EP 8
小悪党の末路と古代の殺戮兵器。勘違いの泥棒ネズミが迎える、滑稽で無惨な終幕
「殺せェェェッ! こいつらを、今すぐ八つ裂きにしろォォォッ!!」
石畳に深くめり込み、全身の骨を砕かれながらも、悪徳商人ザルドは狂ったように叫んだ。
血と泥と脂汗にまみれた彼の手には、古代遺跡から持ち出した赤黒く明滅する『魔石』が固く握りしめられている。
彼が喚き散らす視線の先。
村の中央広場に降り立った巨大な殺戮兵器――『死蟷螂機』が、ギギギ……と不気味な機械音と羽音を立てて動き始めた。
全長十メートルを超える、鋼鉄と生肉が融合したおぞましい巨体。紫色の禍々しい瘴気を撒き散らしながら、身の丈ほどもある二つの『巨大な鎌』がゆっくりと持ち上げられる。
「ひぃぃっ! 村長、逃げて!」
「あの化け物、ウチらを皆殺しにする気だ!」
避難し遅れた村人たちが悲鳴を上げ、恐怖に顔を歪める。
だが、ザルドだけは違った。
彼は己の絶対的な勝利を確信し、血反吐を吐きながらゲスな笑い声を響かせた。
「は、ははははっ! 見ろ、古代の魔神が俺の命令で動くぞ! どんなに腕っぷしが強かろうと、この圧倒的な暴力の前ではただの肉塊だ! ウサギの村長も、俺をコケにしたお前も、一人残らずその鎌で細切れにしてやるァッ!!」
「……」
勝ち誇るザルドの叫びを、ウチはひどく冷ややかな、虫ケラを見るような目で見下ろしていた。
背後では、キャルルがウサギの耳をピンと張り詰めさせ、いつでも飛び出せるように特注の安全靴に闘気を溜め込んでいる。
ユリウスもまた、優雅な所作で片手を上げ、いざとなれば極大の氷結魔法でこの広場ごと死蟷螂機を氷漬けにする準備を終えていた。
だが、ウチらが動く必要は、全くなかった。
「……おどれ、ホンマに救いようのないアホじゃな。極道に喧嘩売る以前の問題じゃ」
ウチが哀れみすら込めた声で呟くと、ザルドは「なんだと!?」と顔を真っ赤にして凄んだ。
「強がりを言うな! 死蟷螂機! 何をしている、さっさとそいつらを――」
ザルドが再び命令を下そうとした、その時だった。
ギガッ……ギギギギギギギッ!!
ウチらに向かって振り下ろされるはずだった死蟷螂機の巨大な鎌が、空中でピタリと止まった。
そして、無機質な複眼の首が、ギギギと嫌な音を立てて、足元で這いつくばっている『ザルド自身』の方へとゆっくりと向けられたのだ。
「え……?」
ザルドの顔から、狂喜の笑みがスッと消え失せた。
「お、おい……どうした? 敵はあっちだぞ! なぜ俺を見る!」
ザルドが慌てて手元の魔石を掲げる。
だが、魔石の赤黒い光は、すでに点滅を通り越し、ひび割れて限界を迎えているように見えた。
「アホ。そがいなおもちゃの石っころ一つで、神蟲魔大戦の古代兵器が意のままに操れるわけなかろうが」
ウチが冷酷な事実を告げる。
「そもそも、死蟲王サルバロスの生み出した兵器の目的は『人間の魂を喰らうこと』じゃ。おどれが解いたんは、兵器のコントロールやない。ただの『封印の鍵』を開けただけじゃ」
「なっ……ふ、封印の鍵を……?」
「腹を空かせた猛獣の檻を、自分の手で開け放ったんじゃ。……目の前に、一番美味そうで、抵抗できん無防備な肉が転がっとるんじゃから、当然そいつから喰うじゃろうが」
ウチの言葉が終わるか終わらないかのうちに。
ピキィッ!!
ザルドの握りしめていた魔石が、限界を迎えて粉々に砕け散った。
それと同時に、死蟷螂機の複眼が禍々しい赤色に発光し、口元からおぞましい粘液をボタボタと垂らし始めた。
古代兵器のターゲットが、完全に『ザルド』へとロックオンされた瞬間だった。
「ひっ……!? あ、あああ……っ!」
ザルドの喉から、声にならない悲鳴が漏れた。
彼は全身の骨が折れた体で、必死に地面を這いつくばって後ずさりしようとする。
「ま、待て! 違う、俺はお前のご主人様だぞ! 俺はお前を封印から出してやった恩人じゃないか! くるな、くるなぁぁぁっ!!」
権力と金で他人を支配してきた小悪党の、あまりにも滑稽で哀れな命乞い。
だが、魂を喰らうだけの機械昆虫に、人間の言葉など通じるはずもない。
死蟷螂機は、その巨大な右の鎌を、ゆっくりと高く振り上げた。
「嫌だ! 助けて! 助けてくれェェェェッ!!」
ザルドはついにウチらの方へ顔を向け、涙と鼻水に塗れた顔で絶叫した。
「お、お前ら! 俺を助けろ! 金ならいくらでも払う! だから――」
「極道に喧嘩売っといて、命乞いなんぞ虫が良すぎるわ。……自分の蒔いた種は、自分で刈り取れや」
ウチは、一切の慈悲もなく、その懇願を切り捨てた。
そして。
シュバァァァァァァァッ!!!!
