第60話「進化したアークサターンの力!」
『——さあ、全国大会高校生の部の一回戦☆ 続いての試合は、皆も大注目☆ 何とあのメカニカルウィッチの開発者である明日斗博士の娘で、ミライトウキョウ校の六位で一年生の黒土美月ちゃんとサターン君の登場だよ☆ まごうことなき優勝候補の一角だね☆ そして、そんな優勝候補の美月ちゃんたちとバトルするのは、カガクアイチ校の六位で二年生の早乙女心ちゃんとヴァルゴちゃんだよ☆』
MCのステラが選手の紹介をする声が聞こえて来る中、『花畑』のバトルフィールドにアークサターンが降り立った。
『むむむ? 私が以前配信で見たアークサターンの姿と違う? これはまさかの新衣装☆ 何と全国大会の舞台に合わせて、アークサターンが進化した姿をお披露目してくれたみたいだよー☆』
ステラや観客席から驚きの声が聞こえて来る通り、この進化したアークサターンの姿を皆に見せるのは今回が始めだった。何なら焔たちにも、ちょっと驚いて欲しかったから今この時まで秘密にしていた。
そんな進化したアークサターンのお披露目の場となった『花畑』は、奇しくも、学園でのスタースピリットとワールドユニオンとの戦いの舞台となった場所と同じ種類の物だった。それが今、新たなリスタート地点となったのだ。
そして花畑は少し高低差のある丘になっているが、目立った障害物の無い『荒野』と似ているので、最初から心たちの機体の姿を視認できていた。
登録されたプロフィールによると機体名は『ハートヴァルゴ』。
ハートヴァルゴは金を基調とした、戦乙女の様な機体で、女性を思わせる細身なシェルエットと、腰のスカートと脚部のホバーユニットが特徴的だった。
さらに主武装として身の丈に迫る巨大な斧の『ハートアックス』を装備していた。何となくだけど、アークXアックスにデザインが似ている気がする……。
美月がふとそんなことを考えていると、再びステラの声が聞こえて来た。どうやらバトル開始の時間となった様だ。
『それじゃあ皆お待ち兼ね☆ バトルスタートだよ☆』
『行きますわよ、ヴァルゴ!』
『はい、心姉様〜!』
バトル開始の合図と同時にハートヴァルゴがこちらに真っ直ぐに突っ込んで来た。どうやら焔たちみたいなタイプの様だ。
それに対してアークサターンは右腕に装備した、新たな主武装であるアークXランスを構えた。
「サターン! 新しい武器を試しますわよ!」
「はい、お嬢様!」
アークサターンはアークXランスの槍の側面にある銃口からビームの弾丸を連射した。
それを見たハートヴァルゴは腰のスカートと脚部のホバーユニットを使い、花畑の上で軽やかに左右にステップすることで避けようとした。
だけど無駄だ。美月の魔力の見える目の前には、回避先が見えているのだから。
『アイタタタ……!?』
『や〜ん!』
ハートヴァルゴの胴体にビームの弾丸がヒットしたことで、後ろにノックバックさせた。
だけど思ったよりもダメージが入っていない。まるで受け流された様な……。
案の定、ハートヴァルゴは直ぐに立ち上がって、再び突っ込んで来た。
それなら……。
「サターン! 今度はアークXウィングを使いますわ!」
「了解です、お嬢様! 発射!」
アークサターンは背中の二対の大型ブースターからビームキャノンを発射した。
今までは魔王システムかプラネットダークで、悪魔の様な手をした巨大な翼へと展開させなければ、ブースターの機能しか使えなかった。
しかし強化パーツのおかげで、非展開時もこうして遠距離武器として使える様になっていた。勿論、展開すれば手のひらにキャノン砲を内蔵した巨大な翼と言う、さらに強力な武器へと変化する様になっていた。
それを見たハートヴァルゴは今度は斧の巨大な刃の部分を盾にすることで、その攻撃を受け止めようとした。成程、盾としても使えるのか。
『きゃあっ!?』
『心姉様!?』
しかし受け止められる筈もなく、後ろに大きく吹っ飛ばされた。
だけどやっぱり倒せていない。この武器は下手なマジカルスキル並みの威力があるから、重装甲な機体なら兎も角、ハートヴァルゴの様な細身な機体では耐えきれない筈なのに……。
「やっぱり攻撃が受け流されてる……。 でも一体どうやって……?」
「お嬢様、原因が分かりました。 ハートヴァルゴのホバーユニットです」
「ホバーユニットが?」
