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愛犬のクッキー  作者: Satoru A. Bachman
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 赤城山孝夫は、1970年3月3日に群馬県前橋市で生まれた。

赤城山家はアムウェイのビジネスで成功して金持ちになった家庭だった。孝夫の父、赤城山雄介はクラウンアンバサダー(アムウェイ会員のランク。通称CA。年収1億)。前橋市の郊外にプールと庭園のある豪邸を持っていた。わがままで欲張りな子供だった孝夫は、毎日のようにおもちゃや高価なお菓子をねだった。裕福な家庭だったからねだった物は何でも手に入った。“自由に生きろ”が父の口癖だった。

 父、雄介はよく山へ鳥撃ちに出かけた。小学生の頃、孝夫もよく連れられて、父の射撃を眺めていた。耳をつんざくライフルの銃声。撃たれた鳥はすぐに息絶える。中にはまだ息があり、地面で弱々しくあえぐ鳥もいた。孝夫にとって、今夜のおかずになるそのじわじわと死んでいく鳥を眺めるのが楽しかった。撃った鳥たちを持ち帰り、父は鳥の足を紐で縛って、逆さの状態で木に吊るす。血抜きをするためである。その後、調理の際に首を切り落とす。孝夫はよく庭園の木に吊るされた鳥たちの姿を見て、首吊り死体ならず“足吊り死体”だと言ってげらげら笑っていた。生き物の死んでいく様や死骸を見ることに恍惚を覚えた孝夫は、家の庭園で蝶や芋虫やバッタを見つけると、捕まえて素手で潰しては死骸を自分の学習机の引き出しにしまった。家に大きなゴキブリが表れると、殺虫スプレーは使わずに父のヘアスプレーを吹きかけて、体をカチンコチンにしてやる。もちろん、それだけではゴキブリは死なない。動けなくなったゴキブリを捕まえて庭に持っていき、バーベキュー用にこしらえた石の円の中央に炭を置いて、母がタバコを吸うのに使っていたマッチを取ってきて火をつけた。ヘアスプレーで固まったゴキブリは触覚や足をわずかに動かすのが精一杯のようだった。孝夫はその黒茶色の醜悪でグロテスクな生き物の体に鉛筆削り器で削った先の尖った割りばしの先端を突き刺し、火に炙る。ゴキブリは最後の力を振り絞って、もがく。

「きゃっはっはっはっはっはっはっはっ!」

高く裏返った笑い声を上げる孝夫。黒茶色いゴキブリの体が真っ黒になり、シワシワシワっと乾いた音を立てながら足や触覚といった末端部分が炭と化していく。

「おお、すげえ…」

そんな様を眺めながら孝夫は目をきらきら輝かせた。そして、死骸は大事に学習机の引き出しにしまった。

 ある日、孝夫は近所のゴミ捨て場でズタ袋を拾った。孝夫はなんだか、その薄汚い茶色いズタ袋にときめきを感じた。それを家に持ち帰り、学習机の中に溜まった全ての“戦利品”をそのズタ袋に入れた。孝夫はその死骸コレクションを入れた袋をどこへ行くにも持ち歩いた。

家の地下室にこっそり入っていき、電球一つしかない薄暗く埃まみれのその空間を見回すと、父のライフルが立てかけてあった。いつか、自分も大きくなったら、父のように生き物をこれで撃ってみたいと恍惚に浸りながら、孝夫は指先でライフルにそっと触れた。地下室を出ようとしたとき、部屋の隅に置かれたネズミ捕りシートに目が留まった。シートの上には粘着剤がくっついて身動きが取れない灰色の大きなネズミがいた。孝夫はそれを拾い上げると、庭園へ持っていった。真っ黒い目をして、白い牙をむきだした悪魔のような顔をしたネズミは辛うじて生きていた。ミッキーマウスのような長い尻尾がときおりピクリと動く。孝夫はリビングへ駆けていき、爪楊枝のケースを取ってきた。そして、爪楊枝を1本、ネズミの背中にぶっ刺した。ネズミは断末魔の叫びを上げた。孝夫の耳には“スクィーックッ!”と聞こえた。今度はネズミの腹に1本刺した。また悲鳴を上げるネズミ。

