EP 9
無限トカレフ×流星脚! 最強女子の共闘、古代兵器を粉砕する極道の絆
ギイィィィィィィィィィッ!!!!
魂を喰らい、エネルギーを充填した死蟲王の殺戮兵器『死蟷螂機』が、空気を震わせるほどの甲高い咆哮を上げた。
全長十メートルを超える鋼鉄の巨体が、その背中に格納されていた薄く透明な四枚の機械羽を広げる。
ブゥゥゥゥンッ!!
凄まじい羽音と共に突風が巻き起こり、死蟷螂機は重力を無視したかのような異常な速度で、ポポロ村の上空へと飛び上がった。
「ヒュー! 逃がさへんで、デカブツ!」
先陣を切ったのは、極道ドレスを翻した神獣カレンだった。
彼女は地面を蹴って高く跳躍すると、両手に真紅の炎を圧縮し、巨大な火球を死蟷螂機に向けて放った。
「神獣の炎、食らいやァッ!」
ドゴォォォンッ!
空中で激しい爆発が起こり、黒煙が上がる。
「やったか!?」と村人たちが息を呑むが、煙の中から無傷の死蟷螂機が飛び出してきた。
その右の鎌が、空気を切り裂きながらカレンへと振り下ろされる。
「おっとぉ!」
カレンは空中で身を捻り、ギリギリでその一撃を躱した。しかし、鎌が通り過ぎた衝撃波だけで、彼女の体は地上へと弾き飛ばされてしまった。
「カレンちゃん!」
キャルルが叫ぶ。カレンは「痛てて……平気や!」と見事に受け身を取って着地したが、その表情は険しかった。
「アネさん、気ぃつけや! あいつ、バカでかい図体しとるくせに、ハエみたいにすばしっこいで!」
カレンの言葉通り、死蟷螂機は空中で不規則な軌道を描きながらホバリングし、ポポロ村の自警団が放つ『魔導対空砲』の弾幕を、いともたやすくヒラリヒラリと躱していた。
さらに、迎撃に上がった魔導ドローン群を、鋭い鎌の一閃で次々とスクラップに変えていく。
「古代大戦の殺戮兵器……。空中戦に特化したあの機動力、タチが悪いですね」
安全な場所から見物しているユリウスが、ひどく冷静な声で分析する。
「ハルコ。やはり私が重力魔法で地に引きずり下ろそうか? 君が怪我をする前に」
「すっこんどれ、ユリウス」
ウチは、空を舞う死蟷螂機から一瞬たりとも目を離さず、ガーターベルトから抜いた『無限トカレフ』を構えたまま、隣に立つダチに声をかけた。
「キャルル」
「……はいっ」
キャルルのウサギの耳が、ピンと張り詰めている。
彼女の足元、タローマン製の特注安全靴に内蔵された『雷竜石』からは、バチバチと紫電のスパークが激しく散り、周囲の石畳を焦がしていた。
彼女の強靭な脚力と、雷竜石のエネルギー。それが極限まで高まっているのを、ウチの極道センサーが確かに感じ取っていた。
「おどれのその足、あの空飛ぶ害虫に届くか?」
「届くよ。……でも、あんなに不規則に動かれたら、直撃させるのは難しい。一瞬でもいい、あいつの動きが止まれば……私の最高の蹴り(一撃)を叩き込めるのに!」
キャルルが悔しそうに唇を噛む。
それを聞いたウチは、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「ほんなら、ウチが三秒だけ動きを止めちゃる。……一撃でキッチリ仕留めろや?」
「ハルコちゃん……うんっ! 任せて!」
ウチは大きく息を吸い込み、無限トカレフの銃口を上空の死蟷螂機へと向けた。
相手は、マッハに近い速度で飛び回る古代兵器。
普通に撃っても当たるわけがない。だが、ウチは前世から『殺し合いの予測』において、誰にも負けたことがない。
(合気道の極意は、相手の『気』と『重心』を読み、先を取ることじゃ。機械のバケモンじゃろうが、動く以上は必ず『次の一歩』に予備動作がある)
ウチの視界が極限まで研ぎ澄まされる。
死蟷螂機の羽の動き、重心の傾き、風の抵抗。
その全てを瞬時に計算し、奴がコンマ数秒後に移動する『未来の位置』を完全に割り出した。
「そこじゃ」
チャカッ――タタタタタタタタタタッ!!
硝煙の匂いすらしない。
青白い光の魔力弾が、ウチのトカレフから凄まじい連射速度で夜空へと放たれた。
それらは、一直線に死蟷螂機を狙ったわけではない。奴の移動先、回避ルート、その全てを『先回り』して塞ぐように、空中に光の網(弾幕)を形成したのだ。
「ギイッ!?」
死蟷螂機が、予期せぬ弾幕を避けようと急激に軌道を変えた。
――そこが、奴の『死に体(隙)』。
「貰うたで」
ウチの指が、引き金を二度、正確に弾く。
放たれた二発の魔力弾は、寸分の狂いもなく、死蟷螂機の『右の機械羽の根本』と『左の鎌の関節部』をぶち抜いた。
バキィィィッ!!