「はい。 ハートヴァルゴはホバーユニットで常に地面の上に浮いている……つまり地面との摩擦が殆どゼロの状態なんです。 その上で機体が細身で軽いことを生かして、攻撃を受けた際に、敢えてその衝撃に身を任せて吹っ飛ばされることで、ダメージを最小限に抑えているんです」
どうやらそれが新しい武器による攻撃が思ったよりも効いていない原因の様だった。
するとそれが聞こえたのか、心がハートヴァルゴを立ち上がらせながら、嬉しそうに声を上げた。
『ご明察ですわ、サターン様! このハートヴァルゴは、雨水瓶自動車が自社の技術を応用して設計開発した『レインアクエリアス』のパーツを流用しておりますの! 機動性に関してだけは、明日斗博士の作った機体にも遅れは取りませんわ!』
魔法によって車が宙に浮き、低空浮遊する形で走る様になったことで、自動車に使われるパーツも大きな進化を遂げていた。
それを製造開発する自動車メーカーの中でも、雨水瓶自動車はその技術力の高さから高い知名度を誇っており、JP国有数の大企業の一つに数えられていた。
それはつまり、あのハイパーキングレオを設計開発した獅子谷玩具と分野は違えども同じと言うことであった。ハートヴァルゴもその元となったと言うレインアクエリアスも、あの機体と方向性は違えども同レベルの性能を持っているのであろう。
するとハートヴァルゴはその機動性を生かして一気にこちらへと突っ込んで来た。やはり自慢するだけあって速い。
だけどどの道、遠距離攻撃では受け流されてしまうので、こっちも近距離攻撃で一気に仕留めるつもりだったので問題ない。
懐に飛び込んで来たハートヴァルゴが振り下ろして来た斧を、アークサターンは銃槍で受け止めた。相手の攻撃が想定よりも重い!?
『どうですか、お姉様! 淑女の強さを表したこのハートアックスのパワーは! そして!』
「速い!?」
そのままハートヴァルゴはアークサターンの背部へと回り込んだ。やはり機体の重量差の影響で運動性では負けている……!
反撃よりも防御を優先した美月たちは、アークサターンに左腕のアークシールドで斧を受け止めさせた。
『淑女の美しさを表したこのスピードは!』
『や〜ん! まるで体に羽が生えた様ですぅ〜』
『これぞ淑女の強さと美しさですわ!』
ハートヴァルゴはまるで踊る様に軽やかなステップをしながら、更なる攻撃を仕掛けて来た。
だけどこれ以上好きにはさせない。美月たちはアークサターンに盾を持たせたまま、その中に収納されていたアークソードの刀身を展開させた。改良によって空いている左腕だけで、剣と盾を同時に使える様になったのだ。
「させませんわ!」
『危なっ!?』
アークサターンの剣による攻撃を受けたハートヴァルゴはまたもや攻撃を受け流す様に後ろに飛んだ。
機体のホバーユニットだけじゃない、心たち自身も受け身が上手い。
『ふぅ〜、菜々会長たちに叩き込まれた護身術のおかげで命拾いしましたわ。 本当に菜々先輩たちには色んな意味で頭が上がりませんわ』
一度距離を取ったハートヴァルゴはその場で足を止めると、自身の斧をポンポンと叩き出した。
『……本当ならわたくしもお姉様と同じく、剣と盾と斧を使いたかったのですが……菜々会長たちから、初心者はまずは一つの武器に専念しろと言われんですの……』
どうやらハートアックスがアークXアックスに似ている気がしたのは気のせいではなかったらしい。そこもリスペクトしていたのか……。
『だけどせめて、お姉様と同じマジカルスキルを使える様にと……わたくしたちはお姉様の学園リーグ戦の配信を何度も何度も見返して、たくさん研究しましたの……。 その成果を今……ご覧にいれますわ! ヴァルゴ!』
『はい、心姉様〜!』
『『マジカルスキル! ヴァルゴスラッシュ!』』
「「ーーッ!?」」
何とハートヴァルゴはハートアックスの刀身を延長させ、魔力の斬撃を放った。
サターンスラッシュのアークソードによる紫色の光とは違って、斧による黄色の光だったが、ほぼ自分たちのマジカルスキルと同じだった。
「「マジカルスキル! サターンスラッシュ!」」
それを見て慌てた美月たちは、こちらも咄嗟にサターンスラッシュを放つことで迎撃した。その衝撃で花畑の花が舞い散った。
まさかこれもリスペクトして来るなんて……!?……と言うことは……!?
