第34話 ラズベリー女王の試練(2) 〜一万人組手と毒騎士アコン〜
「……確かに、あれはかなり臭いですなぁ」
「エエ。間違イナイデスネ」
「なんであんな臭いんだろうな?」
「あの臭さは、他のものには例えられないですよね」
「…………おいっ! あんたら、何呑気してんだっ!! つーか、一体何の話をしてんだっ!!」
アコンが、ナラハラへの試練の指南から市民体育館みたいな道場に戻ると、ピスタチオ・ビーフシチュー陣営のうち、まーくん、バーグ師匠、ングディン、トワリの4人が、板張りの床にベッタリ座って、楽しく談笑していた。
彼らのことは「フィジカル&魔具チーム」とでも呼ぶことにしよう。
しかし、本当に何の臭いの話をしてたんだ。気になる……
「あ、戻ってきた。アコン——だったっけ。そんなこと言われたってよぉ、あんたがここで待てって言うから、俺たちゃ暇してたんだ。両国王も、どっかに連れてかれちまったしな」
バーグ師匠は、よっこらしょと立ち上がり、アコンにそう言った。
「だからって、人の国で胡座かいてワチャワチャしてんじゃあねえぞ!」
まぁ、確かに。こいつら、楽しそうにくっちゃべってたもんね。
「危機感が足りていないのだと言っている! 貴方がたが今のように弱いままでは、ドクダミ皇国に蹂躙されるのを待つだけだと説明したばかりだろう!」
アコンの表情は険しい。
これも当然だろう。彼は直近、その目で嫌というほど、劣悪な戦場を見ているのだろうから。ラズベリー陣営は恐らく、今この瞬間も必死に戦っているはずだ。
「——ソレデ、アナタハコレカラ、我々ニドンナコトヲ教エテクレルトイウノデスカ?」
「フィジカル&魔具チーム」の残りの面々もおもむろに立ち上がり、ングディンがアコンに尋ねる。
「…………貴方とまーくんは比較的真面目そうだな。ついてこい。貴方がたに足りないものを補うための訓練場が、ここの真下にある」
アコンはブーツで床板をコンコンと叩いた。
「……ん!? 俺とトワリちゃんは真面目じゃねぇって言うのかよ!?」
バーグ師匠は、バッとアコンの方に首を向けて言ったが、彼はバーグ師匠の言葉を無視し、くるりと背を向けると、道場の奥に向かって歩き出した。
はじめに動き出したのはトワリだった。
彼女は何も言わずに歩き始め、真剣な表情で、スタスタとアコンの後についていく。
残りの3人もお互いの顔を見た後、彼女に続いて奥の方へと進んでいった。
◆◇◆
市民体育館みたいな空間の奥には、地下へと続く石の階段があった。
一行がそこを降りると、何やら暗く冷たい雰囲気の大きな空間に出た。
コンクリート打ちっぱなしだろうか。
冷たい壁で囲まれた薄暗い大空洞で、高さはざっと10mはありそうだ。
これだけの高さを出せるってことは、まさか鉄筋コンクリートか……??
ラズベリー王国の建築技術の高さが伺える。
この空間のさらに奥には、何かが出てきそうな大きなシャッターが設置されていた。
軍事基地の兵器格納庫を彷彿とさせる禍々しさが感じられる。
「なんだか、空気がヒヤッとしていますな」
「……嫌ナ雰囲気デスネ」
「かなりな」
4人は入り口に立ち尽くす。
一方で、トワリはまだ、一言も話さない。
これから起こる試練に、思いを馳せているように見える。
アコンは立ち止まって、再び4人の方を向いた。
「ここは、我が国で最も魔粒子が濃い場所でな。ピスタチオ王国の果ての森ほどじゃないが、訓練をするにはもってこいの場所だ。今から貴方がたには、ここで試練を受けてもらう」
「魔粒子が濃い? おい、俺たちゃ魔法使いほど魔粒子の耐性がないから、魔具を持ったり、身体を鍛えたりしてんだぞ? こんなとこにいたら気絶しちまうよ」
「気絶したければすればいい。代わりに前線には来ないでいただこう。足手まといだからな」
アコンの返答に、バーグ師匠は舌打ちをしたが、それ以上の反論はしなかった。
続けてアコンは、4人の目の前に置かれた長机を指さす。
「そこに3種の武器があるだろう。それぞれ『暴れ馬の竹刀』一振り、『水弾の愛妻』が3丁に、『神経質な拳』が一組だ。まぁ、名前はどうでもいい。重要なのは、少なくともそいつらすら使いこなせないようでは、我々と肩を並べて戦うことは難しいということだ」
「あ? この水鉄砲みたいな銃を使えって?? 俺は俺の『ビブラスラップ二丁拳銃』ちゃんたち以外に浮気したくねぇんだけどなぁ」
「ならば今すぐビーフシチューに帰れ。もしくは、その愛銃とともに、なすすべもなくこの部屋で野垂れ死んでくれ」
そう言うとアコンは右手を上げ、指をパチンと鳴らした。
部屋の奥の大きなシャッターがガラガラと開かれてゆく。
「あれは……」
トワリがようやく口を開いた。
そこにいたのは、無機質な白い布でできた、大量の二足歩行人形の姿。
問題はその数だった。
「『骨が折れそう』という言葉では済みそうにありませんな」
シャッターの奥から行進してくるのは、まさに「軍勢」——
人形たちの足音は、暗闇からダッダッと規則的な足音を立てながら、軍事パレードのようにこちらに近づいてきた。
「ラズベリー王国伝統の魔粒子制御訓練。『一万人組手』を開始する————こいつらを全員打ち負かすことができた者だけ、このアコンが直々に最終審査を行ってやろう」
無機質な人形の兵隊たち。
人形一体一体は、殺傷力のありそうな本物の武器を持っている。
骨も筋肉もないはずの彼らは、不気味にも、首を曲げたり、腕を伸ばしたりして、準備運動をし始めていた。
「————来ます」
トワリの声が響く。
人形たちが一斉に武器を構える音が、コンクリートの地下空間に大きく鳴り響いた。




