第7話「生徒会長からの挑戦状!?」
(――用事って一体、何なんでしょうか……?)
生徒会長である輝はどうやら美月とサターンに用があったらしく、それも人前では話せない内容らしい為、こうして場所を移すべく、彼と一緒に学園内を歩いていた。
「あ、あの……生徒会長」
「すまない、生徒会長と呼ばれるのは少し堅苦しくてね……。 気軽に名前で呼んで貰えるとありがたい。 僕も美月さんと呼んでも?」
「あ、はい、分かりましたわ。 では、輝先輩と……」
「ありがとう、美月さん」
その提案に美月は少し親近感を覚えた。
輝は生徒会長と言う立場の他にも、その容姿も背は自分よりも大分高く、中性的な顔つきをしていて、王子様と言う表現がピッタリだった。
もしかしたら周りからそんな風に扱われているのかもしれない。勝手な想像ではあるが。
それはそうとして聞きたいことがあるので、話を続ける。
「輝先輩。 あの子は……妹さんは大丈夫でしたの?」
「うん、君のおかげでレイは無事だったよ。 今は入院しているけど、命にも別状はなかったからね。 先日は本当にありがとう」
「マスターと同じく感謝を申し上げます」
輝とヴィーナスは立ち止まると、改めて頭を下げて来た。
美月もあれからずっと気になっていた女の子の無事を聞いて安心する。
「それと……よく勘違いされるんだけど、レイは僕の妹じゃなくて、正確には僕の姉さんの娘なんだ」
「それは失礼しましたわ」
「ううん、気にしないで。 よくあることだからね」
自分と亡くなった兄も五歳差だったから、勝手に兄妹だと思っていたが、どうやら姪っ子の関係だったらしい。
確かにあの子の母も大分若そうに見えたし、輝先輩とそのお姉さんが歳の差のある姉弟なのが正解だったのだろう。
「さてと……着いたよ、美月さん」
「ここは……学園長室?」
話している内に辿り着いたのは、この学園で一番偉い学園長がいる場所だった。
*****
「――入学式の時にも挨拶させて貰ったが、改めて名乗らせて貰う。 初めまして、黒土美月さん。 私の名は魔導学。 このメカニカルウィッチ学園ミラチトウキョウ校の学園長を勤めている者だ」
許可を得て入室すると、歳を感じさせながらも、厳格なオーラを放つ老人の男性である学園長がそう名乗って来た。
促されるままに、来客用のソファに座った美月は厳しそうな学園長に内心ちょと怖がりながらも、呼び出された理由を何となく察していた。
偉い人が自分を呼び出した時は、十中八九父に関することだからだ。
「用件は他でもない、明日斗博士に関することなのだが……」
「はい」
(やっぱり……)
「数時間前、ワールドユニオンの本部に明日斗博士が通信と言う形で現れた」
「え、お父様が!?」
「何!?」
予想外の出来事に、どこか警戒している様子のサターンも思わず声を上げた。
「明日斗博士はアダム議長と暫く対話した後、再び姿を消した。 ワールドユニオンの方も逆探知を試みたそうだが、失敗に終わった様だ。 一応尋ねるが、明日斗博士の所在に心当たりは?」
「いえ……わたくしはそもそもお父様が行方不明になっていたなんてつい先日知ったばかりで……。 サターンは?」
「僕も今の所在は知りません。 仮に知っていても、話すつもりはありませんが」
「ちょ、ちょっとサターン……! 失礼ですわよ!」
「申し訳ございません、お嬢様。 僕はワールドユニオンが運営するこの学園を完全には信用していませんので……」
態度こそはアレだが、サターンの懸念は最もだった。
今でこそ魔力に関する技術自体は世界全体に普及しているが、人工精霊並びにメカニカルウィッチ関連のものは全て国が管理しており、それはつまり国が加盟するワールドユニオンが管理していることと同義だった。
ワールドユニオンにはその全てデータを管理しており、その登録を義務付けていた。サターンは……多分未登録なんだろうけど……。
さらにプロリーグを始めとした名リーグの運営や、メカニカルウィッチの設計開発も全て国が許可した企業が担っており、それに関することを学べるのも国立の学校だけだった。
この学園も国立ではあるが、実質的にはその大元であるワールドユニオンが運営しているに等しい。
「そう警戒することはない。 ワールドユニオンには様々な派閥があるが、この学園を運営しているのは明日斗博士のかつての研究仲間であり、志を同じとする派閥の者なのだ。 かく言う私も大学時代の彼の教授を勤めていた。 その証拠にこれが送られて来た」
学園長が手元の端末を操作すると、部屋の窓やカーテンが全て閉じられ、暗くなった室内にモニターが浮かび上がる。
