
「できるかぁっ!!! え、何?? 試練ってここまでしないとクリアできないの!?」
「フフ。まぁまぁまぁ。強さとか速さとか、いろいろと考えながら試してみることよね。——さてっと☆ 無事、合格もしたことだし。ミシュリーはもう行くわね」
そう言って、空中に向かって指をくいっくいっと動かすと、例のごとく、遠くの方からミシュリーに向かって丸太が飛んできた。
ミシュリーは、丸太にピョンと飛び乗って言った。
「あ、そうそう。アコンちゃんって自分の居場所を知らせるために、わっかりやすい魔粒子放ってるから、検知の練習に使ってみると何か見えてくるかもしれないわね。じゃあね〜♪」
丸太はまるで彼女の話が終わるのを待っていたように、ミシュリーの挨拶と同時にビュンと加速して、あっという間に飛んで行ってしまった。
「一人になってしまったウホ……」
運動場みたいな広場に、ポツンと立ち尽くすゴージャス☆ナラハラ。
果たして彼は、無事に試練をクリアできるのか。
魔法使いチームは、もう君だけになってしまった!
頑張れよ、ナラハラ!! 応援してるぞ!




