第36話 試練の行方(1)
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っっっ!!!!!! できるわきゃねえだろおおおおおおおお!!!! ムッキイイイイイイイイイっっっ!!!」
「アハハハハハッ!!! ナラハラちゃんってば、魔粒子操作が下手すぎるのよwwww」
試練開始、初日の夜。
ここはフランボワーズ城の食堂。
奇声を上げているのは、今日の試練が全くうまくいかなかったゴージャス☆ナラハラだ。
「どーすんの? あのちっさい的。300m先の針なんて、そもそも見えないのに、穴に魔法を通せって何言ってんすか?? うがーーーっ!!」
かしましく騒ぎ続けるナラハラの横で、ミシュリーはお箸を使って豚の角煮のような料理を食べていた。
——あ、この世界には、お箸も普通に存在します。
本日の結果はと言うと、合格者はゼロ。
誰一人として、試練をクリアした者はいなかった。
まぁ、初日だしね。
そう簡単にクリアできるような試練が課されるはずもないだろう。
————否。
本来ならば、ミシュリーだけは免許皆伝も同然。即座に合格できたはずだ。
しかし、なぜか彼女は今日一日、ナラハラの様子を横目で見ながら、ずっと瞑想に勤しんでいたらしい。
そのおかげなのか、なんだかいつにも増して、お肌がツヤツヤしているように見えた。ただでさえ、中学2年生みたいな見た目なのにな。
「だいたいさぁー。なんであんた、助言のひとつもくれないんです!? 天下の果ての魔女様でしょーーが! 僕みたいな、か弱い魔法使いを助けてあげなさいよっ」
「あははは! だって、ヒントなんてあげたらつまんないじゃないの!」
ミシュリーは「プププ」と笑った。
……俺の特訓の時は、割と簡単にヒントをくれた気がするけどな。魔法使いには厳しいのかしら。
恐らくミシュリーには、何か崇高な考えがあるに違いない。
そうでなければ、ナラハラが不憫でならない。
周りを見ると、フィジカル&魔具チームも全員、食堂に戻っていた。
もちろん、国王チームの俺と上田はここにはいない。サバイバル旅の真っ最中だから。
「あぁ……ナラハラくん……叫ぶ気力があるだけいいよ……」
「ですな……」
「ツライデス………」
「——そうですね。たしかに少し疲れましたね」
フィジカル&魔具チームの4分の3の皆さんは、まさに疲労困憊という感じだった。
せっかくのフランボワーズ城の豪華な椅子に、でろんと、へばりつくようにして倒れている。
まさか、まーくんまでこんなにだらしない格好をしているなんて。ぜひ俺もこの場で直接見てみたかった。
残った4分の1はトワリである。
彼女だけは相変わらず(他所の国の食堂だろうがお構いなしに)、元気にバクバクと夕飯を食べまくっていた。
「……みんな、酷い有様だわね。こんな『湯葉』みたいになっちゃったまーくん、初めて見たのよ。一体どんな試練だったの?」
ミシュリーからの問いに、トワリが赤肉のステーキを頬張りながら答える。
ったく! 口の中のものがなくなってからしゃべりなさい。
「もぐもぐ……『一万人組手』という名前だそうれふ」
「一万人組手?」
「ごくんっ…………はい。薄暗い地下修練場で、武器を持った人形をひたすら倒すのですが、その人形が、倒しても倒しても起き上がってくるのです」
「…………まさか、あなたたち。ただただバカ正直に人形を倒しまくってたんじゃないでしょうね?」
「うーん……正直、そのきらいもなくはなかったのですが……そもそも今日は、数体倒すのでも精一杯だったのです」
「え゛っ、この面子で?」
ミシュリーは、搾りかすみたいになってしまっている3人を見回して少し考えたが、すぐに何かを察したようだった。
「…………あー、なるほどね……だいたい理解したのよ。あなたたちの苦手分野だったんでしょう?」
トワリはコクっと頷くと、今日の試練の様子を語り始めた。
◆◇◆
ミシュリーの予想通り、本日のフィジカル&魔具チームは、試練開始と同時に、一鬼当千を目指して、人形たちをバカスカ倒しまくろうとしていた——
「……参ります」
眼前に待機する、一万もの人形兵たち。
彼らが武器を構えた瞬間には、既にトワリは「暴れ馬の竹刀」を手に取り戦闘態勢をとっていた。
その状態のトワリの瞳は、いつものように深紅に染まる————と思いきや、彼女の瞳は元の黒さのままだった。
それもそのはず、トワリの眼が紅くなるのは、彼女が「エターナルドス」に触れたときだけだ。
すなわち、いつものあれは魔具とトワリの血が反応して初めて生じる現象であり、トワリだけの力で発動している魔法ではないのだ。
とはいえ、エターナルドスを持っていない状態でもトワリの動きは凄まじく、なんとか目で追えはするものの、その様はさながら剣の達人。
一切無駄のない動きで、何体もの人形を連続で斬り倒したようにみえた。
が、案の定この試練、一筋縄ではいかないようだ。
「手応えが全くありませんね……」
トワリの周りの人形たちは、何事もなかったかのようにその場に突っ立っており、一体たりとも倒れていなかった。
ここで、まだその場にいたアコンが話し始めた。
