学園94
あまり余計な事を言うと神経が逆立って、なおさら体に障るのを知っているからこそ、これ以上は何も言わずに視線を外そうとしたのだが、
「そいつの怪我は覚悟の上さ。勝利を掴む為の……な」
「勝利……勝ったんですか?」
美優の言葉に反応して、彼の方をマジマジと見てしまう。
「…………」
「勝利」という言葉が彼の精神安定剤なのか「勝利」という言葉を聞いて、苦悶の表情だというのに口角が上がっている。
どんな戦いをしたのか知らないし、どうやって勝ったかわからないが、それでもその「勝利」は、彼の精神安定剤になっているのは間違い無いのだが、
「……凄いね」
内心では彼が「勝った」事には、そんなに興味が湧かない。
確かに自分はツバメに負けたが、ツバメじゃなければ勝てた自負がある。
彼がもしも、ツバメと戦っていたら負けていただろう。
彼の勝ったという話は、リナにとっては何一つ自慢にならず、称号として光を輝かせる物では無いが、何かが引っ掛かる。
親戚じゃない…友達じゃない……けれど、どこかで見たのは間違い無くて……自分の中の記憶と彼を照らし合わせていると、彼の間違いを思い出す。
「………………そうだ、核露…雫君だよね?体力検査の時に、アタシにくっついて来た人……何で髪を染めちゃったの?」
「核露……スか?」
「…………」
今の彼は、赤い絵の具で塗りたくったかのように、髪も瞳も真っ赤っかだが、あの時の彼に、唯一惹かれたのは海の狭間の青。
美しい青い瞳と髪。
それは光が差す海面と、光が届かない海底の狭間のような深く青い瞳と髪。
覚えている。
体力検査の時に喰らい付こうと必死になっていた子を、RLHに人間は勝てないのにと思いながらも、一位になりたいと、必死に喰らい付いて来た子を覚えている。
人としてならトップアスリートの天才に並ぶ、秀でた才能なのだろうが、RLHには劣る……RLHでも無い彼は眼中に無く、身体能力なら興味も湧かなかったはずだが、
「俺は火内 刃だ……」
「でも……」
あの美しい青が、鮮烈なまでに記憶の中に残っている。
あの美しい青色が無ければ、彼の名前を知ろうとは思わず、覚えようとも思わなかった。
赤い絵の具を塗りたくったかのような瞳と髪の下には、青い秘宝が眠っているのを知っていて、もう一度、あの美しい青色を見たいと……
「ほらっ!!病み上がりなんだから寝てな!!」
「ふぇ!?」
美優に両肩を掴まれると、そのままベッドの上に無理矢理に寝かしつけられて、
「悪い子だな」
「えっ…?」
覆い被さって来た美優に驚いて、体をリスのように小さくなる。
美優の鋭い目付きで、真っ直ぐにこちらを見据えられて息を飲むと、
「アイツが火内 刃って言うなら、火内 刃だ。どうしても知りたいなら、お互いに仲良くなってからの方が良いんじゃないのか?」
「は…はい……」
「良い子だ」
「ぷげっ!?」
反論せずに、美優の言う事を聞くと頭を撫でられる代わりに、鼻先をデコピンで弾かれてしまった。




