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第27話 ビーフシチュー城、有終の美(2)

「ぜぇ……ぜぇ……全然通用しねえじゃねえか」


「おうおう。触手チンチン丸! いろんな技を見せてくれてサンキューなあ!」


 魔法障壁の向こうにいる観衆(スペクテイター)のみなさんが、呑気に実況席の準備をしている間に、俺はすっかり汗だくになってしまっていた。


(直前にベールが魔粒子をたんまり補充したお陰で、能力はまだまだ使えそうだ——けど、上田を倒すための糸口が全然見えてこねえ……) 


「辛そうだな、新米。そろそろ、俺の家来になる気が出てきたんじゃないのぉ??」


「ばか言うな。ピスタチオ王国は、お前のどす黒い謀略には屈しないんだよ」

 

「はっ! ますます気に入ったよ。お前からは、ソボロデンブと同じ匂いがする。奴は何があっても必ず国を守る『絶対防御じじい』だったからな」


「ふう……ふぅ……お褒めに預かり光栄だよ。悪い気はしないね」


 上田はさらに背中を反らせながら笑った。 

「ぶはははははっ! さぁて、俺の休憩も兼ねてもう少ししゃべろうぜ、能都コトブキ。なぜ俺はこんなに、自分の能力のことをべらべらしゃべると思う?」

 

「たぶん、ばかだからじゃねえか?」


「へへっ、畏れ入るぜ国王様! あのな。魔粒子ってのは、人の心の機微に、敏感に反応すんだよ」 


 …………こいつ、俺のことを殺す気があるのか無いのか、まるでわからん。

 殺気はずーっと放ってるくせに、この余裕。どんな経験を積んでくれば、この空気感をずっと出し続けられるんだよ。

  

「だからなんなんだ。魔粒子操作が上手くなりたいなら、ビーフシチュー国王様のありがたいお言葉を聞いて感動してろってのか?」

 

 上田は話し続ける。

「それもいいが、それだけじゃない。魔粒子操作の基本は『向き』と『流れ』だ。そのくらいは知ってるな? 例えば、人が誰かと話したり、認識を共有したりする。たったそれだけのことでさえ、魔粒子ってのは敏感に反応して、自然とその『向き』や『流れ』を作ってくれんだよ」


 ……なるほど。 

 俺がベールとの会話の後に、魔粒子操作が上手くなる気がしてたのはそのせいか。 

 さっきだって上田は、わざと首脳会談ごっこでおしゃべりの時間を増やしてたし、そう言えばこの世界の魔法使いはおしゃべりな奴ばっかりだ……

 

 上田がわざわざ『止まれ』なんて言わなくても、意志の乗った魔粒子が動いて、めちゃくちゃ影響を受けやすいトワリを動けなくしてしまったのか。

 魔粒子の力ってすげー……


「もうわかるな? 俺がしゃべり倒すのはなぁ、しゃべればしゃべる程に、どんどん能力が強化されるからなんだよ。例えそれが、ごく普通の会話であってもだ」


「はっ。好き放題しゃべりやがって。なにがMCマスター・オブ・セレモニーだ。お前は『司会者』ってより、『支配者』って感じだぜ」


「悪い気はしないねえっ! では、ピスタチオ国王殿。そろそろ、遊びは終わりにしときましょうやぁ」


 上田はゆっくりと俺に近づいてくる。

 上田が歩く度に、足元から灰色の魔粒子が湧き出てきた。


 おい、や、やばそうな雰囲気だぞ——


「ベール!! 防御だ!!!」


(ちっ)


 ベールは一応反応した。

 だが、どう見ても乗り気ではなさそうである。おい、おしゃべりが大事って言ったばかりだぞ!!


 上田は静かに、その言葉を口に出し始めた。


「——祇園精舎の……鐘の……声ええええっ!!!」

 言葉と同時に、上田は俺に攻撃をしてくる。


「ぐふっ……」

 

 強烈なボディフック。

 なんで平家物語……っ

 

 ベールの触手防御が間に合わなかった。

 ——いや、間に合わなかったのではない、上田の能力によって、防御を()()()()()()()()()()んだ。

 俺の肝臓に、鈍く重いダメージが与えられる。


「………………っ」


 声が出せないような痛み。 


 やべえ……やべえやべえ……


 これ、このままいくと……


 死——


 ……最悪のケースが脳裏をよぎる。


 

「諸行無常の——響き……ありいいい!!!」


 上田は両手で大きなグーを作って、それを俺の頭へと振り下ろす。

 俺の身体は床に叩きつけられる。

 

「敗北」を強く意識させるような言葉と共に、俺の心を徹底的に折りに来ている。


「沙羅双樹の……花の……色っ!!!」


 次は蹴り——


 俺は災厄と共に歩む者カラミティ・ウォーカーを発動させているつもりなのに、上田の能力によってそれを掻き消されている感じがする。


「かっ……げほぉぉっ!!」

 床に倒れる。痛みで動けない。

 

