第10話「ようこそ!チームオールスターズへ!」
「――ようこそ、美月! 俺たちのチームオールスターズの部室へ!」
あの後、美月は焔たちが作ったチームオールスターズの部室へと招待されていた。
そもそもウィッチバトル並びにスーパーウィッチバトルは基本的には相棒と一緒にバトルする一対一の個人戦が主流だ。多くの人の目標である世界大会もそのルールで行なっている。
でも、その他にも、教習用に利用されることが多い二対二のタッグ戦や、個人戦の次にメジャーな三対三のチーム戦がある。
さらに言えば、五対五の集団戦や、最大十人によるバトロルロイヤルもあったりする。
チームと言うのは、そんなバトルで勝つ為に、バトルの戦術を一緒に研究したり、カスタマイズなどの技術を共有したりする、相棒とは別の意味で一心同体の存在であった。
それはプロも同じであり、プロは基本的にチームに所属していて、そのバックには企業のスポンサーがついていた。
そんなチームを組んだ焔たちの部室がある場所は、学園のチームの部室が集まる部室棟の一番外れの立地の悪い場所にあった。まあ、入学したばかりの新入生三人が作ったチームだから仕方がないのだが。
この学園はとんでもなく広い為、移動がスムーズになる様に、魔法によって動く専用の道が設置してあるのだが、それを込みしてもここまで来るのは中々に大変だった。
その為、美月は現在、部室に備え付けられていた大きな椅子に座って休ませて貰っていた。
「よーし、お楽しみの開封タイムだー!」
「お〜!」
「……だな」
一方で焔たちは、作業場の為の大きな机の上に購買部で買った物を広げていた。
メカニカルウィッチのバトル用の武器やパーツなど、いろんな物が置かれていく。
「それじゃあ、マーズ! 早速新しいマジカルスキルを習得しよう!」
「任せて、焔君! 私、強くなるわ!」
焔は取り出した小さなメモリーカードをマーズに渡し、機体の魔石の中に取り込ませた。
マジカルスキルは基本的にこのメモリーカードのデータを読み取って習得させる。それはバトル用の物でも日常用の物でも変わらない。
デフォルトで最初から搭載されている『マジカルバリア』や『マジカルチェンジ』などの『マジカルシリーズ』を除く、日常生活でも使われる補助魔法や、バトルで使用される攻撃魔法や防御魔法の大半の一般的な魔法は、それぞれの機体特有の魔力との相性が悪くなければ、この方法で誰でも習得することができた。
一方で、主にバトルで使用される、その機体特有の魔力を利用した『サターンスラッシュ』や『サターンアークブレイク』などの機体の名前が入っている専用の魔法は、基本的には他の機体では習得できない。
これは主に、一般的な魔法を元に生み出されるのだが、難易度は高いが一から生み出す人や、偶に他の機体の専用の魔法を見て習得できたりする人もいるらしい。
「マーキュリー。 新しい武器を試すぞ」
「フッ……。 好きにしろ、冬馬」
冬馬はメカニカルウィッチのいろんな種類の武器を並べていた。
武器種の中にはいろいろあるが、一番メジャーなのは、やっぱり『杖系』だろう。
その理由は、バトルの華でもあるマジカルスキルの扱いに長けているのもあるが、一番の理由は最初の世界大会で優勝したチャンピオンバディが使っていたからだろう。
美月も彼女たちに会ったことがあり、恩人であると同時に憧れの人でもあった。
他には自分たちが使っている、バランスがよく初心者から上級者まで使いやすい『剣系』。
重量は増すが、魔力の消費を抑えて防御できる『盾系』。
リーチの長さと貫通力に優れた『槍系』。
射程に優れた遠距離武器の代表である『銃系』。
癖はあるが使い手によっては、銃系にはできない軌道ができる『弓系』。
さらに輝たちが使った上級者向けの遠隔操作できる『ドローン武器』など。
マイナーな物を含めまだまだ多くの種類があった。
さらに例えば『杖系』なら、初心者でも扱いやすい片手で使える『短杖型』や、扱いは難しいが本格的な『長杖型』に、上級者向けだがドローン武器の様に手に持たず使用できる『水晶型』などに細かく分類される為、その全部を覚えている人は少ないだろう。
「ジュピター! 新しいパーツを使って、更に丸く! 硬く! 可愛くなろうね!」
「ふ、ふえぇ〜! また私の機体を盛る気なの、小春ちゃん!」
小春はメカニカルウィッチのパーツを使ってジュピターをデコろうとしていた。
機械仕掛けの魔女を意味する名を持つメカニカルウィッチは、コアとなる部分こそは魔石だが、それ以外の部位は機械でできている。
一応サンプルとして一式モデルも販売されており、初めて手にする子供などは最初はそれを使うのだが、そこから相棒と相談しながら機体を自分たち好みにカスタマイズしていくことになる。
その種類は、国が公認する企業が部位ごとに共通規格になる様に開発しているので、パーツ単位で見れば星の数程あるのだ。
それを用いて、バトル用に強い機体を作ったり、バトル度外視で日常用に拘ったりできる為、十人十色と言う様に、基本的に誰一人として同じ機体はないと言ってもいい。
(楽しそう……。 そう言えば……サターンの機体はカスタマイズとかできるのでしょうか?)
