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在野の聖女は何処なりや? 我、聖女にならんと欲す  作者: 白麦茶
2章 あたしが立つ場所

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23話 出発

車の揺れが止まった。規則正しく響いていたエンジン音も消え、代わりに開いた扉から冷たい空気が流れ込んでくる。頬に当たるそれを鬱陶しく思いながら、アンジェは重い瞼を持ち上げた。


「着いたぞアンジェ」


扉を開いた犯人であるリアが肩を揺さぶってくる。ここに至るまで運転をしていたのに眠くないのだろうか。隣で座っていたはずのノンナはというと、いつの間にか車のバックドアを開けて、何か道具を漁っているようだ。眠い目を擦りながら車から降りてみると、遠く森の向こうに朝靄を纏ったカリュマ山が大きくそびえていた。


「…………ねむ」

「……はいアンジェこれ」

「…………何これ」

「……熱めのコーヒー。目が冴える」


舌を火傷しそうになりながら、熱いコーヒーを喉に流し込む。少しずつ復帰しだした頭を巡らせてみると、これまで乗っていた車と、先行していたザンデンたちのバンの他にもチラホラと車が停めてあるのが見えた。


「ここって駐車場?」

「みたいなもんだな。カリュマ山を登るハンターは多い……ギライガより質のいい魔石が手に入るからな」

「その分危険でもあるがな。起きてるかー嬢ちゃんたち」


準備を終えたのか、ザンデンがそう付け加えながら仲間を引き連れてやって来た。そのままリアと何やら話し込んでいる。横から聞いておくべきなんだろうけど、ついていけなくて微妙に手持ち無沙汰になる。するとそこにラッツがやって来た。


「おはようございますアンジェさんっ!」

「おはよラッツ。ラッツってもう何度かカリュマ山に来てるんだっけ?なんかさー朝移動がこんなにキツいとは思わなかった」

「あはは……多分昨日の訓練やりすぎたせいもありますよ。ザンデンさんたちが来るまで、ずっとやってましたもんね」

「準備忘れてるのは何事かー!ってナンスさんが怒られてるの見てビックリしたよ」

「まぁ大変だったけど、やった甲斐はある充実した訓練でしたしね……」

「そういやその訓練でさ、ラッツってけっこー前に出てくるよね。凄いよなーって思いながら見てたけど」

「それを言ったらアンジェさんも凄いですよ。魔術もですけど……前に出る時にちゃんと前に出て、そうでないなら下がってて」


ふと、ラッツがインベントリから盾を取り出す。無骨な金属盾が朝日に照らされて鈍く輝いていた。


「盾士の理念があるんです。誰よりも傷つく場所にいろ。仲間が倒れるくらいなら、誰よりも先に倒れろ。仲間を先に倒されることを恥と思え。ただそれを守ってるだけなんです。後ろにいても怖くて何もできないから」

「な、なんだかやたら物騒な理念ね……」

「物騒なのはそうなんですけど、でも実際一番危険な場所で、役割も明確だし、やることはただ守ることだから納得はするんです」

「へ、へぇ〜そうなんだ。でもそれだけ?誰かさんの隣に立ちたいんじゃないかなーフガッ」


最後まで言い切る前に、ラッツの両手がアンジェの口を塞いだ。


「それは言わないでくださいっ!」


にんまり笑顔を浮かべながら口を塞ぐラッツの手を払いのける。すると即座に再び口を塞がれた。払って塞がれて払って塞がれて……それを繰り返していると、どちらからともなく笑い声が漏れ出た。


「なーにイチャイチャしてるんだよ。ラッツ、ザンデンが集合って呼んでたぞ」

「あぅ、え…じゃ、じゃあまた!」


いつの間にザンデンとの話を終えたのか。リアが声をかけてきた。ラッツが駆けていくのと入れ違いに、車でゴソゴソとやっていたノンナが近付いてくる。


「さて、そろそろ時間だな。気をつけることいえば……アンジェ」

「何よ」

「基本的にザンデンの指示に従え。大物追いすぎんなよ」

「……それだけ?」

「あーだこーだ言ってもウザいだろ。あとノンナ」


アンジェを適当にあしらいながら、真剣な目をしたリアは指を三本立てて言った。


「三十分が限界だ。分かってるな?」

「……ん」

「ならいい。ザンデンには伝えてあるが極力使うな」


意味深だ。何のことだか分からないけれど、二人にだけ通じる何かが話されている。その事が気になったアンジェが、疑問を口にするよりも早く、リアが再び話しだした。


「忘れ物はないようにな。シャベルはちゃんと持ってるか?昨日慌てて買ってたが」

「ええ。スコップ、ならちゃんと持ってるけど」

「だからそれはシャベルだって」

「いーえスコップだから。ティルフィタリアじゃそうかもだけどマシロヤ含めてスコップだから」

「……どーでもいい」


朝からしょうもない言い争いをしている自覚はあるが、譲れないものは譲れない。むしろどうでもいいことだからこそ、ムキになってしまう自分がいる。

ただ一人、白けた様子のノンナに向かって二人して同時に口を開いた。


「どうでもよくない!!」

「朝から喧しいぞ小娘どもが!!」


──早朝のカリュマ山に中年男性の怒声が響き渡るのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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