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第30話 二国同盟と戴冠式 〜新たな触手チンチン丸〜

 上田との激闘を終え、今夜、俺たちはビーフシチュー王国で過ごすことになった。


 とりあえず俺と上田は、ビーフシチュー城勤務の国民のみなさんにお世話になり、()()()()()()()()()()()()()の近くの、仮設テント内のベッドに、二人仲良く寝かせられていた。


 もちろん別々のベッドにだぞ!!


「まったく! 王様ともあろう人たちがなんなんですかこの怪我は! ()()()()()して! 治すこっちの身にもなってください!!」


 す、すげぇ。

 物語によく出てくる、典型的な勝ち気おばちゃん系のナースが、ぷんすか怒っていらっしゃる。

 王様にも、物怖じしないで対応できるタイプの人だ……


「痛でででぇっ! おばちゃん、いつも言ってるだろ。優しくしてくれや。あんたみたいな人は、物語の中とかだけにしといてくれ!」


 上田から見てもそうなんだ。この世界でも珍しいんだな。

 よかった、俺の感覚合ってるみたい——


 なんにせよその女性は、俺たちの怪我を、回復魔法でかなりスムーズに直してくれた。

 短期間の治療にも関わらず、俺の骨折も上田の銃創も、それぞれ、なかなか綺麗に治してもらえた。


「あんたたち、明日の朝まで、この部屋から動くんじゃないわよ!! 特に上田さん! あなた、8発も銃創があったのよ。動いたら、ぶん殴って気絶させるからね!!」


 そう言い残すと、おばちゃんは忙しそうにテントから出ていってしまった。

 ……彼女の言葉は信頼できそうだ。きっと本当にやるぞ。


 おばちゃんが出ていってしまうと、あろうことか、テントの中で上田と二人きりになってしまった。

 

 嫌だなぁ。今からでも遅くはないぞ。可愛い女の子と同室にしてくれんか?

 

「して、お前さん。いつこの世界に来たの」

 

 ほらねーー? すぐに質問攻め大会始まるじゃん。しょうがないなぁ、もう。


「えーと……この国に()()したのが今朝だろ?」

「密入国な?」

「ちょ、うるさい! 黙ってて。——で、昨日のミシュリーの『炎のチャレンジャー2』が確か4日目だったから、今日から4日前の午前中にこの世界に来たことになるね」

 

 上田は飛び起きて言った。

「はぁ!? お前まだ、ここに来て4、5日しか経ってないのに国王やってんの?? バカじゃん!? っ痛でででで…………なんでもう適応してんだよ! 頭のネジ飛んでんのか! 国のために命かける理由ないだろ。やめちゃえば??」

 

 まーたこいつは、ソボロデンブやミシュリーと(おんな)じこと言いやがって。

 そのくだりはもう、とっくの昔にやってんだよ。

 

「仕方ないだろ。王にならなかったら、魂ごとどうなるかわかんなくなるって言われたんだぞ? ……けどまぁ、その後で改めて『王様になる』って言ったのは、確かに俺だけども」


「はぁ、参ったねぇ。まさかとは思うが、ソボロデンブには、ちゃんと会ったんだろうなぁ?」

 

「えっと……会ったっていうか……この世界に来る直前に、謎の真っ白な空間で、ソボロデンブの声だけと話したんだよね」


 上田は俺の返答を聞くと、俺のことをじっと見たままで、眉間にシワを寄せながら数秒黙り込んだ。

 

「お前、たぶんだが——魔女とまーくんあたりに、色々教えてもらってないことがあるだろ」


「——!!?」


 今、なんて言った??

 

 こんなところで、ピスタチオ王国の核心部分に近付けるとは思わなかった——!