そして美月たちの予想通り、ハートヴァルゴはまるで周囲の全ての魔力を喰らう様に、ハートアックスの刃に膨大な魔力を集めていた。
元々巨大だった斧がさらに大きくなり、巨大な光の剣となった。
『『マジカルスキル! ヴァルゴハートブレイク!』』
「サターンアークブレイクまで!?」
「お嬢様! 今はこちらも!」
「は、はいですわ!」
美月たちの最強のマジカルスキルのサターンアークブレイクの威力は、自分たちが一番良く知っていた。
アークサターンは急いで剣と盾を合体させて、アークXアックスを作り出した。これも改良のおかげで、空いている左腕だけで行える様になっていた。
「「マジカルスキル! サターンアークブレイク!」」
そのままこちらもサターンアークブレイクを放った。
それによりお互いの暴力的なまでの紫色の光と黄色の光が、花畑の花を吹き飛ばしながらぶつかり合い、やがて相殺された。
左腕だけで撃った分威力が落ちているとは言え、ほぼ互角の威力。本当に凄い再現度だ。
『どうですか、お姉様! お姉様をリスペクトしたわたくしたちの魔法は?』
「はい! 本当に凄いですわ、早乙女先輩!」
『心でお願いしますわ! 後、先輩は無しで!』
「あ、はい。 心さん」
どうやら心は本気で自分のことを尊敬してくれている様だった。
美月の口調だけではなく、武器とマジカルスキルもこうして真似ていた。凄いリスペクト精神だ。
少し恥ずかしいけど、嬉しかった。
だからこそ、美月もそんな心に良いところを見せてたいと思った。心だけじゃない、このバトル見ている焔たちやステラたちにも良いところを見せたいと思った。
だから……!
「サターン! 今度はわたくしたちから行きますわよ!」
「はい、お嬢様! 僕たちのもっと凄いところを心たちに……皆に見せましょう!」
今までは新しいアークサターンと前のアークサターンとの差に、少しだけ慣れない部分があった。
一応寮の部屋で試運転はしたものの、やっぱり本番とは違うところがあった。
だけどこうして心たちと本気のバトルしたことで、機体の動かし方を完璧に掴むことができた。
心たちのハートヴァルゴは強い。生半可な攻撃では受け流されてしまう。だから受け流せないくらいに速い攻撃で一撃で決める。
「「マジカルスキル! サターンアークストライク!」」
美月たちは新たな武器に合わせた新しいマジカルスキルを発動させた。
まるで周囲の魔力の全てを喰らう様に、アークXランスに膨大な魔力が集まって来る。
元々巨大だった銃槍がさらに大きくなり、巨大な光の槍となった。
それだけではない。余剰の魔力がアークサターン本体を包み込み、機体と銃槍が暴力的なまでの紫色の魔力で包まれた。
『流石ですわ、お姉様! そんなお姉様だからこそ、わたくしたちの全てをぶつけたいのですわ! ヴァルゴ!』
『はい、お姉様〜! ヴァルゴと頑張りま〜すぅ!』
『『マジカルスキル! ヴァルゴハートブレイク!』』
ハートヴァルゴは再びヴァルゴハートブレイクを放った。しかもさっきよりも威力が上がっている、アークサターンブレイクに近い威力になっている。
だけど……!
「サターン! 正面突破しますわよ!」
「勿論です、お嬢様!」
アークサターンは躊躇うこと無く、ヴァルゴハートブレイクへと突っ込んだ。
元となったサターンアークブレイクは確かに強力無比な魔法だ。
だけどサターンアークストライクは、それをさらに一点に集中させ、機体ごと突っ込むことで、威力と貫通力を増大させた魔法だった。
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!!」」
『なっ!?』
『や〜ん!』
そしてヴァルゴハートブレイクを真正面から打ち破ったアークサターンが、ハートヴァルゴの懐へと入り込んだ。
そのまま受け身はおろか、威力を受け流すこともできないくらいのスピードで、その腹部に銃槍を突き刺した。
『流石ですわ……お姉様……』
『心姉様!?』
そしてアークサターンがすれ違う様にその場を通過すると、その衝撃で花畑の花が舞い散った。
一方でその場に置き去りにされたハートヴァルゴは上半身と下半身を真っ二つにされたことで、マジカルバリアを破壊されて戦闘不能になった。
それを見たMCのステラがバトルの決着を宣言した。
『決まったー☆ 勝者はミライトウキョウ校の六位で一年生の美月ちゃんとサターン君のアークサターンだー☆ 何とノーダメージでの勝利だー☆ 流石は優勝候補のみづみづとサー……んんっ☆ み、美月ちゃんとサターン君だー☆』
*****
バトルの後、美月たちはバトルフィールドへと繋がる選手用の通路に戻って来ていた。
「サターン……! 無事に一回戦を突破できましたね……!」
「はい、お嬢様。 二回戦の相手はおそらく小春たちになると思われます。 このまま気を引き締めて行きましょう」
「はい、分かっています……! 小春たちの防御力の高さは侮れませんからね……!」
機体から降りた美月は、巨大化を解除して手のひらサイズの大きさに戻ったサターンと一回戦の勝利の喜びを分かち合いながら、次の二回戦のことを話し合っていた。
するとバトルフィールドの方から誰かが走って来た。
「——おめでとうございますわ、お姉様! 本当に強かったですわ!」
「こ、心さん!?」
何とその正体は心だった。ハートヴァルゴは戦闘不能で動けない筈なのに……。まさかここまで走って来たのか!?