そこに映し出されたのは、大部分がブラックボックスになっているものの、サターン並びにアークサターンの機体のデータだった。
「私も驚いたが、君はどうやら通常とは異なるメカニカルウィッチの様だな。 まさか自由に人間の姿になれるとは……。 明日斗博士がそのことから目を逸らさせる為に、アークサターンの機体のデータの方だけを敢えてワールドユニオンに提出したのも頷ける」
「……知られているならば、これ以上隠しておく必要はなさそうですね」
サターンは美月から少し離れると、初めて会った時と同じ、人間と同じ大きさへと戻る。
最先端の機械の体を使っているリンたちはよくよく見えればロボットだと分かるが、サターンの場合はやっぱりどこからどう見ても人間にしか見えない。
事前に正体を知っているか、この魔力が見える目でもなければ、気づくことは無理だろう。
「そのデータ通り、僕はお嬢様を敵から守るべく作られた特別なメカニカルウィッチ。 僕が依代としている特別な魔石のおかげで、この通り人間の姿にもなれるし、どんな状況でも戦うことができる。 お嬢様は僕が必ず守る!」
サターンは力強く宣言しながら、まるで美月を守る様に立ちはだかる。
それはまだ警戒していると言うより、自分の力しか信用していない様に見えた。
「成程、君の覚悟は理解した。 しかし、どうか信じて欲しい。 この学園が神聖な学舎である以上、私も学園長としてワールドユニオンの干渉から君たちを守ることを約束しよう。 それに、もし本当にこの学園が信用できないのなら、明日斗博士が美月さんの入学を許可することもなかっただろう。 それこそ君に命じて自分の元に連れ戻すことだってできた筈だ」
「うっ……それは……」
サターンはまるで痛い所を突かれた様に表情を歪めた。それこそまさ自分自身はそうしたかったと言う様に。
でも、確かに学園長の言う通り、この学園に入学することを父が反対しなかった以上、信用しても大丈夫だと思う。
この学園は全寮制で、セキュリティも万全だし、少なくともワールドユニオンが簡単には手が出せない安全な場所の筈だ。
すると今まで黙って話を聞いていた輝が、自分の正面にある座っていたソファから立ち上がった。
「学園長、ここからは僕が……」
「ああ、構わない」
「美月さんも、サターン君も安心して欲しい。 学園長も言っていたけど、この学園を運営しているのはこの国の代表である白金代表なんだ」
「白金代表……もしかして輝先輩の……」
「うん、そうだよ。 白金光一は僕の父なんだ」
「やっぱり……」
テレビでよく見る白金代表のことは自分も知っている。と言うか父の代理として会ったことがある。
アダム議長たちと言った他の偉い人たちと比べて、大分自分を気遣ってくれたので、印象は良かった。
そんな彼と同じ苗字を持つ輝の名前を聞いた時から薄々思っていたが、どうやら本当にこの国の代表の息子だったらしい。
もしかしたら輝がこの場にいるのも、生徒会長としてではなく、代表の息子としてなのかもしれない。
「元々父はワールドユニオンの……アダム議長の強引なやり方に疑問を持っていたんだ。 かく言う僕も、先日の事件に巻き込まれて、そのやり方をこの身で体験した。 まだ直接的な証拠は抑えられていないけれど……メカニカルウィッチをこんな形で利用して、レイたちをあんな目に合わせたことは到底許せることじゃない……!」
「っ……!」
礼儀正しく落ち着いた雰囲気の輝からは想像ができない程の怒気に、自分に向けられた物ではないと分かっていても、思わず身を震わせてしまった。
「すまない、怖がらせてしまったね……」
「い、いえ……」
「それで一つ提案があるんだ。 僕とヴィーナスも美月さんを守る手伝いをさせて欲しいんだ」
「輝先輩とヴィーナスが?」
「うん。 ワールドユニオンが再び一線を越える……この学園で事件を起こす可能性もゼロじゃないからね」
「――ッ!?」
自分がこの学園に入学したせいで、関係のない人たちが巻き込まれるかもしれない。先日の事件の様に。
そう思うと、罪悪感が湧いてくる。
「わたくしがこの学園にいるせいで……」
「いや、それは君のせいじゃない。 すまない、言い方が悪かったね……。 悪いのはあくまでも事件を起こす者たちの方だ」
輝先輩がフォローしてくれるが不安は拭えない。
先日の事件を体験したから分かる。軍用機は普通の機体とは明らかに違っていた。
この学園にもプロの選手や研究者を目指す才能あふれる生徒たちが在籍しているが、それはあくまでも競技としての話だ。曲がり間違っても巻き込む訳にはいかない。
それに対抗できるのも、同じく実戦を想定して作られたアークサターンくらいだろう。
