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第26話 上田テッペイという男(2)

「さぁ始まりましたぁ、本日のスペシャルゲストはぁ?? なんとぉ、ピスタチオ王国から遥々やって来てくれました、この人! ピスタチオ国王(仮)(かっこかり)、能都コトブキさんでーーーす」


 ビーフシチュー国王、上田テッペイ——

 彼は妙に慣れた口調で、勝手に司会進行を担当し始めた。

  

 部屋の隅では、ナラハラとバーグ師匠が「イエーイ」と叫んでいるのが聞こえる。

 その横でミシュリーが、彼ら二人のことを口を開けながら見ていた。

 

「…………おい、真面目な首脳会談なんだろうな」


「はぁ? 当然だろ新米ぃ! しっかりついて来い! 興醒めさせんなよぉ!?」


「…………」


 ボロボロのビーフシチュー城。

 そこになぜか無傷のままで残るだだっ広い上田の部屋にて、「首脳会談」という名を冠したバラエティ番組みたいなのが始まってしまった。

 なんなの……


「ではでは、まずは自己紹介からどうぞお!」


 あぁ、もう……答えるしかないか……


 しかし、これはある意味チャンスなのかもしれない。

 今この場での最高の勝利条件は、戦闘を避けた上での「まーくん無血奪還」だ。


 この抜け目ない上田テッペイを相手に、どうしたらその勝利まで持っていけるのだろう。 

 ……勝ち筋は、未だにまったく思いつかないが、こいつの言う通り、これ以上戦わなくて済むなら、それに越したことはない。

 

「俺の名は、能都コトブキだ。ソボロデンブに代わり、ピスタチオ王国の国王『触手チンチン丸』になった男だ。……たぶんな」

 

「ほう、なるほど? 察するに()()()()()、異世界から来た転生者ってとこかな? だとすると、ソボロデンブ王は一体どうしちゃったのかねえ? 答えてくれや」

 上田は勝手に追加で質問をし始めた。

 

 なんだか知らないがこいつ、その場の空気を、自分に都合のいい方向に持っていくのが上手い感じがする……乗せられちゃダメだ……


「おい、一方的に質問してんじゃあないぜ。今度は俺の番だ。交互に話をさせろ」

「はんっ。いいよぉ、新米くん。何でも聞いて来いやぁ」


 俺は、ここで一度ミシュリーの顔を見た。

 ミシュリーも俺を見て、俺が何を気にしているのかを察したらしい。

 彼女は、遠くでコクリと頷いた。俺は彼女の表情から、「話す内容は任せる」と言ってくれているのだと受け取った。

 

「確かにお察しの通り、俺は他の世界から転生してきた転生者だ。悪いな、世間知らずな国王で。色々教えてほしいものだぜ、最近王様になったと聞く、あなたのような()()にな」

 

 上田は俺の目をじっと見つめている。俺は話を続けた。

「ずっと疑ってはいたんだ。お前らビーフシチュー王国の幹部たちのその風貌。言葉の端々に現れる現世の知識や、言葉遊び。何よりも上田。お前さっき俺に、『お前()転生者か』と聞いてきたな。それで確信したよ」

 

 俺は上田のことを、右手の人差し指でビシッと指さした。

 

「お前らも、俺と同じ世界から転生してきた、転生者なんじゃないのか! そうすれば、すべて合点がいく。さしずめ、同時期に能力を得た転生者複数人で集まり、転生した先のこの世界で、協力して成り上がろうと画策したのだろう! 違うか!!」

 

 俺は真剣な顔で——いや、ちょっとドヤ顔で、上田と、ナラハラ、バーグ師匠の顔を見渡して、名推理を披露してやった。

 もし知り合い同士で転生してきたのであれば、そいつらで一致団結し、この国のトップを狙うというストーリーは十分あり得るはずだ。

 どうだ!!


 上田は、おでこに横皺を寄せて、俺の顔をジロジロ見ながら言った。

 

「…………はぁ?? 全然ちがうけど。お前、何言ってんの??」 

 


 …………うん。


 うんとね。俺も、こういうときにさ。相手が嘘をついているのかどうかくらいなら、なんとなくだけどわかるよ?


