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第28話 サイコロと台本

 どっかあああああああああああああああああああああああん!!!!


 これは上田の部屋で発生した爆発音だ。


 この部屋をぶっ壊すための「何か」を引き起こすため、俺はさっきの戦闘中に折れた椅子の脚に魔粒子を込め、廊下に思いっきり投げてみた。

 それが巡り巡って、この部屋の大爆発を引き起こしてくれたようだ。


 たぶんどこかの炎がガス管に引火したとかそういう理由だと思うが、途中で怯えて飛び込んで来たデイを含め、誰もその過程を最後まで見ていない。よって真相はよくわからない……

 俺の能力、怖いんだよなぁ……まじで制御の特訓しないと……

 

 

「ひ、ひゃあああ……」

「おいおい。この壁が無かったら、俺たちゃ間違いなく死んでたぞ」


 ナラハラも、バーグ師匠も、トワリも、ミシュリーも、デイも、みんな無事だったのだが、デイの作った魔法障壁の上の方は、バリバリに割れてしまっている。

 万全ではないとはいえ、あのミシュリーが放った炎魔法を完全に防いだ壁なのに。


「この壊れ具合……おかしいわね。コトブキちゃんと、上田の能力が重なり合って、なにか起こってるのかしら……」


 ミシュリーは、壁を眺めながら呟いた。


  

 ——さて、ビーフシチュー城はもう、ただの瓦礫の山と化していた。

 これだけ荒れていれば、この場にビーフシチュー王国の兵士たちが集まってくるのも難しいだろう。

 

 だが、焦げて崩れた瓦礫の中、()()()()()()瓦礫が落ちていない小さな広場の上に、赤黒くて真ん丸のおかしな球体があった。


 その正体はもちろん、俺を包みこんだ王家の右腕(触手)である。

 俺はそれを、コロコロした形からニョロニョロした形にニュルルっと戻して、立ち上がった。

 

「ふぅ——! ングディンの時もだが、まぁまぁ(さま)になってきたな」

 

(ほぼ、俺様の能力だろうに……)

 

「ん?? なんか言ったか?? 封印されし悪魔くん」


(…………)


 ベールはあまり話してくれない。

 正念場なんだから、もっとちゃんとしてほしいな。

 何せ前方を見れば、そこには無傷で平然と瓦礫の上に立つ上田の姿があるのだから。

 

「んー! 本当にありがとうなぁ、コトブキくん。まじで助かったわ」

 

「…………お前に感謝される筋合いはないはずだが? なんで『ありがとう』なんだよ。お気に入りのパイプオルガンまで木っ端微塵だぜ?」

  

「いやね。うちさぁ、『レモンスカッシュ大陸登録国家間大規模たいりくとうろくこっかかんだいきぼ建築物相互扶助けんちくぶつそうごふじょ災害共済保険さいがいきょうさいほけん』に入ってるからさぁ。悪魔による、災害扱いの城破壊に、物理的なガス爆発も追加とくりゃ、こりゃ間違いなく満額保険が下りるんだわ! 嬉しい〜」


「ああ!? な、なんて言った???」


「レモンスカッシュ大陸登録国家間大規模建築物相互扶助災害共済保険だよ。ビーフシチュー城ってさ、前王の頃にもう減価償却終わってて、老朽化も目立ってたし、設備も時代遅れ気味だったのよぉ。けど、建て直すにしても解体費用が嫌だなぁと思ってたわけ。そこにお前さんが現れてくれたんだよぉ」

 

「え……はぁ!? おま、わざと俺たちに城を壊させてたってことぉ!?」


「当たり前だ。壊してほしくなけりゃ途中で止めてるよ」


 恐れ入るぜ全く……

 なんなのこいつ……

 どこまで計算してんの……

 まーくん助けたら、うちもレモンスカッシュ大陸登録国家間大規模建築物相互扶助災害共済保険に入ってるのかちゃんと聞いとこ……


 

