第32話 幕間与太話 ビーフシチュー王国を通って
「うわあああお! 高級馬車じゃねえか!!!」
俺、トワリ、ミシュリー、まーくん、さらに30人程度のピスタチオ兵は、国境を超え、ビーフシチュー王国のとある村にやってきていた。
まーくん奪還作戦のときに、ハラミ=ザ=ブッチャーたちと戦ったあの村だ。
ラズベリー王国を目指す道中、ビーフシチュー王国を通るついでに、この村に寄り、以前に強奪した——もとい、お借りした、馬車を弁償しに来たのである。
「い、良いのか!? こんなもの貰っちまって。若ぞ……いや、ピスタチオ国王様……! うおお、この艶感、たまらん!!」
「若造でいいよ、よしてくれ。それに迷惑をかけたのはこっちだし」
「いえいえ、こちらこそご無礼を。本物の王様だとはつゆ知らず。こんなヒョロ……スリムな方が、新しい王様だとは思わなかったもんで」
あの時は「本物だろうが偽物だろうがどっちでもいい」って言ってたくせに!! 俺はちゃんと覚えてるからな!?
そして、みんな俺のことを「ヒョロガリ」だと思っている……
ハラミはその図体に似合わずに、縮こまってペコペコしていた。
「お詫びに、これを! 最高級の牛肉でさぁ! ビーフシチュー王国はその名に恥じぬ通り、牛肉が特産なんですよぉ! 自慢の逸品っすよ!」
ハラミはでっかい肉の塊をくれた。
ものすげぇ霜降り肉……! 俺のいた現代でも、数万円じゃ済まないぞ、これは。
「うお、ありがとう。馬たちは無事に戻ってきたんだよね?」
「ええ、あの後すぐに。……改めて、上田さんからの命令と勘違いがあったとはいえ、王様に包丁を向けちまって、すいやせんでした」
「とんでもないことだよ。お互い、あれしかなかったんだ。こちらこそ、すみません」
俺たちは、子供たちを含む、村人みんなに手を振り、残りの馬車に戻って出発した。
もらったこのお肉は、今夜泊まる予定の、ビーフシチュー城で食べることにしよう。
◆◇◆
——さて、皆さんはこう思ったことだろう。
「ビーフシチュー城、この前ぶっ壊れたから、跡形もなくない??」
と——
「おぉっ! 来たかぁ、能都コトブキ!」
上田が、遥か頭上、13階の窓から顔を出して出迎えてくれた。
眼の前にあったのは、ワインレッドカラーのタイルでびっしりと覆われた、大きく、近代的なビルだった。
「なぁ上田ーーー! このでっかい建物はーーー! 何ーーー?」
「すげえだろ! ビーフシチュー庁舎として、以前から建築してたのよぉ。なぜか知らんが、先日ちょうどよく古い城が壊れたんでな。こっちを新しい居城にせざるを得なかったんだわ! いや、参ったね!」
あいつ声デカっ。13階だぞ。海砂利水魚の偽綸旨の能力のせいかな? 「自分の声が地上まで届きますように」とでも願ってるのだろうか。
……というか上田のやつ、事前にこの庁舎建ててあったな?
そこまで計算して、城をぶっ壊させたのかよ。改めて、詐欺師みたいな男だ。
他方、近代的なビルとは言ったものの、窓は木製かステンドガラスが多く、上田の部屋や玉座の間など、一部の部屋にしかガラスが使われていなかった。
さすがにこの世界の工業レベルは、俺のいた「現代社会」のレベルには届いていないっぽいのかな。
とは言え俺たちは、この国の最新の設備が整った新・ビーフシチュー城で、美味しいお肉と温かい布団に包まれて、英気を養った。
待たせたな……いよいよ、ラズベリー王国に突入だ……!
翌朝になり、俺たち、『極上の晩餐同盟』の面々は、朝早くに新・ビーフシチュー城を出発した。
きっと、しばらくは戻れなくなるだろう。
なんとなく、そんな予感がしていた。