 君のそれは、本気で「何言ってんだこいつ」と思ってる顔だよね。


 なんか……ごめんね。全然違ったみたいで。

 

「何を勘違いしてんのか知らんけども、ングディンだけはピスタチオ出身で、俺ときよっちゃん含む残り全員は、生まれも育ちもビーフシチューだぞ。これでいいか??」


 あ、はい。なんか、恥ずかしくなってきました。

 っていうかあなたたち、その感じで、この世界のネイティブなんだ。コトブキくん、ビックリしちゃった。ちょっと信じるのに時間かかっちゃうかも。

 

「さて新米。さっきの質問に戻らせてもらうぞ。ソボロデンブは、今どこにいる」


 良い質問だ、上田。その質問になら、俺は自信を持って答えられるぜ。

 

「知らん」

「あぁん? そんなはずはないでしょうが」

「いや、それに関しては本当に知らん。嘘をつく気も毛頭ない。知らないものは知らないとしか答えられない。そうだろ?」

「…………」

 今度は上田が、ミシュリーの方を見た。

 彼は、睨むような目つきで彼女の方を向いている。

 ミシュリーはそれに応えるように、わざと見せつけるようにして、首を傾げてみせた。アヒル口で。

 

「ちっ。まぁいいか……次の質問行ってみようか、新米くん」


「あぁ。そろそろ本題だぞ上田。まーくんは、どこにいる——?」


 上田は、待ってましたと言わんばかりに笑い始めた。

 

「ぶははは!! その情報は、こっちの大事な交渉材料だぞ? それをわざわざこの場で答えると思うのかい??」

 

 上田は満面の笑みを浮かべている。

 

 それはそうだろう。俺が上田でも、今ここでそんなことを教えないと思う。まだ相手のこと、全然信用できないしな。

 とすると、どうすれば情報を引き出せるのか。

  

「なら質問を変えよう。まーくんは無事なんだろうな。無事に返す気があるんだろうな。返答内容によっては、俺たちはお前を許さないぞ」


「ふんっ! やはりお前は新米くんだよ、能都コトブキ。せっかく良い()()を持っているのに、政治的な手腕はからっきしで、台無しじゃんかあ?」

 

 ……もちろん図星だったのだが、俺は黙って上田の話を聞き続けた。

 

「良いことを教えてやろう。今回はなぁ。本当は俺たちは、お宅の魔女さんを罠にはめて無力化し、その上で、戦力の削れたピスタチオ王国を武力で制圧してやるつもりだったのよぉ」

 

 上田は自分の太腿に両肘を乗せて、前のめりになる。

「しかしだ。幸か不幸か、捕まってくれたのは、お前さんの国で最も重要な情報を握っているという噂の、まさひこさんじゃああーりませんかぁ! これにはさすがの俺も驚いたよ」

 

「…………続けろ」


「そうなれば話は変わってくる。まーくんを尋問して、お宅の国で最もヤバい秘密を引き出し、それを材料にして脅してやれば、はい! 戦争なんておっ始めずとも、お前さんの国を手に入れられて、俺はハッピー! ってなるわけよ」


「…………うちのまーくんが、そう簡単に秘密を吐くわけがない」


「ああ。結論としてはそうだったよ。しかし、はじめはそう思っていなかった。なぜなら、この俺の能力は最強なんだからねえ!」


「——お前の能力?」


「ああ。新米くんも、ナラハラの持ってった手紙で味わっただろうが。名付けて、海砂利水魚の偽綸旨マスター・オブ・セレモニー。俺の言葉や文字に触れたものは、すべて俺に都合の良いように動いてしまう。どうだい。素晴らしい能力だと思わんか?」


 ——こいつ、なぜこんなにベラベラと自分の能力の秘密を? 

 上田は話し続ける。


「なのに、まーくんはなーんにも話さい。なぜか、俺の能力が全く効かなかったんだよ。こんなに精神力がつよい人間は初めてだ。そこで俺は、この価値あるまーくんの使い方を変えてみることにしたのよ。人質になってもらうのが一番良いかと思ってさ」

 

「ゲス野郎」


「なんとでも言ってくれや。国のためなら、多少の犠牲は厭わん」

 上田は、今度は脚を組み始めた。


 俺はこいつの話を聞けば聞くほど、今回の騒動の、そもそもの原因を知りたくなった。

「なぜ、そうまでしてピスタチオ王国を狙うんだ。そんなにうちの資源が欲しいのか」

 

 俺の言葉に、上田は眉毛を上に上げてみせた。

「あらら? お前さん、まだそんなことも教えてもらってないの?」


「————なにぶん日が浅くてね」


「結構。なら俺が直接、重要なことを教えてやろう。俺たちがこれから戦うべき敵は、それぞれ、お互いの国なんかじゃあないのさ」

 上田はまだニヤつく。

 

「…………もったいぶってんじゃねえよ」


「ぶははは! まぁそう焦んなって。俺たちの本当の敵はな。大陸側にある、その名も『ドクダミ皇国(こうこく)』だよ」


「……陰気そうな名前だな」


「あぁ。元あったパクチー王国を一瞬にして滅ぼし、皇帝を自称する転生者が、どんどん勢力を広げてるよ。根こそぎ引っこ抜いて煎じてやりてぇわ」

 

 大陸情勢……

 俺はビーフシチュー王国より先の情報を、全く知らされていなかった。

 

 予想だが、ミシュリーとまーくんが俺に言えない秘密に関係していると思う。でなければ、彼らが俺に説明しない訳がない。


 上田は、右肘だけを腿の上に乗せ、身を乗り出して言った。

 

