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第28話 サイコロと台本(2)

 上田は、土下座をしたまま動けない俺の前で、今汲んできた水をゴクゴクと一気飲みした。


「ぷはあっ。んん゛っ! あ、あ。あ゙ーーーーーー!! 生き返ったぜぇ」


 これも、海砂利水魚の偽綸旨マスター・オブ・セレモニーの効果なのか。

 上田の喉は、再びしゃべれる程度には治ってしまった。

 

「のど飴も欲しかったが、無いもんは仕方ないよねぇ」

 

 上田は金属製のコップを瓦礫の向こうに、カランカランと投げ捨てると、改めて話し始めた。

 

「いやぁ、面白かったよ。俺の口封じまで辿り着ける奴は、なかなかいないからねえ。だけどなぁ——」

 

 上田は俺の身体を、右足で横から思いっ切り蹴っ飛ばした。

  

「おい、コトブキいいいいい!!! 何が、『今は答えない』だ!!!」


「ぐあああっ!!」


 吹っ飛んだ俺を追いかけてくる。

 

 そして、当然、さらに蹴りを浴びせてくる

「その程度の覚悟では!! 国は!!! 守れねえぇ!!!」



 ドゴォッ……!



 鈍い音。


 脳裏で、ボキッという大きな音が聞こえた。


 たぶん肋骨が折れた音だろう。

 初めての経験だ。


 

 ちくしょう——苦しいなぁ——

 直近のバトル、こんなんばっかだなぁ——

 


 痛い思い、もうしたくねぇなぁー…… 


 

「甘いこと言ってんじゃねえぞ!!! てめえ一人で!! 国は守れねえんだよ!! 何も失わずに!! 平和など!!! 手に入らねえっ!!!」

 

 上田はかなり怒っているように見えた。

 だが、なぜか不思議と、俺に対する怒りには聞こえなかった。

 

「悔しかったら証明してみせろ!!! 俺の能力から生き残ってみせろ!! でなければ、ピスタチオ王国は、この俺が支配する!!!」


 

 あぁ……こりゃ、間違いなく肋骨が折れている。

 なぜなら、息を深く吸うだけで、胸の肉の下の特定の場所に、ビキッという激痛が走るからだ。

 


 浅い呼吸をしても痛い。


 

 異世界でも痛いんだ。


 

 あぁ、もう嫌だなぁ。



 

 もう戦うの嫌かもしれない。




 このまま眠りてえよ……



 



 



  

 

 だが——

 



 

 ま だ 終 わ っ て ね え ん だ ——



「おい……上田…………クッ……教えてやるよ……」


 俺はカッスカスの声を絞り出す。

 上田の動きがピタッと止まった。


「俺……にはな……この能力の他に…………まだ切り札が……あるんだ……」

 上田はどうしてか、攻撃を止めたまま、俺の声を聞いていた。


「ハッタリだね。もう俺の文字を見たお前に、勝ち筋はない。悪いがお前は不合格だったんだ。俺には勝てんよ。残るのは処刑のルートだけだ」


「へっ……お前、さっき言ったよな……『ピスタチオ王国はいいよなぁ。無言の連携ができて』って」


 上田は俺の言葉に対し、バッと振り返って上の方を見上げた。

 ——が、ナラハラ、バーグ師匠たちのいる場所に、異変は見当たらなかった。

 

 彼はまたコトブキを見下ろす。

「……何言ってんのかね。魔女とメイドは使い物にならずに遠くにいるままだ。連携のしようなんてねぇだろうが」

 確かに、元・上田の部屋には、今なお、実況席のミシュリーと、床に倒れているトワリらしき影が見えている。

 

 しかし上田は俺にとどめを刺そうとはしないままでいる。

 話が終わるまで待ってくれてんのか??

 へへっ、漫画やゲームの敵キャラ(ヴィラン)みたいでありがたいね……



「俺は……ベールの件で……学んだん……だ……(い゛)っ…………俺がっ……俺がここですべきなのは…………仲間を信じることだ……ってな……」


「…………フン。本当に信じるだけで救われるならなぁ。俺はとっくに神を信じてるよ。コトブキ」

 上田が、上田らしからぬ「神」という言葉を発した。


 そして、俺の話が終わったと見て、何かを諦めた上田の拳が、ついに俺の頭蓋骨に向かって振り下ろされようとする。


「惜しい男だったよ——」

 

 

 その時だった——


 乾いた大きな音が、この崩壊したビーフシチュー王国の空気を切り裂いた——



  

 パァン——!


 


 それは、一発の銃声。


 絶体絶命のピンチの中で——

 

 ()()撃った銃弾が、上田の右腕を貫いた音だった——






 

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