15話 朝餉の一幕
「買い物をしよう」
着替えて戻ってきたリアがそう切り出した。そんなリアの格好はネイビーのポロニットに同色のジレを重ね、ベージュのロングフレアスカートを合わせている。まるで出来る女的なスマートさを出しているが、ちょっと前まで下着姿だったのかまるで信じられない。髪は簪でまとめてこそないが、ちゃんと梳ったようなので良しとしよう。
「……買い物ってまさか食材とか?そういえばマヨ切れてたけど、リアが気にするなんて槍でも降りそう」
「あーそっちじゃねぇ。さっきも言ったがアンジェの服を買いに行く。一応確認だがアンジェって魔獣領域に着ていける服はあの神官服だけだよな?」
話を振られたので口の中のベーコンを飲み込んでから答える。……カリカリで美味しいなあのベーコン。
「むぐ……そうね。後はジャージ位だけど流石にジャージで外には出たくないかな」
「そりゃそうだ」
そう言いながらリアは、バスケットに盛られたパンを1つ手に取って食べ始めた。
「ハンターは『評価値』があるからな。究極どんな服でもいいが、大抵のやつは都市内を歩くための都市着と領域での作業着を持ってるもんだ」
「……これはファッションとか機能性だけの問題じゃない。作業着はとにかく破損や汚れが多いから、都市内でそれだと周りに迷惑かけちゃう」
「もし泥と魔獣の汁まみれで飯屋に入ったら追い出されんぞ」
「確かに……外食するときに草の汁とか埃まみれの人が傍にいたら嫌よね」
「……それに、着替えた方が気持ちを切り替えやすい」
形から入るって言うだろう?そう補足しながらリアはパンを食べ終えると、ピッチャーから麦茶をコップに入れて飲み始めた。前の食事の時もそうだったが、本当に水分をよく飲む人だ。それじゃあこちらも食事を続けるかと、各自が一種類ずつお気に入りのドレッシングを常備する決まりらしいので、ノンナからクリームタイプのドレッシングを借りてサラダに挑むことにした。
「……四六時中作業着でいる人もいるけど、やっぱり近づきがたい。アンジェにはそうなってほしくない」
「ということなんだが…アンジェ。その封筒開けてみな」
「んー食事の後に見ようと思ってたんだけどな。ま、いっか」
促されるままに封筒を開けてみると、中には新しくなったアンジェのハンターカードが入っていた。等級は……石に上がっている。
「はいおめでとーぱちぱちぱち。これでようやくハンターだな」
「……おめでとー」
「ありがとー。でも正直実感沸かないな。ハンターになって一週間だよあたし。鵺は倒せたけどさ……なんかこうもっと時間かけて試験官の先輩ハンターをこう、ぶっ飛ばしてテストするかと思ってたのに」
「石以上はテストあるけどな。木等級ってそもそもインターンシップとか体験学習とかそのレベルの扱いなんだよ。だから適当に時間と経験積めば誰だって上がれる。今回の件がなくても、魔石の取引実績積んで問題なきゃ石には上がってた。今回は審査が早まった程度だ」
パンを両手で持ってもぐもぐ食べているノンナ可愛いなぁ……そんな事を思いながら気になったことを聞いてみる。
「じゃあ仮にあそこで鵺一人で倒してたら石通り越して硝子になれてた?」
「成れない。大型新人として注目はあるだろうがそれだけだな。逆に聞きたいが鵺に襲われても、まだハンター続ける気はあるんだろ?」
「それは……もちろんよ。あたしは銀等級になって聖女を目指す。それは変わらない」
サラダをかっこむように食べて、麦茶で胃に押し流したリアがちょっと困ったような表情を浮かべた。
「そんな希望に満ちたアンジェさんがわーパーティに加わってくれて嬉しいけどね。問題が一つある」
「?問題って何?」
「……その前にアンジェ。リアと組んで鵺を倒したとき、とても動きやすくなかった?」
「ええそうね。壁とか的確に張られてたり動きやすかったり、あと魔力も回復していってて最後の術はあの回復がなかったら打てなかったかな」
「……その動きやすさが問題になる。このままいくと、アンジェはリアがサポートしないと何も倒せないことになる」
「えっ……それは……困るかな。いつか聖女として1人で回るかもしれないのに、誰かの金魚のフンになるのはちょっと……」
「そしてこっちとしても困るんだよ。オレらが欲しいのは頼り頼られる、背中を預け合える仲間であって支援なしじゃ何も出来ない奴じゃないんだ」
ごちそうさまでした。とリアがぱんっと手を合わせる。気がつけば食べ終わってないのはアンジェ1人になっていたので、急いで最後に残った目玉焼きを食べた。
「一応考えがない訳じゃないけどな……どのみち作業着がいるってことになるから買いに行こうって話だ」
「それは分かったけど……ちょっと持ち合わせが」
金自体はある。これまでが宿暮らしだったマイナスもあるが鵺に挑む前に倒した魔獣の魔石と素材はそこそこの値段になったし、何より鵺の素材と魔石のおかげで大分まとまった金なら手に入った。しかし、今のアンジェにはどうしても欲しいものがある。それが高額なために服を買うとちょっとどうしよう……と真剣な悩みどころだ。
だがしかし、捨てる神もあれば拾う神もあり。何も言うなと言わんばかりにリアが大きく頷いた。
「服については気にするな。石等級祝いに何着か作業着買ってやるよ」
「……本当!?」
「本当。あとはあれだ。パーティ入り祝いで戦闘に持っていけるインベントリだな。あれも買おう」
「リア様と呼んだ方がいい?」
「呼ばんでいい。こんなもん経費だ経費。だがな……」
ギョロリと目を動かしてリアがアンジェを見据える。
一瞬、昨日の化物じみた気配を思い出して、勝手にアンジェの喉がゴクリと動いた。
「ボロボロになったメイスとかポーションとかの装備は自分で買えよ。自分の金で自分の目利きを鍛えるんだ。じゃなきゃ後悔するのは来年のお前だぞ」
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