「さすが、噂に聞く『最強のメイド兼ボディガード』のトワリ殿だ。素の体術や五感の鋭さにおいて、貴方を超える人間は、この大陸にはいないだろうな」
アコンは腕を組んで感心している。
「だが一方で——魔粒子操作は、てんで話にならない。5歳児かと思うほどにお粗末だ」
トワリは、アコンの方を振り向かないままで、自分を取り囲む人形たちに目をやっている。
アコンはさらに話し続ける。
「『暴れ馬の竹刀』は、魔粒子操作のできぬ者が使うと、敵前でグニャリと曲がり、攻撃を与えられなくなる、とんだ『じゃじゃ馬』武器だ。今回の試練、貴方は相当な苦労を覚悟すべきだろうな」
「なるほど。厄介ですね」
トワリは竹刀を眺めながら呟く。
「ソンナ仕掛ケガ…………ト、スルト、我々ノ武器モ……」
「厄介な仕掛けがあるということですな」
「はぁーー……だーから、俺の『|ビブラスラップ二丁拳銃』をさぁ…………使わせろってんだよぉっ!!」
バーグ師匠は叫ぶと、目にも留まらぬ速さで、愛する『ビブラスラップ二丁拳銃』を抜き、見事な早打ちで2発発砲。
銃弾は、見事に2体の人形の脳天に命中し、中身の綿を「パァンッ!!」とぶち撒けさせた。
「へへっ! どんなもんよ。これをあと5,000回繰り返せば良いだけだろ?」
人形は頭を破裂させられ、その場に倒れてしまう。
それを見た周りの人形たちは、倒れた2体のもとにわさわさと集まってきていた。
「ふむ……やはり、やってしまったか」
アコンはため息をつきながらバーグ師匠を見ていた。
「見てみろよ。俺のデミグラスちゃんたちでも倒せるじゃんか。なんか文句あっかー?」
バーグ師匠のしたり顔に対し、アコンは顰め面を見せつけながら、人形たちの方を指さした。
人形たちは倒れた2体のもとで、何やらもぞもぞ動いていた。
シュルシュル……
シュルシュル……
地下空間に、心地よい音が鳴り響く。
それは布と糸が、スムーズに擦れ合っている時に出る音だ。
「ううむ、これは……極めてまずいですな」
まーくんが、冷や汗を垂らす。
人形たちが一生懸命にやっていたのは、なんと——
「お裁縫——」
トワリが目を細めて言った。
群がるたくさんの人形たちの手により、倒れていた2体の人形は、あっという間にきれいに縫い合わされ、元気に復活してピョンと立ち上がってしまった。
しかも、ちょっとスリムな4体になって。
「いや、増えてんじゃねえかああああああ!!!」
「だから言っただろう。置いてある武器を使えと。そこにある武器でなければ、こいつらのコアは…………おっと、これ以上はヒントになるな」
アコンはわざとらしく呟くと、くるりと踵を返した。
「では俺は、お宅らの国王のところに向かう。あんたたちは、18時まではこの空間から出られないが、時間になれば昼食も届くことになっている。せいぜい試行錯誤してくれ。じゃあな」
バーグ師匠の険しい顔を見てやることもなく、アコンは入り口に戻ると、その分厚いドアを思い切りバタンと閉めて出ていってしまった。
まーくんとングディンの冷や汗が増える。
「地獄の始まりのようですな……」
「エエ……完全ニ同ジ気持チデスヨ……」
この2人は、自分たちが魔粒子の検知や操作を特別に苦手としていることを、痛いほどに理解しているのだ——
◆◇◆
地上に続く階段を登りながら、アコンは考え事をしている。
彼は独り言を言った。
「しかし……あのトワリ殿があそこまで魔粒子検知も操作もできんとはな。噂に聞く限りは、こんなに能力が低いはずは無い……のだが……」
この瞬間。
アコンは何かに気づいてしまった。
「………………?? ………………待て。トワリ殿は、半径数百mの範囲の敵の気配を察知できると聞いていた。いや、今日実際に見た限り、この城内で俺と同じ範囲を警戒し続けていたが? ————は?? え、まさか…………魔粒子なしで???」
アコンは急に背筋がゾッとした。
怖くなったアコンは、それ以上、このことを考えるのをやめ、2人の王への試練の説明に向かったという。
◆◇◆
「と言う訳でして。みんな全然攻撃が当たらなくて、参ってしまったのです」
トワリは説明し終えると、次の骨付き肉に手を伸ばした。
「だったら、なんであなたはそんなに元気なのよ……相変わらず、とんでもない体力お化けなんだから……」
ミシュリーは、もう一度周りを見た。
残りの3人は、相変わらずさっきと全く同じポーズでぶっ倒れていた。
「……これは、何日か掛かりそうだわね」
「ミシュリー。我々は、自分たちで何とかクリアすば良いと思うのですが、コトブキ様たちは大丈夫なのでしょうか。国王様2人の試練だけ、極端に難しく設定されているということはないのでしょうか」
トワリは窓の外を見た。
ミシュリーもそれに倣う。
「大丈夫。ミシュリーは、ここに来る前に何度も『予言』しといたのよ。…………きっと大丈夫よ」
ラズベリー王国、フランボワーズ城にて。
慣れない土地での初日の夜が更けてゆく。
試練の合格期限まで、あと9日。
合格した者だけが、この後の戦いについてこられるのだった————
……ちなみに既に描かれていたことだが、ローザリーゼが自室で魔粒子を「ズギュウウウウウン」と鳴らしていたのは、この夜のことである。




