第34話 ラズベリー女王の試練(1) 〜魔法使いと針の穴〜
「アコンちゃん——だったわね。こっちの陣営に不足していた、魔粒子関連の特訓をしてもらえるなんて、とってもありがたいのよ♪」
ミシュリーはわざと明るく話しているように聞こえる。
アコンの説明を受け、ピスタチオ・ビーフシチュー両陣営の面々は、チーム分けをして、それぞれに適した試練を受けることとなった。
その1チーム目は、ミシュリー、ナラハラの二人。つまり「魔法使いさんチーム」だ。
と言っても、ミシュリーは既に免許皆伝状態なので恐らく余裕でクリア。実質ナラハラ専用の試練になるだろう。
3人は王宮の敷地内の、先ほどの道場から少し離れた場所にいた。
当のナラハラは学校の運動場を思わせる広場に立っていて、ラジオ体操のような動きで準備をしている。やる気は満々のようだ。
魔法は血で発動するらしいし、もしかしたら準備運動の動きも、魔法の発動に良い影響があるのかもしれないなぁ。
…………うーん、あるのかなぁ??
「『魔粒子の特訓をしてもらえる』ですって? 違うでしょう。俺が予想するに、果ての魔女様。貴方が、こうなるように仕向けたんだ。ピスタチオ国王を見るに、ここ数日、わざと魔粒子系の訓練をさせなかったのでしょう。筋肉ばかりがパンプアップしている」
「ふふふ。そこまで見抜いてるなんて素敵よね? それでもお互いに、この試練は必須なのだわ。絶対に。各々の国と命を守るためにね」
(ま……実際は事前にしてあった予言から、ミシュリーが特定の行動を選んだだけなのだけれど)
ここで、ナラハラが声をかけてきた。
「んで、シレンでしたっけ? やるんですか、やらないんですか?? 僕はいつでも、ダンジョンに繰り出す準備万端ですよー??」
ナラハラ……こいつ本当にこの世界のネイティブなんだよね??
「誰が貴方をダンジョンに連れて行くなどと言ったんですか。まったく、勝手に変な方向に話を進めないでいただきたい。貴方が受ける試練は、あれですよ」
アコンが指を指した先は、運動場の向こう側。
約300m先に、小さな的のようなものが立っていた。
「なんすか、あれ? トーテムポールかな?」
「どこの部族が、運動場にご先祖を祀るのだ、バカモノめ! 違う! あそこに小さな針が用意してあるのだ」
ナラハラは親指と人差し指で丸を作り、的を見ようとした。
「……見えないな」
「こんなとこから肉眼で見えるか、バカモノ!! その見えない程小さい遠くの針の穴に魔法を通すのが、この試練の目的なのだ!」
アコンって、もしかしなくてもツッコミタイプだよね。
ムカつくけど、ちょっとだけ親近感が湧いてきたぞ。
「ヘッ! 僕は発酵しても、ビーフシチューの三賢者ですよ? そんなの簡単ですよ」
「『腐っても』だろ! それを言うなら」
ゴージャス☆ナラハラは言うやいなや、左手で海賊帽を押さえながら、右手を伸ばして杖を構えた。
「行けっ!! ハイドロ波乗りカノン! レボ☆リューションッ!!」
ドッボオオオオオオ!!!
つい一瞬前までふざけていた男とは思えない程の魔力出力。
呪文こそふざけているが、ミシュリー戦でも使っていた超強力な水魔法だ。
杖の先から、直径2.5mほどの水柱が、渦を巻きながら一直線に的を目掛けて飛んでゆく。
その途方もない質量の水柱は、ジャッバーーーンッという音を立てて、針どころか、的ごと設備をふっ飛ばしてしまった。
「フフフッ! どうじゃぁっ!! 見たかぁっ三賢者の実力をおおっ!」
ナラハラが勝ち誇り、自慢げに声を上げたその瞬間。
どこからか、大きな機械音が鳴った。
ブッブーーーーー!!
「ブッブーーーッ!?!?」
ミシュリーはそれを見て、お腹を抱えながらゲラゲラ笑っている。
的の近くでは、フランボワーズ城勤務とみられる方々が、一生懸命に的を立て直していた。
「この試練の目的は、超精密な魔粒子操作だ。針の穴の中のみに魔法を通さない限り、クリアにはならない。そのつもりでいてくれ」
「最初に言えー!! そんなのっ!!」
「だいたいわかるだろ!! そんなのっ!! 勝手に始めたのは貴方だ!! まったく……では、俺は他の試練の説明に行くのでな。せいぜい十日以内に針の穴を通せるよう、頑張ってくださいよ」
アコンが後ろを向いて去ってゆく。
ナラハラは歯と歯を閉じて、アコンに向けて「イーー!」っと口を広げて見せた。
「……見えてますよ?」
アコンは魔粒子の動きを検知するのが上手だった。
「……ふふふんふふーん♪ さぁて、と! シレン、シレンーっと!」
ナラハラは的の方に向き直し、腰に手を当てて立ってみた。
「ふーーーん。どうすっかなー、あれ。僕、細かい作業苦手なんだけどな。ね、ミシュリーさん!」
「はー、面白い! そうね! がんばれー!」
ミシュリーはただニコニコしているだけで、助言をくれそうな気配はなかった。
だが、ナラハラが何をするかは楽しみなようで、ものすごくニヤニヤしていた。




