退魔師団へ
「ッ……」
突如右肩の痛みが襲いクーゲルは目を覚ます。重い瞼をゆっくり開けると真っ白な天井、ステンドグラスから色とりどりな光が漏れている。何処かの教会なのだろうか。右を見ると……腕がある。夢じゃないかと動かそうとすると肩に激痛が走るもののしっかり動かせる。
「目ぇ覚めたのか。」
女退魔師が丁度入ってきたところだった。咥え煙草をしている、つまり医療行為をする場所の類では無いという事か。
「悪いが、部外者を何時までも本拠地に置いちゃいられないからな。傷を治してから此処に運んできた。腕はくっつけた。血も輸血したから時間が経てば何不自由無く前の生活に戻れるさ。じゃあな、アタシは行く」
「――!待って……くれ」
「……なんだ?あの教会とシスターを燃やした事か?あれは――」
「違う……アイツは、あの悪魔は何だ……?人外が強いのは知ってるが、アイツは異常だった……」
女退魔師は目を閉じながら頭を掻き、何か思考を巡らせている。はぁ〜。と溜め息を吐くと口を開く。
「どうせ隠してもお前は色々と嗅ぎ回りそうだからな。……アレは……12使徒だ」
クーゲルは目を見開く。12使徒……?誰もが知るその名称を聞くことになるとは思わなかった。この下界の実質的な支配者……と噂されている存在こそが12使徒。メンバーも不明で存在すらも怪しい都市伝説のようなものとばかり思っていた。
「ザラーム・スキアー……大悪魔の一柱。アタシら退魔師団が滅ぼそうとしてる悪魔の中でも最上位の存在だ。逃げ切れたのは奇跡だと思え。目的は不明だが教会を次々に襲いシスターを殺して回っている。神出鬼没で足取りも次に襲う教会の情報も掴めず、手分けして当てずっぽうで教会を回っている。そこでお前を見付けたってわけだ」
「……退魔師団ならザラームを倒せるのか?」
「まぁ難しいだろうがやるしかない」
遠くを見ながら煙を吐く。
「じゃ、アタシは行く。せいぜい死なねぇように生きろよ、ガキ」
「……待て。俺を……退魔師にしてくれ……」
「……」
再び頭を掻き始める。
「ま、お前ならそう言ってくるとは思ってたが……」
「復讐の為じゃない。怒りじゃアイツは倒せない……。俺やルーチェみたいな人間を……これ以上増やさない為に……」
グッ……力強く握られた拳には様々な感情と、クーゲルの覚悟が込められていた。
……はぁ〜。女退魔師は深い溜め息を吐くと椅子に終わり、退魔師団について語り始めた。
「遅くなったがアタシはフー。フー・フィエルテだ。今は隊長を担っている。」
「俺は――」
「いや、今はいい。一方的に最低限の話だけをする。アタシは出なきゃならないからな。退魔師団は人外の協力者も居るが正式な団員は全員人間だ。アタシらは天使「サマ」方から力を授かり戦ってる。」
「サマ」を強調している辺り、心の底から信仰はしていないのがあからさまだった。しかし……天使……?
「下界と呼ばれる所以はそれだ。天使サマ方も天界も実在する。逆に冥界も、だ」
それぞれ上と下を指差しながら。
「大前提として、退魔師団は人間を人外から守る集団じゃない。悪魔を倒す集団だ。勿論人外から守る時もあるが、時には人外を守る事もする。人間だけを守る集団となると人外達に皆殺しにされて終わりだからな。悪魔が全員悪で倒すべき存在ってわけじゃねぇが、人外にとっても恐ろしい種族って事だ。……これを加味した上で、お前は退魔師団に――」
「入ります」
即答。クーゲルは少しの迷いもなく、フーの目を真っ直ぐ見詰め決意を表した。
「……そうか」
フーは口許をニヤつかせながら椅子から立ち上がると十字架のマントを翻し、扉へと向かい、僅かに顔を向け尋ねる。
「……お前の名は?」
「……クーゲル・ユスティーツ」
「クーゲル。お前は今からアタシの弟子だ。フー隊の隊員に任命する。今はゆっくり休め。お前を強くしてやる」
フーは外に出ると拳銃を地面へぶっ放し、未だ襲われていない教会の一つへと向かった。
クーゲルは瞼を閉じると再び眠りにつく。強くなる為に、今は休まなければならない。瞼の裏にルーチェの最期の光景が染み付いていたとしても、強くなる事だけが、今のクーゲルを支える唯一の柱だった。




