第二章 極道令嬢と雷神の月兎。ポポロ村の仁義なき女子会と古代兵器カチコミツアー
新婚旅行先は超近代パラダイス!? 極道令嬢、カオスなシマ(ポポロ村)に降り立つ
エドワード王子と泥棒猫のマリアを地下牢の冷たい床へとぶち込み、オブシディアン公爵家――もとい、ウチら『最凶ファミリー』のシマの平和は完全に守られた。
あの血湧き肉躍る大立ち回り(カチコミ)から数日後。
ウチらは今、王国の王都から遠く離れた街道を、最高級のふかふかなシートを備えた大型の四立て馬車で優雅に進んでいた。
「さあ、ハルコ。長旅で疲れただろう。私の肩に寄りかかって眠るといい。君の美しい寝顔を、私が特等席で守り続けよう」
「……おどれ、さっきから距離が近いんじゃ。馬車ん中やぞ、暑苦しいわ」
隣にぴったりとくっついて離れないユリウスの顔面を、ウチは手のひらでグイッと押し返した。
王国の裏社会を牛耳る冷酷公爵サマは、ウチに拒絶されても全く堪えた様子はなく、むしろ「ああ、その冷たい手のひらの感触すら愛おしい……」と恍惚とした吐息を漏らしている。ホンマ、息をするように重い男じゃ。
「ヒュー! アネさん、この馬車に積んである『ポポロ・コーヒー』の飴玉、ぶち美味いで! ほれ、ユリウスの旦那も食うか?」
「遠慮しておこう。私はハルコと同じ空気を吸っているだけで胸がいっぱいだからね」
「ホンマ、旦那はアネさんにベタ惚れやな!」
向かいの席では、極道ドレスを纏った絶世の美女――神獣カレンが、両手いっぱいに高級なお菓子を抱え込んで幸せそうに頬張っていた。
ウチらが今向かっているのは、ルナミス帝国、アバロン魔皇国、レオンハート獣人王国の三ヵ国の国境が交差する三角緩衝地帯。
その中心に位置する巨大な拠点、通称『ポポロ村』である。
「それにしても、なんでウチらがわざわざ辺境の村なんぞに視察に行かなならんのじゃ? 王都のシノギ(事後処理)はもう片付いたんか?」
ウチが尋ねると、ユリウスは極上の微笑みを浮かべてウチの左手を取り、薬指にはまった『契約の指輪』にそっと口付けを落とした。
「王都のゴミ掃除は、影の部隊に任せてある。これは視察などという野暮なものではないよ、ハルコ。……私と君の、『新婚旅行』さ」
「……は?」
「あの凄惨な戦いを終え、晴れて真の夫婦となった私たちだ。君の愛するツレ(妹分)も連れて、少し羽を伸ばそうと思ってね。ポポロ村は三ヵ国のならず者や商人が入り乱れるカオスな緩衝地帯だが……君なら、あそこを気に入るはずだ」
ユリウスが意味深な笑みを浮かべた直後。
「旦那様、姐さん。ポポロ村に到着いたしました」
御者を務める影の部隊の男が、窓越しに声をかけてきた。
「着いたでアネさん! ウチ、外の空気吸うてくるわ!」
カレンが勢いよく馬車の扉を開け放つ。
ウチも「どれ、辺境の村とやらのお手並み拝見じゃ」と、ドレスの裾を翻して馬車から降り立った。
――そして、ウチの目の前に飛び込んできた光景に、ウチは思わずポカンと口を開けて固まってしまった。
「……なんじゃ、ここは。ファンタジー世界ちゃうんか……?」
そこにあったのは、麦の穂が揺れるのどかな農村……などでは断じてなかった。
広大な敷地に真っ直ぐに伸びた舗装道路。その両脇には、魔導ランプを煌々と輝かせた巨大な極彩色の看板がズラリと並んでいる。
『日用品から武具まで! タローマート・ポポロ支店』
『24時間営業! 美味しいお肉とパフェなら ルナキンへ!』
『漢の浪漫! 魔導パチンコ ルナミスパーラー絶賛稼働中!』
「……コンビニにファミレス、おまけにパチンコ屋じゃと!?」
前世で極道の女として歓楽街を練り歩いていた記憶が、脳内で激しくスパークする。