「ときに、能都コトブキ。お前、なんで王になった」

 突然上田が、真面目な顔をして質問してきた。


「なんだよ薮から棒に。また時間稼ぎのパワー溜めか?」


「いや、けほっ。これは今聞いておくべきだから聞く」

 

 ……こいつの思考回路は本当に読みにくい。

 まぁいい。こちらとしても、()()()()()()()()()()()()思ったところだ。

 

「——なんでってそりゃあ、一回死んだと思ったのに、『王様になれば生きられるよー』って言われたら、なる以外の選択肢がないだろ?」


「んん゛っ。ふん! だが、それだけじゃないだろ?」

 上田はまさに、俺を値踏みするような目でじっくり見つめている。

 

「まあな。こんな短い期間でも、王国民たちの生活や気持ちに触れて、俺にできることがあるならしてみたいと思ったんだよ」

 俺は正直な気持ちを話した。

 だが、上田はまだ話し足りないらしかった。


「お前はさぁ。王として、残酷な決断をできるか?」

 これまでの態度と異なり、上田は真剣なままだ。


「というと?」


「国王で居続けるには、お前がどう見ても『優しすぎる』から聞いている。お前がピスタチオ国王の器かどうかを知りたい」


「……」

 俺は何も答えない。


「例えばだ。お前の国が今、深刻な飢饉に見舞われているとしよう。しかし、隣の国には潤沢な食糧があるらしい」


 一体何の話だ、とも思ったが、俺は大人しく息続けた。


「もし仮に、その隣国と戦争をした場合、勝てる可能性が7割はあると見込んだとしよう。

戦争をした場合の国内戦死者数想定が2万人、

しなかった場合の、長期的な餓死者、自殺者数が10万人になる予測が立ってしまった。

その時、果たしてお前さんは、絶対に戦争には踏み出さないと言い切れるかね?」


「————仮定の話に過ぎない」


「極めてリアルな、な?」


 ……嫌な質問だ。

 こいつも、ミシュリーと同じように、酷い質問をしてくる。


 ——つまり、そこに王たる者の責任の本質があるのかもしれない。


 王とは、国民の命を守る存在であり、預かる存在。

 しかし、王だけでは国は守れない。

 時には、民に命を賭けてもらわなくては、他の命や、国そのものが守れないという事態があるのかもしれない……


「答えは出たか? 能都コトブキ」


 俺は上田の瞳をまっすぐ見つめる。 

「あぁ。即答してやる。そんなの状況による。よって、今ここでお前に答えるべきではない」


「ふはは。少しはわかってきたな。だがその答えは……」

 上田はここで言葉を止めて、初めてファイティングポーズをとった。


「良いぜ。けほっ、そろそろ……クライマックスにし……げっほ、げっほ!! な、なんだ……さっきかr……げっほ!!! げっほ!!!!」


 来た——!

 

 魔法使いはおしゃべりで助かるぜ——!

 俺はこれを待っていた! 


 

「あーーっと上田さん!! 急に咳き込み始めたーーーッ!!」

「……ナラハラくん、急に実況再開するね」

「一体なぜ咳込んでいるのかーー!! ミシュリーさん!!」

「あれはきっと、この中で上田一人だけが、コトブキちゃんの爆発の後の魔粒子まみれの灰を、生身でたくさん吸い込んだからだと予測するわ。コトブキちゃんが仕込んだわけじゃないけど、上田が話している途中に咳き込み始めたのを見て、自分の不運が、何かが引き起こしているってことに気づいたんだわ」

「これは上田さん、まさかしゃべれなくなってしまうのでは!? チャレンジャーコトブキ選手、ここから勝つことができるかぁ!?」

「君、どっちの味方なん……?」


 

「うまくしゃべれねえよなぁ、上田!! このチャンス、ものにさせてもらうぜ!!」


 俺はベールの触手を硬質化させる。

 しかし、いつもとは違う——

 俺は触手の形を、大きな握り拳のようにした。


王家の拳(ロイヤル・フィスト)おおおおっ——!!!」

 拳は、上田の頬に届いた——


 上田は大きな拳に殴られ、右側によろめく。

 俺は畳み掛ける。


王家の裏拳ロイヤル・バックフィストおおっ!!」

 殴った勢いを反動にして、今度は反対側に触手を動かす。

 絶妙にダサい技名なのはわかっている。

 だが、今はトワリにネーミングの教えを請う暇はないし、上田には確実に効いている——!


