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第29話 二人の王

 パァン——!


 銃声が鳴り響く。


 その弾丸はビーフシチュー王国の日暮れの空を引き裂いて、上田の右腕を貫通した——


「グッ!!! んんんんんんん゛っ!! ばかなっ! 誰だ!!!」



 俺も、胸の痛みに耐えながら、なんとか首をそちらに向ける。


 なんとそこに立っていたのは——


「コトブキ様。(わたくし)めのためにそんなお姿になってしまうとは。後でお説教が必要()()()


 ちょっと偉そうな口調。

 汚れてしまっても、気品のあふれるモーニングコート。

 白髪、白髭、伸び過ぎた背筋(せすじ)


 彼は紛れもなく——


「まーくん——っ!!」


 ピスタチオ王国最強の事務方——

 まーくんこと、まさひこが、しゃがむトワリを従え、銃を構えて立っていた。


「ありえねえだろぉ! じゃあ、あそこに寝ているメイドは誰だっ!! いや、仮にお前がまーくんを救ったとして、なぜ俺に弾が当たる!!」


 確かに——!

 だってまず、トワリはあそこにいるじゃないか!


 俺と上田はまた上を見た。


 元・上田の部屋では、ミシュリーが()()()()()()()()を、杖で操って宙に浮かせて、グルングルン回していた。

 ひええええええ!! ミシュリー、何してんの!?

 …………やめたげなよぉ!!


 トワリが口を開く。

「コトブキ様の起こした爆発で上田様が遠くに行かれた後、何だか私、動けるような気がしたんです。なので、こっそりミシュリーに頼んで、土人形を作ってもらいました」


 え? えええええ???


 ミシュリー、実況解説に参加しながら、トワリの土人形を作ったってことぉ!?


「ちっ、確かに俺が魔粒子を撒いたのは、部屋が健在だった時だ——」


「貴方の声も遠ざかって、トワリへの影響が薄れたのよおおおおーーー」

 ミシュリーが遠くから解説の叫びを飛ばしてくる。

 …………せめてその精巧なトワリ人形を、ブンブンするのをやめなさい!!


「お陰で密かに動くことができまして、オーロラ魔法の最後の残り香を見つけられました」


「あとは簡単でしたな。連中、私の銃も、近くにしまってくれておりましたから」


「なので、効果が薄れている今ならば——」

 トワリは一瞬だけドスの(つか)を触ると、その場からふっと消えた。


 次の瞬間には、上田の前から俺を奪い、お姫様抱っこをしながら、まーくんの横に戻っていた。


「一瞬だけであれば、貴方の隙だってつけます」


 ——え、かっこいっ。

 惚れてまうやろ。


 

 相性が良いと思っていたトワリに不意を突かれ、上田は大声で叫んだ。

 

「舐めんなよ——てめえらああああ!!! 全員、止まれえええええっ!!!!」


 上田が全力で魔粒子を撒き散らす。

 辺り一面が灰色に染まるほどの魔粒子量。


 それが一気に爆散する——!!

 


 ゾアアアアアアアアアッ!!!!!!


  

 俺、トワリ、ナラハラ、バーグ師匠、影で隠れているデイ、かなり遠まきに見ているビーフシチュー兵たち、そしてミシュリーまで、全員の呼吸が止まるほどの大規模魔法が放たれた。


 

「俺の能力はなあ!!! 最強なんだよ!!! ピスタチオの連中ごときが!! 万全状態の魔女以外に、この俺を突破できる人間なんぞ——」


 パァンッ!!!!


 上田の言葉を遮るように、再び鳴り響く乾いた銃声——


 まーくんは、今度は両手で拳銃を掲げて、より正確に狙いを定め、上田の左手も貫いてしまった。


 上田は両手をぶらんと垂らす。

  

「なぜだ……まーくん、貴様!! なぜ貴様には海砂利水魚の偽綸旨マスター・オブ・セレモニーが効かない!!!」


 まーくんは親切にも回答してくれる。

「なぜ? 上田様は、このまさひこから情報を抜き出せなかった時点で気づくべきでした。(わたくし)の脳には、ソボロデンブ様によって、精神防壁がかけられているんですな。この魔法は、ミシュリー殿でも、解くのに一週間はかかるでしょう。上田様()()では、解除は難しいですな。このまさひこ、()()()()()()()()()()