そう考えるのはサターンも同じだった。
「悪いが、普通の機体で軍用機の相手をするのは無理だ。 そもそも機体のコアとなっている魔石の出力が違い過ぎる……」
「それについては問題ないよ。 ヴィーナス、話しても良いかな?」
「はい、構いませんよ、マスター」
続けて輝が口にしたのは衝撃の事実だった。
「……ヴィーナスのプライバシーがあるから必要な部分だけ話すけど……彼女はワールドユニオンから追放された暗闇博士と言う男が開発した、軍用のメカニカルウィッチなんだ」
「「――ッ!?」」
輝の明かしたヴィーナスの秘密を聞いた、美月とサターンが揃って同じ反応をした。
軍用機と言えば、悪夢にもなった十年前と、つい先日目にした、あの感情が消去された酷く無機質な瞳を持つメカニカルウィッチが頭に浮かんでしまう。
悪いのはあくまでもそんな風利用した人間たちだが、それでよ怖いイメージが消えない。
「だからヴィーナスには軍用機と同じく『魔石X』と呼ばれる通常の魔石とは異なる物が搭載されているんだけど……。 美月さん、それについて明日斗博士から聞いたことはあるかい?」
「いえ……ですが、Xとはもしかして……」
「うん、美月さんの想像通りだよ。 魔石Xはかつて地球に飛来した『惑星X』の欠片を使用しているんだ」
『惑星X』。それは歴史の授業で必ず耳にする名称だ。
二十一世紀半ばに発見された太陽系第九惑星ありなから、不自然な軌道で地球へと飛来した星だ。
当時の人たちも何とか衝突を阻止しようとしたらしいが、結局は失敗に終わって、その半分が今もなお地球と同じ軌道上にあり、残りの半分もバラバラとなり、隕石となって地球全土に降り注いだと言う。
そして、人類史上最悪と言われるWWⅢの原因となった深刻なエネルギー不足を引き起こし、その元凶となった凶星として忌み嫌われていた。
今はそうでもなくなったが、それこそ一時期、宇宙や星を見ることはおろか、それに関する名前を聞くことさえもタブーとされたらしい。
「通常の魔石が、地球が生み出す魔力をチャージするバッテリー方式なのに対して、魔石Xはその機能に加え、自ら魔力を生み出す発電方式の様な機能を持っているんだ。だから事前のチャージ込みでも、時間制限があるとは言え、周囲の環境に左右されることなく、戦うことができるんだ」
輝の説明を聞いて、サターンの言っていた意味を理解する。
機体の魔力量はそのままマジカルスキルの威力や使える回数、さらにマジカルバリアの強度に直結する。
さらに言えば、スーパーメカニカルウィッチはその巨大さ故に魔力の消耗が激しいので、高濃度の魔力空間である専用のバトルフィールド内でもなければ、満足に動くこともできない。
それ以外の場所では、短時間ならば動けるが、直ぐに周囲の魔力を食い尽くして、社会のインフラ設備にもダメージを与えてしまうし、そもそも法で禁止されている。
その点、軍用機はその弱点を解消していて、時間制限こそあれ周囲の魔力に依存することなく、その力を発揮することができる。
それは命をかけた戦いにおいて、致命的な差となる。
「……勿論、ヴィーナスは競技中を含めた普段は、普通の機体と同じ様になる様にリミッターをかけているんだけど、その生い立ちからして狙う者がいないとも限らない。 だから、緊急時には身を守る為に戦うことが許可されているんだ。 ……と言う訳なんだけど、どうかな?」
「輝先輩たちが戦える理由は理解しましたわ。 ですが……ヴィーナスは良いのですの?」
「抽象的過ぎて質問の意味が分かりませんが……マスターの敵はヴィーナスの敵でもあります。 ですので、問題ありません」
どうやら、輝もヴィーナスも実戦で戦うことに迷いも恐れもない様子だった。
確かにMCを勤めた生徒が紹介していた高校生チャンピオンバディと言う実績からして、心強いことこの上ないのだが、本当に巻き込んでしまっても良いのだろうか?
躊躇う美月を見たサターンが、間に割って入る様に輝の前に立ち塞がった。
「悪いが断らせて貰う」
「サターン!?」
「何故かな? 僕たちの力があれば、美月さんをより安全に守れる筈なのに?」
輝の視線が鋭くなるが、サターンも一歩も引かずに睨み返す。
何だか空気が悪くなっていっている気がする。
「必要ない。 お嬢様を守るのは僕の役目だ。 他人の手など必要ない」
「あくまでも君たち……いや、サターン君一人で十分だと?」
「ああ、その通りだ。 この役目だけは誰にも渡さない」
二人の間に見えない火花がバチバチと弾ける幻覚が見える気がする。
自分を守ると言う話だったのに、どうしてこんなに険悪な雰囲気になっているのだろうか?