美月は焔たちの様子を見てふと思った。
アークサターンは父が自分を守る為に作った実戦仕様の機体だ。
攻撃、防御、スピードが高い次元で揃っているバランス型の機体で、ある意味一つの完成系と言っても過言ではない。
下手に手を加えようがないのだが、個人的に強いて言うなら、杖系の様な遠距離武器があれば便利だなと言うくらいか。
「美月!」
「……! はい、なんですの?」
「俺たちの機体は昨日見せたけど、冬馬たちと小春たちの機体はまだ見たことがないよね?」
「ええ……」
「見てて!」
どうやらカスタマイズも終わったらしく、片付けた作業場の机の上にはマーズとマーキュリーとジュピターの三人がいた。
今の三人は小さな人間にしか見えない、日常用の姿をしていた。
「いくわよ、みんな!」
「フッ」
「お、お〜!」
「「「マジカルチェンジ!」」」
変身魔法が発動し、人間の見た目の上から、魔力によって生成されたバトル用の武器と装甲を纏うことで、ロボットの姿へと変身した。
変身魔法の『マジカルチェンジ』はメカニカルウィッチのもう一つの核とも言える魔法で、今目にした日常用とバトル用の姿を切り替える他に、スーパーメカニカルウィッチへと巨大化したりできるものだ。
これは変身ヒーローや魔法少女が変身する際に、武器や衣装を謎空間から呼び出すのを参考にしたらしく、予め装備していた物を一時的に魔力で分解したり、逆に生成することで呼び出したりできる。
巨大化の際もこれを応用して、膨大な魔力を用いて元の手のひらサイズの小さなロボットのパーツを巨大なロボットのパーツへと再構築しているのだ。
「美月、改めて紹介するね! これが俺とマーズの機体『ブラッドマーズ』だよ! 煌めきカッコいいでしょ?」
「僕とマーキュリーの機体『ウルフマーキュリー』の拘りに気づけるかな?」
「あたしとジュピターの機体『ゴーレムジュピター』の可愛さが一番だよね?」
先ず、焔たちの機体『ブラッドマーズ』は杖をメインウェポンとした、魔法少女の様な可愛さと吸血鬼の様なカッコ良さが両立した赤い機体だ。
次に、冬馬たちの機体『ウルフマーキュリー』は弓をメインウェポンとした、人狼を思わせる野生味のある亜人型の青い機体だ。
最後に、小春たちの機体『ゴーレムジュピター』は両腕の盾をメインウェポンとした、全身を重装甲で固めたゴツ……丸くて可愛い?機体だ。
三人の機体はどれも個性が出ていた。それにこの組み合わせはもしかして……。
「どの機体もとても良いと思いますわ。 それぞれのモチーフは『吸血鬼』、『人狼』、『人形』でしょうか……?」
「その通りだよ、美月! これが俺たちのチームオールスターズのメカニカルウィッチだよ!」
どうやら、何となく思った西洋の有名な怪物のイメージ通りで間違いない様だった。ここに騎士よりかは悪魔のイメージが強いサターンの機体を加えると……。
そう考えていると、いつの間にか焔が目の前に来ていた。
「それでね! 美月も良かったら俺たちのチームに入らない?」
「ち、チームですか……?」
相変わらず距離が近くてドキドキするが、チームへの誘いには躊躇してしまう。
お友達になれたのは嬉しいが、自分が入ったらいろんな意味で迷惑をかけてしまうかもしれない……。
「もお〜、焔! そんなにグイグイ行ったら、美月ちゃんが困るでしょ! あたしとしては、女の子が増えるのは大歓迎だけどさ!」
