第2話 アンラッキーチェイン
「触手チンチン丸」というとんでもない名前で異世界転生した俺は、転生後10分も経っていないのに、メイド兼ボディガードと名乗る女性「トワリ」に長ドスで殺されかけていた。
「こんな前回のあらすじは嫌だ」選手権があったら、結構イイ線までいくと思う。
まだ触手チンチン丸が何者なのかも、この国のことも全くわかっていないのに、こんなところでまた死んでたまるか。
「資格があるかを確かめる!?待ってくれ!殺す気かよ!」
「はい陛下。トワリは殺す気で臨みます!」
「俺は望んでないんですけど!!」
触手がまた勝手に動いた。キイイン!と言う音を立てて、鍔迫り合い(どっちも鍔ないけど)をしていたトワリの刀を跳ね返し、数歩後退させた。
(どんな状況だよ。トワリに王としての力を認めさせるって?いきなり過ぎてついていけん!けど、ぼーっとしてたら本当に殺される……!一体どうすれば――)
トワリは長ドスの柄の部分を頭上に掲げ、美しい型を保ちながらこちらを見ている。
「陛下、素晴らしい対応力です。もう『王家の右腕』を使いこなされているのですね」
「使いこなしてなんかない!勝手に動いたんだ!やめてくれトワリ!!このままでは死んでしまう!!俺が!!!!」
我ながら、王としての威厳など欠片もない台詞である。
「ダメです陛下。これはソボロデンブ様との約束――」
そう言うとまたトワリの姿が消えた。
ギイイイイイイイイン!!!!
またも触手がトワリの凄まじく速い太刀筋をガードした。
「死んでしまったら、その程度の器であったと判断して良いと言われております……」
俺はゾッとした。トワリの深紅の瞳には全く迷いがない。おいおい、ここは玉座の間だぞ。殿中でござるにも程がある。っていうかソボロデンブ酷くない??
(やばい、トワリは本気だ……。考えろ。このままだと、生まれ変わってすぐなのに、初対面のメイドに殺されちまう、けどっ――)
再びトワリが消えたかに見えた。次は左後ろに現れ斬りかかって来た。触手は右腕だ。的確に死角を狙ってきている。危うく間に合わなくて肉を斬られるかと思った。
攻撃が更に激しくなる。手数が増える。その攻撃をすべて、何故か触手が自動で防いでくれている。ガキンガキンと何度も金属音を立てている彼女の太刀筋には、やはり迷いも容赦も一切無い。確実に俺の身体を断ち切ろうとしていることが、感触で伝わって来る。
(激しすぎる……!目で追うことすら……!)
その時、また脳内に謎の声が響いた。
(ふん……弱すぎだガキ……。小娘にこの触手で触れてみろ。それができないなら死ね……)
「だ、誰だ!!」
俺の叫び声に異変を覚え、トワリはいったん後ろ跳びをして、5メートル程後退した。
「陛下、どうされましたか……?」
「誰かが俺の脳内に話しかけるんだ。すごく嫌な感じがする」
トワリは怪訝な顔をした。
「しかし……周囲に悪意のある気配は感じませんが」
えぇ、トワリさん、そんなこともわかるんですか?漫画のキャラクターかよ。異世界怖ぁ……。
「周りの人間じゃないとすれば……」
俺は右腕の赤黒いウネウネを見つめた。こいつか?こいつが直接、俺に語りかけているのか?
「この触手でトワリに触れてみろ」と言いやがった。セクハラ野郎め。それで何が起こるってんだ?本当に信じていいのか?くそったれ!何もわからんけどやるしかない。このまま死ぬよりマシだ。
「陛下。続けてよろしいですか?」
「……ダメって言ってもやめてくれないだろ?」
「もちろんです」
トワリが長ドスを握り直した。チャキっという音がした次の瞬間、やはりまた俺の近くで刀を振って来た。俺はその真横からの太刀筋を、触手の自動防御で受け止めた。
「陛下、このままですと私が勝ってしまいます」
「わかってる。っていうかめっちゃ強いねトワリ。さすが国王直属のボディガード」
「お褒めに預かり光栄です」
俺は彼女の力を受け止めながら、金属のように硬くなった触手の一部の硬質化を素早く解き、トワリの長ドスにギュルギュルと巻き付けた。粘液のおかげか、触手で刀身を握っても痛くない。だが確実に、しっかりと刀を握れている感触がある。
「!!」
トワリはドスを握ったまま動けない。この触手、相当に力が強いみたいだ。
「失礼するぞ!トワリ!!」
ドスを握った触手のさらに先端を、ニュルっと伸ばし、トワリの手の甲をチョンと触った。
(さぁ!何が起きる――!)
刹那――。天井からパキッという音がした。そして、玉座の間の絢爛豪華な巨大シャンデリアが、いきなり支えを失って降ってきた。
「……!?」
ガッシャーーーーーンッ!!!!




