2話 彼女の理由
「なるほど。確かにハンターをやっている聖女もいる。中には癒しを不得手とする者もね」
「はい。歴史を紐解けば、癒しの奇跡によらず聖女と認められた方もいます」
「だが、それを知っているのは学者か、よほど熱心な信徒くらいだ」
テンドーが少し身を乗り出した。
「世間が聖女に求めるものは、もっと単純だよ。――傷を、病を、癒してほしい」
アンジェは押し黙る。
「君がどれほど立派な聖女になったとしても、『聖女様なら治してくれる』と訪ねてくる者は必ずいる。それが悪意のない期待だからこそ厄介なんだ」
「……」
「だから多くの聖女は教会や神殿にいる。本人一人では抱えきれないものを、組織で受け止めるためにね」
テンドーはアンジェをまっすぐ見た。
「だが君は、ハンターとして世界を巡りたいと言う。では聞こう。君が治せない者に出会った時、代わりに託せる回復術士はいるのか?」
「……いません」
「世界を一緒に回ってくれるような、腕の立つ回復術士の友は?」
「……いないです」
返す言葉がなかった。
それでも。
「でも、諦められません」
アンジェは顔を上げた。
子供の頃からの夢だった。
昔読んだ、聖人や聖女たちの伝記。
世界を巡って人々を護った者も、一つの土地に根を張って迷える者を導いた者も、幼いアンジェには皆まぶしく見えた。
いつしか、自分もそうありたいと思った。
教会に残る道もある。
地方へ赴き、人々を支える道だってある。
それでもアンジェは、自分の足で世界を見たかった。
かつて聖人たちが歩いた土地を巡り、その先で、自分自身の手で誰かの役に立ちたかった。
わがままなのかもしれない。
それでも。
「……あたしは、聖女として世界を巡りたいんです」
しばらくして、テンドーが大きく息を吐いた。
「まったく。これじゃ私が悪役だな」
「……申し訳ありません」
「謝らなくていい。若さっていうのは、そういうものだ」
そして、人差し指を一本立てる。
「一つ、手がないわけでもない」
「……手?」
「伝手がないなら、作ればいい」
アンジェは瞬いた。
「アンジェ・スプラウト。君は魔導神官としてハンターになりなさい。その旅の中で、共に世界を巡れるだけの腕を持つ回復術士を仲間にすること」
テンドーが笑う。
「それが出来たら、私の名前で聖女審査に推薦しよう」
「――っ!」
胸の奥が跳ねた。
ハンターになってから、自分でどうにかするしかないと思っていた。
そこへ突然、一本の道が示された。
「ただし見つからなければ、君はそのまま教会出身のハンターだ。もっとも、戻りたくなったら我が部門で歓迎するよ」
「ありがとうございます。でも――見つけます」
「いい返事だ。なら餞別を一つ」
テンドーは手帳を取り出した。
「ティルフィタリアという街は知っているね?」
「魔獣戦線都市ですよね」
「ああ。そこに、とんでもなく腕の立つ回復術士がいるという噂がある」
「回復術士……」
「大規模な魔獣災害で多数の負傷者を救っただの、祖竜を相手に時間を稼いだだの。噂だから、どこまで本当かは分からないがね」
盛られている可能性は高い。
だが、火のない所に煙は立たない。
それにティルフィタリアなら、噂の人物でなくとも回復術士との出会いは期待できる。
行く理由としては、十分だった。
「その人物、背中ほどまである銀髪だそうだ。ただ――」
「何か問題でも?」
「女性のはずなんだが、実は男だとか女装だとか、情報がひどく錯綜している」
「……はい?」
「というわけでアンジェ君。ついでに調べてきてくれ」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
続きも気になると思っていただけましたら、評価・ブックマーク・いいねで応援いただけると励みになります。




