王国一の冒険者達
レンと仲間たち四人を乗せた幌馬車は、ローレンス領に差しかかる街道を走っていた。
王国からの勅命を受け、ローレンス領近隣の洞窟で発生している魔物の異常に対応するため、故郷へ向かう道中である。
しかし、目的地まではまだ遠い。
「はぁ……クソ遠い……おい、もうさすがにローレンス領には入ってるんだろうな」
エルフの錬金術師、セヴランは苛つきながら荷台に乗るレンを振り返った。長い銀髪に青い瞳。身につけた自前の銀で出来た装飾品が、馬車の揺れに合わせてしゃらしゃらと音を立てている。
尋ねられたレンは幌の隙間から街道の西方を眺め、小指の爪の先ほどに見える山を指さした。
「あの山が、このくらいの大きさに見えたらあと丸一日くらいだ」
自分の手で三角を作り、それを顔の横に掲げて大きさを示す。
「……ほーん。伯爵家ご子息は領地の記憶がずいぶんと雑であらせられるなぁ」
「あっははは! まだまだじゃん」
レンの傍らで笑い転げているのは、戦士カルミラ。愛称はミラ。金髪に緑色の瞳、灼けた肌が特徴的な南方部族出身の筋骨隆々とした女性だ。
もっとも、ミラの興味は旅の道程などにはなかった。
「でさ、レン。それよか話の続きなんだけどさ、婚約者のお姫様と一緒に舞踏会とか行ったことあんの?」
「あるが、それがどうかしたか」
「キャーーー♡♡♡ 何? エスコートとかすんの? ダンスとかしちゃうの?」
「??……ああ、それが舞踏会だからな」
「ぶくくく♡ 見たすぎるぅ!!」
「うるせえぞお前ら! あー、酒飲みてぇ」
前方から飛んできたセヴランの声に、彼の隣に座る少女が静かに目を向けた。
「セヴラン、あなたはこれを機に少しお酒を絶ったほうが良いわ。日ごろからあなたのお酒の飲み方については少し気になっていました」
聖属性魔術士にして聖女、ルシエラ。プラチナに近い金色の髪と、右は青、左は紫がかった瞳を持つ。その瞳はこの国において、聖女の印とされるものだった。
「いーんだよ、俺はエルフだから」
「あら、いつもは『俺は辞めエルフだから』と言っているくせに、こういう時は都合よくエルフに戻るのですね。エルフがお酒に強いなんて話は聞いたことがありませんけど」
「言ってくれるねえ。ローレンス家についたら浴びるほど飲んでやるから見てろよ」
「セヴラン、俺の実家は酒蔵ではないぞ」
「知っとるわ」
即座に返されても、レンは特に気にした様子もない。
「レン、セヴランは道が遠いから駄々をこねているだけです。わたしがローレンス家に行ったことがないので転移魔法が使えなかったけれど、帰りは王都まで転移できますから」
「あのね、三百年生きてるエルフを子供扱いするのは君くらいだよ? さすがは聖女様だな?」
「似たようなものですから。不思議ね。年月とはなんなのかしら」
セヴランの皮肉を、ルシエラは涼しい顔で受け流す。
そんな二人のやり取りにも構わず、ミラは再びレンへ身を乗り出した。
「それよかさぁ。レンのお兄さんってどんな人なの?」
「そうだな……」
レンは腕を組み、少し考え込んだ。
「家族にも家臣や領民にも常に配慮している思慮深い兄だ」
「シリョ……? ん? どうゆうこと?」
「何と言うか……俺とは真逆の人間だ」
すると、前からセヴランの声が飛んでくる。
「そいつは何よりだな。お前みたいなポンコツがもう一人居たら、ローレンス領は消し飛ぶぞ」
レンは反論するでもなく、その表情をふっと緩めた。
「そうだな。自慢の兄だ。皆に紹介できるのが楽しみだ」
そう話すレンの横顔を、街道へ傾き始めた夕日が照らしていた。
「ねぇー。おなか減った。今日は野営?」
ミラの声に、セヴランが辺りを見回す。
「確かこの街道沿いには村も水場も無いんだよ。最低限の保存食だけ食って野営になるな」
「えぇーー!」
「……? そうだったか……?」
「いやお前は領地の地図を覚えとけよ」
「水もちゃんと積んできてあります。簡単にスープくらいは作ります」
ルシエラがそう告げた瞬間、ミラの表情がわずかに固まった。
「あっ、今日の食事当番ルシエラ……?」
「…………」
「………………」
レンとセヴランも黙る。
不自然な沈黙の中、ルシエラだけが怪訝そうに三人を見た。
「何ですか」
「る、ルシエラ! あたし手伝うよ!」
「俺、干し肉と酒だけでいい」
「俺はなんでも食べるぞ、ルシエラ」
街道の夜は更けていく。