 上田は灰で喉がやられて、うまくしゃべれていない!!


 このまま、奴を気絶させる。

 行けるぞ——!


 俺は何度も上田を殴る。

 悪いな。けど、まーくんを攫ったお前が悪い——

 覚悟しやがれ——!!


 上田はさらに数発、俺の渾身のパンチを甘んじて受け止めていた。



 しかしながら——


 上田テッペイは、この程度でたおせる男ではなかったのだった——



 


(トマレ————)



 ビタッ————————



「………………………………え」


 場の空気が止まった。


 否——止まったのは、俺の身体だ。



「おおおっとぉ!? コトブキ選手、いきなり動きがとまってしまったーーーー!!! 一体どうしたぁ?? ミシュリーさん! 解説を!!!」

 未だに元々上田の部屋があった高所の、少しだけ残った魔法障壁の向こう側で実況を続けるナラハラ。

「そんな……だって今、上田は話せないはず……どうやってコトブキちゃんを止めたってのよ……」

「ちげぇぞ、あれこそが上田さんの得意技なんだ。見てみろ! 空中だ!!」

 

 ミシュリーもバーグ師匠もノリノリで腹が立つが、俺も空中を見た。

 

 そこにあったのは——


 ト マ レ


 の文字。

 

 灰色の魔粒子で書かれた、この世界のカナ文字が、空に浮かび上がっていた。

 上田が攻撃を受けながら、魔粒子を操作し、密かに文字を描いていたのだ。


 上田は口の周りの血を拭いながら、ゆっくりと立ち上がった。

 そして空中に向かって、指文字を描き始める。


【危ない、危ない。俺が、しゃべれなくなっちまったときの対策を、していなかったと思うか?】


 灰色の魔粒子文字を空中に書き続け、上田が筆談をしてくる。


 俺はまだ動けない。

 文字を見てしまったが最後、強力な魔法が俺を縛り付ける。


【書き文字ってさぁ。時間がかかる分、暗示が強力なんだよねぇ】


 次々と、中に文字が浮かぶ。


【ひ れ 伏 せ】

 

 上田がそう記載すると。


 

 ドッサアアアアアッ!!!!



 俺の身体は、地面に叩きつけられ、ついでに土下座のポーズをとらされた。


「ぐはっ…………!!」


(おいおいおい——文字通り、上田の描く『台本』ってことかよ!? やばすぎる!! 1ミリも動けねえっ!!)


 上田は周りをキョロキョロ見回すと、元々ビーフシチュー城の食堂があったと見られる場所に行き、なぜか無事なままで残っている水瓶から、拾ったコップに水を汲んだようだった。



「うわあああっ!! コトブキ選手、土下座をさせられてしまったあああ!! 絶体絶命なのかあぁあ!?」

「コトブキちゃん!! まだよ!! まだ諦めちゃだめ!!!」

「諦めないで!! コトブキ選手ぅぅっ!!」

「コラ!! ナラハラくん! 君は上田さんを応援して!!!」



 上田は金属製のコップを片手に、俺の方に近づいてきた。


 俺は土下座のポーズのまま動けない。

 これから動けるようになる気配も、ベールから魔粒子を吐き出せそうな隙も皆無だった。



 つ——


 詰んだ——かも——

 

 

 上田は俺の眼の前で立ち止まる。

 

 俺のことを見下ろす上田の姿が、崩せない()()()のように見えた—— 




 

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