すると輝が大きくため息をついた。
「まるで鎖だね……。 やはり、僕が気づいた通りだった様だ……」
「どう言う意味だ?」
「失礼、あえて言わせて貰うけど、サターン君……今の君じゃ美月さんを守れないよ?」
「何だと!? 僕の力では不足しているとでも!?」
「そうだよ、今の君は弱いからね」
「貴様ッ……!?」
弱い言うワードに反応したサターンがその身から怒気を放つ。
今にも胸ぐらを掴みかかりそうな怒りを向けられてなお、輝は冷静な雰囲気を崩さない。
二人共、一旦落ち着いて欲しい。怖い。
「先程のバトル……赤火焔君たちは君たちに負けはしたが、一つだけ明確に勝っていたものがあった」
「僕とお嬢様に勝っていたものだと?」
「それは相棒との絆だよ。 彼らは強い絆で結ばれていた。 それこそあの高みに届くかもしれない程の……。 それに対して、君たちはまだ本当の意味で相棒にすらなれていない……。 だからそのことを証明する為にも、君たちにスーパーウィッチバトルを申し込むよ」
「良いだろう、そのバトル受けてやる! 貴様を叩き潰して、僕の強さを……お嬢様を守るのは僕一人で十分だと証明してやる!」
「サターン!? 待って下さい、わたくしは……!」
(またバトルするんですか!?)
急にまたバトルする流れになったことに、内心慌てる。バトルしたらまた嫌な記憶が、トラウマが甦ってしまう。
しかし、そんな美月を安心させる様に、輝が微笑む。
「安心して欲しい、美月さん。 このバトルには他人の目なんてないから。 だから、僕たちの挑戦状を受けてくれるかな?」
でも、その顔は心なしか少し怖かった。
*****
――学園の地下にあるメカニカルウィッチ学園第一スタジアムにて。
先日の事件が起きたメカニカルウィッチ研究所に近いと言うことで選ばれた、『工場群』のバトルフィールドにアークサターンが立っていた。
このバトルフィールドは周囲が海を模した水場に囲まれており、陸地部分は工場を模した建物が建てられていた。
焔たちとのウィッチバトルとは違う、本当の意味で今世界で最もメジャーな競技である、巨大化なロボットとなったスーパーメカニカルウィッチ同士が戦うスーパーウィッチバトルをする流れになったことに、美月はまだ混乱したままだった。
「サターン、本当に戦うんですか!?」
「申し訳ありません、お嬢様。 ですが、僕とお嬢様の関係を侮辱されて黙っている訳にはいきません。 それに、今回はあくまでも偽物のバトルである競技用のルールです。 本物の戦いと違って、お嬢様に万が一の危険が及ぶこともありません」
「でも……!」
スーパーウィッチバトルは基本的な操作方法こそはウィッチバトルと同じだが、巨大ロボット同士が戦うと言う都合上、安全面を考慮して、競技に参加できるのは、年齢が十五歳以上の高校生から決められていた。
尚且つメカニカルウィッチ学園などの国が管理する学校や企業などで研修授業を受け、ライセンスの取得が必要なのだが、美月は特例として学園長から許可を貰っていた。
もう既に先日の事件で戦っているので今更ではあるが、実際に命を狙われた以上、どうしても必要な処置であった。
「……お嬢様、奴が来ました」
「もう、知りません……! なる様になって下さい……! 頑張れ、私! 頑張りなさい、わたくし!」
もうバトルは避けられないことを悟った美月は、サターンの前と言うことで一時的に戻っていた素の性格から、お嬢様人格へと切り替える。
輝も言っていた通り、このバトルは非公式で学園長以外誰も見ていないので、周りの目を恐れる必要もない。
それに命がかかった身を守る戦いに関することなら、トラウマもそこまで発動しない……筈。
そして、サターンの言った通り、空を飛翔する形で現れた輝たちのスーパーメカニカルウィッチが、工場の上に降り立った。
その機体は女性を思わせる細身なシェルエットで、白を基調とし、金の装飾が施された天使の様な外装を纏っていた。
両手に二丁の銃を装備し、背中に天使の翼を思わせる二対の大型ブースターを背負っていた。
その美しさに見惚れていると、輝の通信音声が聞こえ来た。
『すまない、待たせてしまったね』
「それが輝先輩たちの機体……」
『そうだよ、これが僕たちの機体『ノーブルヴィーナス』だ。 さあ、スーパーウィッチバトルを始めようか?』
「――ッ!?」
――悪魔の様な黒い機体であるアークサターンと、天使の様な白い機体であるノーブルヴィーナス。対照的な二機によるバトルが始まった。