「おいお前、彼女たちが話せない秘密が何なのか知ってるのか!? いや、予測だって何だっていいんだ! 頼む! 俺に教えてくれ!!」


 上田は顎に手を当てて俯いた。


 返事をしたのは、その5秒後だった。

「いや、あの二人が隠している以上、俺が余計なことを言うのは危険だ。忘れてくれ」


「なぁぁ! お前もそっち側かよっ! 思わせぶりだなぁ、もう!!」


 本当に酷いと思うわ。


 しかし、あの上田が話すのをためらうのだ。

 こうなったら俺は、時が来るまでは、この国の秘密については知らないままでい続けるしかなかった。

 ううむ、いつわかることやら。


「はぁ…………しかし上田。なんでもいいけど、ここから出られないのは暇だな」


「おう、そうだそうだ、忘れてた。お前さんから、現世の話を聞かせてもらいたいんだったよ」

 上田はそう言った後、さらに何かを思い出したようだった。

 

「違うな。その前に、一番大事なことを聞かにゃあならん」


「何だよ……」


 俺は警戒した。

  

 上田のことだ。

 また、王の責任がどうのとか、国がどうとか、きっつい質問を投げかけてくるに違いない。

 勘弁してくれ。



 

「あのさぁ、能都コトブキ。触手チンチン丸ってさぁ——」





  

「————股間も、触手なの??」 

 

 



「……は??」


 

 叶うなら、是非とも俺は、このときの自分の顔を、写真に収めておきたかった。



 ◆◇◆


 

 所変わってテントの外では、すっかりミックスベジタブルみたいになってしまったお城の残骸を片付けるので、誰もが忙しかった。

 

「まさか、予言が三つとも実現していたなんて。こんなのはじめてなのよ」

 ミシュリーは、彼女が果ての森でバトエ……バトルできる鉛筆で行った予言について言及していた。


「ホントよねっ! はじめての経験だわ! きゃっ!」

 ナラハラは余計なことを言った。

 ミシュリーはナラハラを睨む。


 彼が余計なことを言ったのは事実なのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、契約違反には当たらない。

 彼は死なない。


 ミシュリー、トワリ、ナラハラ、バーグ師匠の4人も当然、テントの設営や、魔法による瓦礫の撤去を手伝っていて、大忙しだった。

 

 まーくんとデイは指示出しに勤しんでおり、ングディンはまだ怪我と魔粒子暴走の後遺症が治りきっていないので、おばちゃんのドクターストップをもらい、近くのテントで横になっている。

   

「ミシュリー、これまでに三つの予言がすべて実現したことは?」

 トワリが革手袋を嵌めた両手で、文字通り「瓦礫の山」を運びながら尋ねる。

 すごいね……そんなに持てるんだ。何kgあるの、それ。


「ないわ。一度もね。たぶん、コトブキちゃんの『不運』の能力、それに上田の能力と共鳴したのもあって、いつもと違うことが起きてるのかも」

 

「コトブキ様の言う通り、あの能力は、ただ『不運』を伝播させるだけではないのかもしれませんね」

「そうね——」

 ミシュリーは杖を操って、瓦礫を浮かせながら言った。


(「低確率事象の強制発生」か——コトブキちゃんの分析が正しいってことでいいのかしら)


「それで、これから二国は同盟を組むんだろ? あの触手チンチン丸さんの能力は、俺たちにとってプラスになるのかい? あの悪魔も含めて、ちょっと怖いぜ」

 バーグ師匠はミシュリーに聞いた。

 

 ……バーグ師匠って、ミシュリーへの質問多くない? ミシュリーのこと、辞書か、検索エンジンか、チャットAIだと思ってない??


「魔法は、使う者の志次第で、善にも悪にもなる。……コトブキちゃんならきっと大丈夫よ」

 ミシュリーは、遠くを見ながら言った。

 

「コトブッキー……」

 ナラハラもそう呟いたが、今回に限って、バーグ師匠はナラハラのお尻を蹴っ飛ばしはしなかった。



 この数日後、ようやく俺は、正式な戴冠式の日を迎えることとなる。


 新たな「触手チンチン丸」として——


 

 

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