「盛者必衰の理をあらはす……」

 上田は上から俺を踏みつけた——


 この絵面……

 なんだ……見たことがある……


 トワリが小さく呟くのが聞こえた。

「これは……ミシュリーの赤の予言の……」


 あぁ——

 ミシュリーが果ての森でしてくれた、バトルできる鉛筆を使った予言だ。


 そう言えば、ナラハラがピスタチオに来ることも、荒野を馬車で走ることも、俺がこんなふうに踏まれることも、あの時に全部予言されていたのか……


 3つのうち、1つだけ当たるんじゃなかったのかよ……

 こんなの聞いてねえ……


「奢れる者も久しからず——ただ春の夜の夢のごとし——」

 さらに上田は俺の首を掴んで持ち上げた。


 片腕で、男性一人を持ち上げられるような肉体なんてしていないはずだ……

 これもこいつの能力だってんだから驚きだ。


 息が苦しい……


 本当に……まずい……


 呼吸ができない。


 すごい力で頸動脈を押さえられている。


 

 ここで——終わるのか——


 せっかく、霊柩車に轢かれても生き返れたのに。

 せっかく、こんな俺を慕ってくれる楽しい仲間たちができたのに。

 もしかしたら……現世よりも……愛着が湧き始めてるかもしれないのに……


 俺は……今度こそ本当に……死ぬのか——

 


 もう、心が折れかけ、負けを覚悟しそうになっていた。


 

 ——そんな俺に、遠くから勝利の天使の声が届いたのであった。


「コトブキ様っ!! わかりました!!!」


「……ト……ワ…………トワリ……っ」


 トワリが、魔法障壁の向こうで倒れたまま叫ぶ。


「しゃべらせなければ良いのです! 特に危険な動きが生まれるのは、上田がしゃべった時だけです! トワリがずっと監視していたので、間違いありません!!」


「へぇ〜……お宅のメイド、目が良いな。超優秀じゃん」


 ……そうか、なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだ!

 こいつの能力が「言葉」で状況を動かすものだというなら、「言葉」さえ発させなければいいだけの話じゃないか!!


「ったく、もうすぐだったのに。お陰で思わず、途中で話しちまったぜ」


 俺は、ベールを硬質化させて思い切り振り下ろした。

 上田は俺の首から手を離し、軽く後ろに飛び退いてこれを避けた。


「げっほ!! げっっほ!!! おい!! クソ悪魔!! ちょっとでも良いからしゃべれ!!! 死にたいのか!!!」


(……………………仕方あるまい)


 トワリが見せてくれた希望の光。

 今はそこに向かって全力で走るしかねえ!!!

 

「いいか!! こいつの口を封じる!! そのための隙を作るぞ!!!」


 上田は感心したような顔で俺を見ていた。

 

「まずは——このばかでかい部屋を全部、ぶっ壊してやるっ!!!」


「おおおっ!! 良いねえっ、やっぱり最高だよお前っ!!! 派手にやってくれやあっ!!」


  

 ◆◇◆


 

「あー、あー。みなさんお元気ですか! こちら魔法障壁で隔たれた安全な場所から、両国の王様たちの戦いを実況していきたいと思います! 実況はワタクシ、ゴージャス☆ナラハラと!?」

「デミグラスソースもバーベキューソースも大好き。ナカヤマ=バーグ師匠でーす。パワー!」


 俺と上田が真剣に戦っている中、ナラハラとバーグ師匠は、宣言通りに実況をし始めてしまったようだ。

 さらに——

  

「そして解説は、この可憐すぎる天才美少女! ミシュリー=ミシュリーヌ=トーレスプーシュが務めさせていただきます☆ キャピ☆」


 ——ナラハラとバーグ師匠はびっくりして、同時にミシュリーの方に首を向けた。


「なっ……何よ! ミシュリーもやることないのよ! べ、別にいいでしょ??」


 ミシュリーが加わりたがるのも無理はない。

 その魔女は、修行の度にそれをわざわざイベント化し、自ら実況係を務めるような女なのだ。

 自分もやりたくて、疼いて疼いて仕方なかったのだろう。


 そんなことは置いておいて。

 ミシュリーが自己紹介を終えた、およそ10秒後のことだった。


「危なああああああいっ!!」


 なぜか、デイがいきなり、魔法障壁の内側に飛び込んできた。


「みんな、伏せてええええっ!!!」


「————は?」


 デイが警告を出したさらに2秒後。

 上田の部屋が、突如、眩い光で満ちた。



 カッ————————


 

 

 どっかあああああああああああああああああああああああん!!!!




 つまりそれは——

 この話が、爆発落ちで終わるということを示していた——





 

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