ここは剣と魔法の異世界のはず。だというのに、目の前に広がるのは、あまりにも現代日本に酷似した、カオスすぎる超近代パラダイスだったのだ。
「驚いたかな、ハルコ。ルナミス帝国を建国したという初代皇帝が、異世界からの『転生者』だったという噂は本当らしいね。この村は三ヵ国のインフラが雪崩れ込んでいるため、地方都市を凌ぐ異様な発展を遂げているのだよ」
ユリウスが背後からウチの肩に優しく上着をかけながら、クスクスと笑う。
「ヒュー! アネさん、あそこの『ルナキン』っちゅう店、ハンバーグが食い放題らしいで! はよ行こ、はよ!」
カレンがウインドウ越しに食品サンプルを見て、よだれを垂らしながらウチの袖を引っ張る。
「ちょっ、待てカレン。いくらなんでも情報量が多すぎ……」
ウチがツッコミを入れようとした、まさにその時だった。
「待てーっ! こら、そこのエロ玉ねぎ! 畑から逃げるなァッ!」
「ゲヘヘヘ! たまんねーなオイ! このルナミス新聞のエロ本、最高だぜェッ!」
ウチらの目の前を、麦わら帽子を被った農家のおじさんが、息を切らして猛ダッシュで通り過ぎていく。
彼が追いかけているのは……なんと、短い手足を生やし、器用に片手で『薄い本』を読みながら爆走している巨大な玉ねぎだった。
「な、なんじゃアレは……玉ねぎが喋りよったぞ!?」
「ああ、あれはポポロ村の特産品『たまんネギ』だね。エロ本を読みながら育つ奇妙な魔植物だよ。エロ本を取り上げると急に賢者モードになって、自ら美味しく食べられるようになるらしい」
ユリウスが事もなげに解説する。
すると今度は、反対側から巨大なキャベツが、短い足をバタバタさせて走ってきた。
「号外! 号外! 隣の村の村長、実は若い娘と駆け落ちしたらしいわよぉぉっ! しかも相手は……!」
「こらーッ! ネタキャベツ! まだ特ダネ喋るんじゃねぇ、出荷価格が下がるだろうがァッ!」
三面記事ばりのゴシップを大声でわめき散らすキャベツ(ネタキャベツ)と、それを血眼になって追いかける別のおばちゃん。
「…………」
剣と魔法のファンタジーと、現代のコンビニチェーン。
そして、エロ本を読む玉ねぎと、ゴシップを叫ぶキャベツ。
三ヵ国の利権と欲望が入り交じる、完全にイカれたカオスなシマ(領地)。
「……あっははははっ!! なんなんじゃここは! 最高に頭おかしい(ファンキー)やないか!」
ウチは腹を抱え、大空に向かって大爆笑した。
王都の気取った貴族どもの夜会なんかより、よっぽど人間臭くて、よっぽど面白い。
前世で修羅場を潜り抜けてきた極道の血が、ドクン、ドクンと激しく脈打つのを感じる。
「はははっ、ええぞユリウス! ウチ、このシマがぶち気に入ったわ!」
ウチが満面の笑みで振り返ると、ユリウスはウチのその顔を見て、胸を押さえてその場にしゃがみ込んでしまった。
「あ、ああ……っ! 君がそんなに無邪気な笑顔を見せてくれるなんて……! ハルコ、君が望むなら、今すぐ私の財力と権力でこの村ごと買い取って君にプレゼントしようか!?」
「アホ言え。こういう面白いシマは、自分の足で歩いて、自分の目で楽しむんがスジっちゅうもんじゃ。なぁ、カレン!」
「おうさ、アネさん! まずはあの『ルナキン』にカチコミじゃあ!」
ウチらは顔を見合わせ、ニヤリと悪巧みをするように笑い合った。
王国のしがらみを捨てた極道令嬢と、最強の神獣、そして最凶のスパダリ公爵による、仁義なき慰安旅行が、今ここに幕を開けたのである。
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