34話 災獣 -決着-
「帯域が掴めると言いましたか……!?」
「はい……!少しずつですけど、取り込めてます」
振り返らずも、驚きの声を隠せないブイヤールの言葉に答える。
昨日、散々繰り返した感覚と同じだ。
自分の中にある朱金の炎のような魔力の感覚。それが世界にもあり、少しずつそれを受け取っている感覚が確かにあった。
「私の方は相変わらず駄目ですね……一体どうして……。いえ、理屈はいい。アンジェ君、目一杯の魔術を使えますか?」
疑問を押し殺してブイヤールが問いを投げる。
全力で魔術を使えるのか、魔術を使った後もお荷物にならないのかと。
——この遠征では色々な学びがあった。
山歩きを学んだ。お陰で根性を鍛えることができた。
帯域を学んだ。新たな魔術の可能性に心ときめいた。
群れの脅威を学んだ。立ち続けることがどれだけ困難か身に沁みた。
たった二日、されど二日の学びは確かにアンジェの中にあって——だからこそアンジェは胸を張って頷いた。
「……行けます。任せてください」
「……分かりました。ですが火力について、奴に通じるかどうか私は知りません。一か八かですがここは私が攻撃を、」
「ちょっと待って下さい」
割り込むように静止の声が上がった。アンジェの隣から。
これまでラッツと二人で抱きしめ合い、ただ震えていたグレッグから。
「一体なんですかグレッグ君。今は流石に余裕がありませんので手短に」
「攻撃役はコイツに——アンジェに任せてやってください」
その言葉を聞いた時、正直なところ驚きよりも戸惑った。
あのグレッグが、攻撃役に推しだすなんて。
同じ疑問を抱いたのか、ブイヤールもまた困惑の色を隠せない。
「どういう風の吹き回しです?あなたはアンジェ君を認めていなかったかと思っていましたが」
「別に、ただ……」
大きく息を吐きながらグレッグが立ち上がる。
その姿はまるで、なにか抱えきれないものを吐き出すみたいだった。
「パリストン草原の焼け跡、見たっスよね。あれをやったのがアンジェで、使ったのが連鎖詠唱っス」
「そうですか…………分かりました。その焼け跡とあなたを信じましょう。攻撃はアンジェ君に任せます」
一歩前へと踏み出し、ブイヤールが叫んだ。
「これから仕掛けます!注意を引いてください!!」
返答は、流星群だった。
これまで茨を迎撃していた分をも割り当てて、小流星の釣瓶打ちがバラの災獣、その本体を打ち据える。
それを行うノンナ自身は握りしめた双剣を、今まで以上に閃かせた。その身を茨が掠めようとも、構いなく小流星を撃ち続ける姿はワルツのようだ。
「地下だ!地下を狙え!!」
ノンナとは別の方角から鋭い声が上がる。
ムチを受けたのかボロボロになりながらも、その目は爛々としたザンデンがそこにいた。
「どんだけ撃ってもへこたれねぇ!そもそも昼間コイツはこんなにデカくなかった!!
ならコイツの魔石は地下だ!地下を狙え!!」
地下を狙う。だったら手段は——
「まずは触手を減らす……!
"――私は祈る。一重二重九重と、巡り廻りて祭祀を成すは炎の民
縒われし血潮は赤き舌、束ねし熱は赤き陽炎
焔の吐息よ嘗め尽くせ" 【紅吐息】!!」
掌から放たれた火炎の帯が、腕の動きに合わせて大きくうねる。
本体は水分を含んでいるからかさほど燃えなかったが、触手はその数を減らしていた。
焦げ付いた茨の触手はこれまで違って中々再生しない。
——キィィィイイイ
焼かれたことに反応してか、燃え残った茨が唸りをあげて迫るがブイヤールが再び【水晶壁】を展開して防いだ。
「今度は氷……!"――都度願う。霜付く六花よ咲き誇れ"【氷青華】!!」
赤いバラ目掛けて六花が放たれたが、小流星や矢同様に太いムチで防がれる。しかし、【氷青華】は防がれてこそ意味がある。
六花が突き刺さったバラのムチに大きな青い花が咲き誇った。
「……〈モノ・テイル〉!」
即座に放たれた小流星が凍りついた蔓を打ち砕く。断面は氷で塞がれて伸びることが出来ないみたいだ。
怒りにバラの災獣全体が大きく震える。
放たれた触手は【水晶壁】を周り込むように攻め込み、
「ぃぃやぁぁぁあああ!!」
「ぉおらぁぁぁあああ!!」
ラッツの掲げる盾に弾かれ、グレッグの一閃に斬り取られた。
これまで出来なかったことが二人に出来るようになった。
ならばあたしも続きたい。置いていかれたくない
その思いが口から溢れた。
「今からやることは明日のあたしに自慢できることかしら」
カウントは一個しかない。だか、やる。絶対に届かせる……!
世界に横たわる帯域の魔力を鷲掴みにして、全てをここに注ぎ込む……!
「……ハッ!森の栄養になるのはアンタの方よクソ植物!!
"——一度の願いを今ここに!私は祈る。時告ぐ砂よ、あるがままに"!【逆さ山溜る柳】!!」
瞬間、バラが根を張る地面が大きく陥没した。
本来ならばもっと深く、広く呑み込むはずだった。だが蓄積は一つ。地面を崩せても、巨体を落とし切るには到底足りない。それでもいい。地面が消えたことでバラの巨大が沈む。しかし落ちきることはない。陥没の範囲外にも届く大きな根が七本、それが巨体を支える柱となっていた。そして——
「……ん。見えた……魔石!!」
満月を背に天狐が空を舞う。
周囲にある光点は八つ。故に、
「……〈オクタ・テイルス・メテオライト〉!!」
天から地へと振り注ぐ八つの小流星。
それは根を断ち、逆さとなったバラの災獣、その地中にあった魔石を撃ち抜いた。




