1話 彼女の夢
皆さまどうか御付き合いください。
切りの良いところまでは1日3回投稿します。
白い小部屋で少女は一人、目を閉じていた。
呼吸に合わせて体内の『回路』へと魔力を流していく。
なるべく速く。多く。漏らさずに。
幼い頃から続けてきた鍛錬だった。
やがて、部屋の扉が小さくノックされる音がした。
「失礼、遅くなってしまったね」
「いいえ、テンドー様。こちらこそお時間を割いていただき感謝します」
入ってきた男の神官服には、金糸がふんだんに使われている。
教会でも上位の幹部にのみ許された装いだ。
呼ばれた男……テンドーは少女の向かいへ腰掛け、手にしていた資料を開いた。
「さて。それじゃあ面談といこうか、アンジェ」
■□■□
「アンジェ・スプラウト、十七歳。魔導神官課程を修了予定。得意とするのは攻撃術式。
地水火風の四属性に適性を持ち、聖別術式にも優れる。身体能力も神官としては高く、前衛として戦えるだけの素質もある」
そこまで読み上げて、テンドーは一度言葉を切った。
アンジェにも、その理由はわかっている。
「ただし――怪我や病を癒す回復術式、並びに他者を補助する支援術式については、適性が皆無」
「…………」
「人望も厚く、成績も優秀だ。研究職にも、神徒隊にも、地方教会にも君を欲しがる者はいるだろう」
資料から目を上げ、テンドーがアンジェを見る。
「だが、各地で人々を癒し支える聖女としては不適格。それが教会の評価だ」
「……はい」
「異論は?」
「ありません」
即答だった。
回復も出来ない。
支援も出来ない。
何度言われたかわからないし、アンジェ自身が一番よく知っている。
テンドーはしばらく黙っていたが、やがて資料を机の上へ置いた。
「ならば改めて聞こう」
「はい」
「君は、何になりたい?」
アンジェは少しだけ目を見開いた。
「……あたしの夢、ですか」
「ああ。研究者にもなれる。教会幹部を目指す道もある。神徒隊でも、地方教会でも、君なら十分やっていけるだろう」
そこでテンドーは、少し困ったように笑った。
「個人的には、我が魔術研究部門に来てもらいたいがね」
アンジェもつられてクスリと笑う。
教会に入って以来テンドーには世話になった。
敬意もある。
だからこそ、曖昧には答えたくない。
「……聖女です」
テンドーの眉が、わずかに動く。
「回復も支援も出来ない。それでもか?」
「それでもです」
「教会が求める聖女像から、君は大きく外れている」
「知ってます」
「推薦を受けるのも容易ではない」
「それも、わかってます」
それでもアンジェは目を逸らさなかった。
「あたしは、世界を巡る聖女になりたいんです」
静かな部屋にその声がはっきりと響いた。
「だから……ハンターギルドへの出向を希望します」
タグにあるTSキャラは多分その内出ます。
『彼女』は恥ずかしがりやなので優しく見守ってください。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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