「きゃっはっはっはっはっはっはっはっ!」

狂ったような笑い声を上げる孝夫。

また1本、また1本とその灰色の不気味な生き物の体に爪楊枝を刺していく。ネズミの体も孝夫の手も赤黒い血で汚れていく。そして最後に、孝夫はネズミの真っ黒な目玉に爪楊枝をぶっ刺した。ぷちっとブドウの粒が潰れるような音がして、ネズミは“大人しく”なった。孝夫はまた手に入れた戦利品をズタ袋にしまった。

 ある日、学校からの帰り道、クラスメイトから石を投げつけられた。しばしば酷い悪臭を漂わすズタ袋を持ち歩いて、虫や小動物を探し回っている孝夫の気味の悪い行動は噂になり、いじめの対象となった。他の子供たちから罵詈雑言を浴びせられようが殴られようが蹴られようが、孝夫はお構いなしに“宝物”を片手に趣味を楽しんだ。


 中学時代、孝夫は車に引かれて虫の息になった猫を見つけた。体が真っ二つになり、内臓が飛び出した可哀そうな猫ちゃんを見て、ニキビだらけの孝夫の口元がニヤリとした。孝夫はそばにしゃがんで猫の首を掴んだ。そして、その手に力を込めた。猫は目と口をかっと開いて、無音の叫びを発した。意外としぶとく、なかなか息絶えない。孝夫は更に手に力を込めた。全身に汗が滲むほどに。ビシャッと音を立て、猫の眼球が飛び出し、舌と牙を大きく突き出し、猫は動かなくなった。真っ二つになった猫の死体の上半分だけが孝夫のズタ袋の中の虫や小動物のミイラたちの仲間入りをした。沢山のコレクション。ズタ袋は張り裂けそうな程にパンパンだった。ずっしりと重いそれを眺めていると、孝夫の股間が疼き、なんとも言えない衝動に駆られた。孝夫は人目のつかない路地裏へ行き、ズボン越しに自分の股間をズタ袋に擦りつけた。

「はぅああ…」

孝夫は悦に浸って、声変わりの途中のかすれた声を上げた。そして、もっと、もっと、擦りつけた。その狂おしいほどに愛しいズタ袋に。股間を擦りつければ、擦り付けるほど、頭の中が真っ白になっていく。なんて気持ちがいいのだろう。やがて、孝夫はオーガズムに達し、硬く膨張したイチモツの先端から熱い物が飛び出した。一瞬前までの興奮が一気に治まってしまった。今まで味わったことが無い感覚だった。こんな年になって、お漏らしをしてしまったかと思い、孝夫はズボンを脱ぎ、パンツの中を覗いてみた。イチモツの先端とパンツの内側が白くどろっとした物で汚れてしまっている。明らかにそれは小便ではなかった。孝夫は後に保健体育の授業で、それは“精子”という物だと知った。そして、それが彼の生まれて初めての射精だった。


 1989年、孝夫は19才で結婚し、1992年に娘、赤城山沙羅が生まれ、一児の父となった。1995年、25才のときに千葉県美船市に一家で引っ越した。数字に強くて、数学が得意だった孝夫はそろばん教室、たかお珠算塾を開いた。娘の沙羅が5才のときから虐待を始めた。沙羅の頭を掴んで風呂の水の中に沈めて、苦しむ娘の姿を見て恍惚に浸った。珠算塾でも生徒たちを怒鳴りつけて怖がらせたり、ゲンコツやグリグリ攻撃をして痛めつけたり、自分に対してびくびくする子供たちの面を眺めることが何より孝夫の生き甲斐だった。さすがに自分の娘や生徒たちをズタ袋の中に放り込むことは無かったが。“自由に生きろ”という父の言いつけを孝夫はいつまでも守って、欲望のままに生き続けるのだった。




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