「ギギァァァァァァァッ!?」
羽を片方破壊された死蟷螂機は、空中で完全にバランスを崩し、錐揉み回転しながら高度を下げ始めた。
動きが止まった。完璧な、三秒間の隙。
「キャルル! 今じゃァッ!!」
「行くよォォォォォッ!!」
キャルルが、クラウチングスタートの姿勢から、弾かれたように地面を蹴った。
ドゴォォォォォォンッ!!
彼女が踏み込んだ石畳が、爆発したようにクレーター状に吹き飛ぶ。
タローマン特注安全靴の『雷竜石』が完全解放され、1億ボルトの紫電が彼女の全身を包み込んだ。
キャルルのウサギの耳が風を切り裂き、100m5秒台という常軌を逸した初速が、さらなる雷のブーストを受けて『音速』を突破した。
パーァァァァァァァンッ!!
ポポロ村の空気を震わせる、強烈なソニックブーム(衝撃波)。
「すっげえ……っ! キャルルが光になったで!」
カレンが目を丸くして叫ぶ。
マッハの速度で宙を舞うキャルル。
彼女は、そのまま一直線に死蟷螂機へ向かうのではない。
墜落してくる古代兵器の軌道を読み、広場を囲む巨大な防壁の壁面を力強く蹴り上げた。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!!
壁から壁へ、屋根から屋根へ。
紫電の光の筋を残しながら、キャルルは空中で『三角飛び』を繰り返し、死蟷螂機の死角である『真上』へと完全に回り込んだ。
「これが、私の……っ! ポポロ村を、みんなを守る力ァッ!!」
キャルルは、空中で鋭く体を捻り、一回転。
遠心力、音速のスピード、自身の体重、そして極限まで高められた紫電の闘気。
その全てを、右足の安全靴の一点に凝縮させる。
ウサギの獣人族による、文字通りの『必殺技』。
「超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)ッッ!!」
紫の雷を纏った一筋の流星が、天から真っ直ぐに突き下ろされた。
標的は、死蟷螂機の頭部。
ズガァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!
およそ277トンという、隕石の衝突にも等しい絶大な運動エネルギーが、古代兵器の装甲に直撃した。
鋼鉄の巨体が、ひしゃげ、軋み、そして――内部の魔力炉心ごと、完全に耐えきれずに大爆発を起こした。
「ギ、ギギギ……ガァァァァァァァァ……ッ!!」
断末魔の機械音すら、雷鳴と爆音にかき消される。
目も眩むような閃光がポポロ村を包み込み、凄まじい爆風が吹き荒れた。
ウチは片手で顔を覆い、爆風に耐えながら、空を見上げた。
粉々に砕け散り、黒焦げのスクラップとなって降り注ぐ死蟲王の殺戮兵器。
そして、その残骸の雨の中を。
タッ。
キャルルが、紫電の残滓を纏いながら、広場の中央へと軽やかに、そして美しく着地した。
彼女の特注安全靴からは、プシューッと冷却のための白い蒸気が上がっている。
「……ふぅ。討伐、完了ですっ!」
キャルルが振り返り、ピースサインを作りながら、とびきりの笑顔をウチらに向けた。
村の広場は、一瞬の静寂に包まれ――次の瞬間、地下シェルターからモニターで様子を見ていた村人たちの、割れんばかりの大歓声が湧き起こった。
「やったぁぁぁっ! 村長が勝ったぞぉぉっ!」
「すげえ! 雷神様だ! 雷神の月兎だァァッ!」
歓喜の渦の中、ウチは『無限トカレフ』をガーターベルトにしまい、ゆっくりとキャルルの元へと歩み寄った。
「ハルコちゃん! 私、やったよ! ハルコちゃんが動きを止めてくれたおかげで――」
ドンッ。
ウチは、キャルルの言葉を遮るように、彼女の頭に軽く拳を落とした。
「あいたっ!?」
「アホ。ウチはお膳立てしただけじゃ。……おどれのその足で、自分のシマ(村)をキッチリ守り抜いたんじゃ。ええ蹴り(カチコミ)じゃったわ、キャルル」
ウチが獰猛に、けれど心底嬉しそうに笑って頭を撫でてやると、キャルルは涙ぐみながら「うんっ……!」とウチの胸に飛び込んできた。
「ヒュー! アネさん、キャルル! 最高にカッコよかったで!」
カレンも駆け寄ってきて、三人で抱き合って勝利の余韻を分かち合う。
「……素晴らしい」
その美しいシスターフッドの光景を、少し離れた場所から見守っていたユリウスが、恍惚とした表情でパチパチと優雅に拍手を送っていた。
「私の妻の、完璧なる戦術眼と牽制。そして、友を信じ切った月兎の少女の絶大な一撃。……ああ、これほどまでに気高く、美しき暴力の共闘を見せられては、私の出る幕など最初からなかったな」
どこか不憫な響きを帯びたスパダリの独り言は、村人たちの歓声にかき消されて誰の耳にも届かなかった。
こうして、勘違いの小悪党が引き起こした古代兵器の暴走は、最強の極道令嬢と雷神の月兎の共闘によって、完璧に粉砕された。
ポポロ村に、再び平和でカオスな日常が戻ってきたのである。