 上田は両手から血を流したままで、眉間にシワを寄せた。


 そしてその後、納得したようにこう言った。


「ならばお前さんを潰せば勝ちってのは変わらんなぁ!! 魔粒子を放てぇっ!! この俺の支配する台本で!!! まさひこを倒す!!!」


 上田は走り出す。

 彼の周りに今までで最も濃い灰色の魔粒子が、大量に発せられ、竜巻のように渦を巻いている。


「コトブキ様——もうわかりますな」


 まーくんは、今撃った分の弾を古めかしい拳銃に装填しながら、俺の方を見て言った。


「私の弾丸だけでは、上田を止めきれません」


「あぁ。任せろ、まーくん。……先に、一つだけ言ってもいいかな」


「ええ。なんなりと」


 俺は折れた肋骨を左手で押さえながら、まーくんの横に立ち上がり、上田の方に「王家の右腕(触手)」を向けた。


 

「ありがとう——」



 言い終わると、俺の「災厄と共に歩む者カラミティ・ウォーカー」の魔粒子が、なぜか普段の禍々しい色とは違う、真っ白な色を纏って、上田の方向に飛んでいった。



 まーくんは、見事な早撃ちで、込められた6発の弾丸を、全て、()()()()()()()()()、バラバラに、明後日の方向へと撃ちまくったのだった。



 ◆◇◆



 ビーフシチュー国王——上田テッペイは、瓦礫の上に倒れてしまっていた。


「痛ててて……参ったねえ、どうも。これじゃあ起き上がれもせんよ」


 一体、何が起こったのか。


 まーくんが放った6発の弾丸は、全く上田を狙っていなかった。

 ゆえに、通常であれば、99.99999%、まっすぐ向かってくる上田に当たることは無かった。


 だが、案の定、俺の能力がその全弾をわけのわからん方向に跳弾させ、上田の魔力回路の急所に、6発同時に被弾させたのであった。

 ちなみに魔力回路の急所が人体のどこにあるかというと——その説明はまた今度にしよう。


 もはや、俺も上田もボロ雑巾みたいだった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……痛って……奇跡すぎる……痛って。まじ…………まじで痛い……」


「コトブキ様。ソボロデンブ様は、『奇跡ってのは、起こすもんじゃ、見とれよぉ』が口癖でした。たいてい、何も起きませんでしたが」

 まーくんが呟く。

 

 そいつぁウケるぜ、まーくん。

 そんなことより、骨折ってこんなに痛いんだね。コトブキくん、泣いちゃいそうだよ。


 俺はふらふらと、倒れている上田の前へと進む。

「おい上田……覚悟しろ……」 


 俺がそう言ったその時。

 横からすごいスピードで、二人の男たちが現れ、上田の前で手と足を広げ、俺達の前に立ち塞がった。


「上田さんを殺さないでえええ!! 悪人面だけど、心の底の方は悪い人じゃないんです!! 悪いことはいっぱいしてるけど!!!」

「上田サンハ、モウ動ケマセンヨ……カンベンシテクダサイ……後生(ごしょう)デス……」


 デイとングディンだった。

 ングディンに関してはボロボロで、包帯だらけのミイラみたいになっていた。


「ばか野郎。殺すわけ無いだろ……はぁ……はぁ……」


 俺はその場で膝をつく。

 デイと、ングディンは、ゆっくりと左右に退いた。


「おい上田」


「んだよ、新米がよぉ……」


「さっき、俺たちの本当の敵は、大陸のなんとかって国だって言ったよな」


「あぁ、その通りだ」


「共に戦わせろ。俺が王になった理由が、もしかしたらそこにあるかもしれないだろ」


 上田は目を瞑った。

 そして——


「ぶははは! この状況じゃあ、そいつぁ脅しみたいなもんだぜ。仕方ないよねぇ。きよっちゃん、同盟を組むぞ。事務処理の程、よろしくどうぞぉ」


「ふへへ、今の台詞、言質とったからな。録音しておきたかったぜ」


「ロクオン……? 音を録るってことか? 新米……後で、お前の世界のこと、洗いざらい教えろ。何かのヒントになるかもしれんからねぇ」


 ビーフシチュー王国への危険な潜入。

 なんとかかんとか、上田に挨拶をしにきた体で済ませられそうだ——

 


 …………いや、ホントにそんなんで済む????

 城、ぶっ壊れてるけども。


 

 

 そして、この時、きよっちゃんも思っていたという。


 道具は全部、瓦礫の下にあるよなぁ……と。



 ◆◇◆


 

「いやぁ、ものすごい試合でしたね! バーグ師匠さん」

「そうですねえ、ナラハラさん」

「でも僕ら、最後良いとこなしでしたよね!」

「魔女の言うこと聞かないと死ぬんだから、仕方ないっしょ」


「こらー!! ナラハラ! バーグ師匠!! いつまでそこにいるのよ!! お片づけ手伝いなさいっ!!」


「はーーい…………」

 








 

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