風を切り裂く、鋭く重い一閃。
死蟷螂機の巨大な鎌が、一切の躊躇なく、ザルドの胴体を真上から振り下ろされた。
「――え?」
ザルドの口から、間の抜けた声が漏れる。
次の瞬間。
ズバンッ!!! という破裂音と共に、彼の恰幅の良い体は、右半身と左半身の真っ二つに綺麗に分断されていた。
大量の鮮血が、ポポロ村の石畳にぶちまけられる。
ザルドは、自分が切られたことすら完全に理解できないまま、左右に崩れ落ちた自分の体を見て……そのまま、永久に動かなくなった。
己の強欲で他人のシマを奪おうとし、他人の武力(化け物)に依存してイキり散らした三流の泥棒ネズミ。
彼が迎えたのは、自らが解き放った化け物に呆気なく裏切られ、文字通り『一刀両断』にされるという、最高に無惨で滑稽な【ざまぁ】の結末だった。
「……自業自得、ね」
キャルルが、血の海に沈んだザルドを見据えながら、ぽつりと呟いた。彼女の瞳に同情はない。村を脅かし、ウチらに牙を剥いた敵に対しては、彼女もまた非情になれる覚悟を持っていた。
「ああ、本当に。身の程を知らないゴミが勝手に自滅してくれたおかげで、私の手を汚さずに済んだ。……だが、余興はここまでだ」
ユリウスが、冷たい声で場の空気を引き締める。
ザルドを切り裂いた死蟷螂機は、そのおぞましい口でザルドの死体から『魂(生命エネルギー)』をズズズッと吸い上げると、さらに狂暴な咆哮を上げた。
ギイィィィィィィィィィッ!!!!
金属を削り合わせるような、耳を塞ぎたくなる甲高い絶叫。
魂を喰らって一時的にエネルギーを補給した死蟷螂機は、複眼をギラギラと輝かせ、次なる『極上のエサ』を探して首を振る。
そして、その視線が……圧倒的な魔力と闘気を内包している、ウチとキャルル、カレンの三人にピタリと固定された。
「ヒュー! アネさん、あのアホカマキリ、ウチらを次のメシにする気やで!」
カレンが両手の拳を打ち合わせ、ボウッ、と真紅の炎を立ち昇らせる。
「……ハルコ。あれは少々骨が折れる相手だ。君たちが怪我をする前に、私が一瞬で……」
ユリウスがウチを庇うように前に出ようとした。
王国の裏社会を牛耳る最強の魔法使いである彼なら、あの古代兵器とて数秒で消し炭にできるだろう。
だが、ウチはスッと腕を伸ばし、ユリウスの胸を押しとどめた。
「待てや、ユリウス。……おどれは手ぇ出すな。これは、ウチらのシマの喧嘩じゃ」
「ハルコ……?」
ウチは、ガーターベルトから青白い魔力光を放つ『無限トカレフ』をゆっくりと抜き放ち、チャカッ、と撃鉄を起こした。
隣では、キャルルが深く息を吐き、タローマン製の特注安全靴に内蔵された『雷竜石』を起動させる。
バチッ、バチバチッ! と、彼女の美しい足の周囲に、紫電のスパークが激しく弾け始めた。
「キャルルちゃん! アネさん! ウチが先に仕掛けるで!」
「カレンちゃん、気をつけて! あのカマキリ、信じられないくらい速いよ!」
キャルルがウサギの耳をピンと立て、戦闘態勢に入る。
「ユリウス。おどれはそこで、ウチらの戦い(カチコミ)を特等席で見とれ。……ダチのシマを荒らすデカい害虫は、ウチら女三人の手で、キッチリ駆除しちゃるけえな」
ウチが獰猛な極道の笑みを浮かべて振り返ると、ユリウスは息を呑み、次いで……歓喜に打ち震えるように顔を覆った。
「ああ……!! なんという頼もしく、美しき女たちだ! 分かった、君たちが望むなら、私はこの世界で一番の観客として、君たちの圧倒的な暴力の芸術を堪能させてもらおう!」
もはやただの熱狂的ファンと化したスパダリを背に、ウチらは巨大な古代兵器へと向き直った。
「行くで、キャルル! カレン!」
「うんっ! ポポロ村は、絶対に守る!」
暴走する死蟲王の殺戮兵器vs極道令嬢&雷神の月兎。
最強女子たちによる、最高に痛快で容赦のない『害虫駆除』の幕が、ついに切って落とされた。