「おい、能都コトブキ。だから、俺の配下になれ」


「…………は?」

 

 今度はこっちが「何言ってんだこいつ」と思う番だ。


「なるわけがないだろ……」


 しかし、上田の顔は真剣だった。

 

「気づいてるか? お前さんの能力と俺の能力。組み合わせれば、すこぶる相性が良い。俺がピスタチオ王国を欲したのは、大陸の転生者への対抗手段を得るためだ。ビーフシチュー王国は資源、特に食と魔法にはかなり乏しいからな。お前とお前の国が協力してくれるなら、俺は今すぐにでも、まーくんを返すと約束しよう」


「…………信ずる証拠は」


「こんな状況だぞ。あると思うか? だが、はっきり言うが、俺が国を守りたいのも、お前さんの能力を買ってるのも事実だ」


 ……一見、良さそうな話に聞こえる。

 

 だが、俺は悪魔との契約で学んだのだ。

 上手い話には裏がある。


 ……こいつはたった今「協力」という言葉を使ったが、その前にはっきりと「配下に下れ」と言ったのだ。

 言葉の罠を仕掛けてるとしか思えない。

 無条件で属国になるようなばかな国がどこにある。

 

 それこそ俺は、ピスタチオ王国民を守らなければならない。戦争は避けつつも、あくまでも対等な交渉が不可欠なのだ。


「ダメだ。配下に下れだと? そんな不平等な関係、認められるはずがないだろう。まーくんを攫ったお前がピスタチオ王国民を大切にするとは思えない」


「いやいや、ピスタチオ王殿。俺は目的のために突っ走るだけだ。国民の命を無碍にするなんて、非効率的なことはしない。それよりも君の国、新米殿に支配されたままの方が危険なんじゃないのお??」


 俺と上田は睨み合う。


「さぁ、どうする? まーくんの命も欲しければ、国民の運命も大事だよなあ?」


 詰将棋を仕掛けようったってそうはいかない。

 こいつの話に乗らなければ良いだけの話だ。


 ただし……国同士の戦争を避けるためには、上田と直接対決をして勝つことが絶対条件になるだろう……


 

 ——そして、さっきから感じるこの違和感は何なんだ。


 

 上田はなぜ、こんなにベラベラと話し続ける——

 本当にビーフシチュー王国のためなのか?

 何か他の意図があるんじゃないのか……?



 俺がそう考えた時だった。


 

 だだっ広いのに薄暗い、この部屋の明かりの中で、上田の顔の横を、灰色の魔粒子が一瞬だけ煌めいたのが見えた。


 何だ——?


 今の……魔粒子……


 何の魔粒子だ——


「…………っ!」


 この瞬間、俺はあることに気がついてしまった——


 

「おい、上田——お前さっき……能力……マスターオブなんとか……お前の言葉に触れたら、場がお前の思い通りになると言ったか……?」


「………………」

 あれだけ饒舌だった上田が、返答をやめて黙り始めた。


「さっき、この会談中、お互いの能力は使()()()()()と約束したな——」

 

 上田は目を細める。

 

「てめえ—— ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ってんじゃあねえだろうな——」

 

 上田の顔が、みるみる邪悪な笑顔になる。

 

「ふへへへ……気づいたな? 新米」


 俺はその顔を見た瞬間に、椅子からドカッと立ち上がった——!

 

「おい!! トワリ! ミシュリー!! 『首脳会談』は今すぐ中止だ!!! こいつ!! 能力を使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! こいつと話せば話すほど、俺たちの周りの魔粒子が、こいつの都合の良いように動くんだっ!!!」


「ぶはははっ!!! よく見てるじゃあないの、コトブキくんっ!!! 残念だが交渉は決裂かあ!? 首脳会談の時間は——」



「終わりのようだなあっ!!!」


 

 ドウッンッ!!!!


 

 勢いよく立ち上がった上田の身体の周りから、会話の最中に練りに練ったグレーの魔粒子が飛び出し、周りに衝撃波を走らせた。


 灰のような魔粒子は部屋中に分散し、空気中にスッと溶けてゆく——



「さあ、能都コトブキっ!! 既に俺の望みは伝えたぞ!! 貴様のような()()()()に、対等な交渉などさせる気はない!! 俺の配下に下るか、侵略者としてここで処刑されるか!! 二つに一つ! どちらか選んでもらおうかねえっ!!」


 ……最初っから戦うつもりだったんじゃねえか、ばか野郎。


 既にボロボロのピスタチオ陣営。 

 そこに、ビーフシチュー上田の強力過ぎる能力が襲いかかってくるはずだ——


 

 くそったれ……

 言葉だけで、何でも自分の思い通りにする奴なんだぞ……!

 

 そんな奴に、この状況で——

 一 体 、 ど う や っ て 勝 て っ つ ー ん だ よ っ ! ! !







 

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