美月が思わず驚いていると、心は最初に会った時の様に思いっきり抱きついて来た。
「わっ!?」
「——お姉様」
「は、はい……! 何ですの?」
バトルが終わったことで素の精霊人格に戻りかけていた美月は、慌てて人間人格のお嬢様口調に戻した。
そのせいで心の声のトーンが低くなったことに気づくのが遅れてしまった。
「——実はわたくしはワールドユニオンの刺客ですの……」
「ーーッ!?」
「貴様ッ……!?」
予想外の告白に、美月が思わず身を強張らせ、サターンが自分を拘束する心の手を弾き飛ばそうとした。
しかし心は美月を逃すまいとより一層強く抱きしめて来た。
「お静かに。 お願いします、どうかこのまま話を聞いて下さい。 今しかチャンスがないんです」
「どこにワールドユニオンの監視の目があるか分からないんです」
心もヴァルゴも最初とはまるで別人の様に真面目な声になっていた。
その真剣な声と自分のことを本気で尊敬してくれていたことから、美月たちも一旦話を聞くことにした。
「……バトルの前に話した通り、わたくしはずっと両親の言うことを聞いて生きて来ました。 そんな両親は……正確には両親が重役を務める雨水瓶自動車はワールドユニオンの影響下にあるのです……。 そしてわたくしは両親の……ワールドユニオンの指示の元、お姉様とサターン様、そしてアークサターンの力を調べるべく、こうして送り込まれたのですの……」
「そ、そんな……!?」
「だけどわたくしは、お姉様からの恩に仇で返したくはなかった……。 だからわたくしは表向きには指示に従うフリをして、こうしてお姉様に危険を警告するチャンスが訪れるのを待っていましたの……。 お姉様と一回戦で当たったのは決して偶然ではありませんわ。 ワールドユニオンは全国大会の組み合わせの一部を操作していますの……」
「ワールドユニオンがもう既に全国大会に介入を!?」
「チッ! 奴らめ!」
心から密かに提供された情報に美月は驚きの声を、サターンは怒りの声を漏らしていた。
ワールドユニオンは軍を競技場内に入れられないので、生徒側に刺客を紛れ込ませて来ていた。しかもトーナメント表がいじられていると言うことは運営側も……。
「……お姉様、どうかお気をつけ下さい。 ワールドユニオンの刺客はわたくしだけではありませんわ。 その中でも特に、学園リーグランキング一位の……」
「——心」
心が続けて何かを警告しようとすると、その場に第三者の声が響き渡った。
「な、菜々会長……? どうしてここに……?」
「貴方が向こうの選手用の通路に戻らずにこちらに向かったから、わたくし自ら迎えに来たのです。 何を勝手な行動を取っているのですか?」
「うぅ……それは……」
心が声と体を強張らせながら離してくれたことで、自由になった美月は声の主がいるであろう後ろを振り返った。
するとそこにはロングヘアの青い髪をルーズサイドテールにして、青い瞳をした、メガネをかけた少女がいた。
凛とした静かな声と、お嬢様の様な綺麗な容姿の子だった。
そんな彼女の肩の上には、青い髪に、赤い瞳をした、メカニカルウィッチの男性が騎士の様に控えていた。
美月は全国大会前に優勝候補のことを調べていた為、彼女たちのことを知っていた。
彼女たちの名は雨水瓶菜々とアクエリアス。カガクアイチ校の一位の三年生で、雨水瓶自動車の社長の一人娘でもあった。
心は言っていた。雨水瓶自動車はワールドユニオンの影響下にあると……。そして学園リーグランキング一位の中にワールドユニオンの刺客がいると……。まさか……!?
するとそんな菜々は美月たちのことをじっと見つめながら再び口を開いた。
「帰りますよ、心。 これ以上勝手な行動を取るのは止めなさい」
「そうですよ。 菜々様の手を煩わせないで下さい。 ヴァルゴもですよ」
「わ、分かっていますわ……」
「は、は〜い……」
心とヴァルゴは美月たちから離れると、菜々とアクエリアスの元へと向かった。
そして菜々たちの後ろに続く形でこの場を去ろうとする中、心は足を止めて自分たちの方へと振り返ると大きく手を振った。
「ではでは、お姉様! それからサターン様も! また何処かでお会いしましょう!」
「バイバイですぅ〜!」
心たちはすっかり最初に会った時と同じに戻っていたが、美月たちはそれにリアクションを返すことはできなかった。
そして心たちにが去って行ったことで、その場にポツンと取り残された美月は、思わず声を漏らした。
「——この全国大会の舞台に……ワールドユニオンの刺客が……?」