「そうだぞ、焔。 そんなに急に言われても美月さんが困るだけだ。 僕も昨日見た強さからして異論はないが……」
「う〜ん、それもそっか! それじゃあ、また今度にでも返事を聞かせてよ!」
小春と冬馬に宥められたことで、チームに入る話は一度は保留になる。
しかし、焔は今度は部室に備えつけられていたウィッチバトル用のスタジアムを指差した。
この流れは……。
「でもさ! バトルなら良いでしょ? 四人いるから二対二のタッグ戦で今度の実習授業の練習をしようよ!」
「それは……」
「バトル……」
「サターン?」
バトルの誘いに一番乗り反応を見せたのは、今までずっと黙っていたサターンだった。
「やります……やまりしょう、お嬢様。 僕は戦いから逃げる訳にはいかないんです……!」
「で、でも……」
「ご安心下さい。 僕はもう二度と負けません……!」
美月自身のトラウマとサターンの昨日の敗北のこともあり、それでもなお躊躇ってしまう。
するとバトル用の姿に変身したサターンが一人で勝手にスタジアムに飛び込み、バトルフィールドの上へと降り立った。
「さあどこからでもかかって来い! 三人まとめて相手してやる!」
(サターンはどうしてそこまで……)
*****
サターンの挑発により、バトルは二対二のタッグ戦から四人によりバトルロイヤルに変更された。
バトルをする流れになってしまったものの、美月のトラウマは発動していなかった。
その理由は昨日みたいな周りの目がないからとか、相手がお友達である焔たちだからではない。自分が何もしていないからだ。
「全員、僕が倒す!」
「さ、サターン……!」
サターンは美月の指示を無視して一人で勝手に動いていた。
自分はそれをただ見ていることしかできない。
今回のバトルフィールドは昨日と同じ、目立った障害物のない『荒野』と言うこともあって、直ぐに相手と接敵する。
「先ずはお前たちからだ!」
「そうはいかないよ! 俺たちだって、リベンジの為に、対策を考えて来たんだから! 行くよ、マーズ!」
「ええ、焔君! 新しいマジカルスキルを試すわよ!」
「「マジカルスキル! 幻影の炎!」」
ブラッドマーズが炎に包まれたかと思うと、サターンを取り囲む様に炎の輪が燃え広がった。
するとその炎の輪の上に、揺らめく炎の様に分身した機体が現れた。
「「マジカルスキル! マーズファイア!」」
分身たちが一斉にマーズファイアを発射する。
これは上手い。あくまでも本物以外の分身は影だけの偽物であるが、マーズファイアが追尾式で避けられないと言う特性上、相手に対処を強いる様になっている。
でも……。
「それは僕には……お嬢様には通用しない!」
(っ……! ごめんなさい……!)
この魔力が見える目の前では無意味だった。
魔力からその魔法の特性が分かる以上、幻影の炎の様な補助魔法の大半は美月には意味をなさない。
サターンはダミーを全て無視して、本物のマーズファイアを撃ち落とすと、焔たちの機体の元へと一直線にアークサターンを突っ込ませた。
「な、何で!?」
「不味いわ、焔君!?」
「トドメだ!」
アークソードの刃が昨日と同じ様に、ブラッドマーズを一刀両断にしようとした……その時。
視界外から飛んで来た魔力で作られた氷の矢が、アークサターンの剣を弾いた。
「チッ、狙撃か!」
サターンは直ぐに剣を拾い直すと、狙撃が飛んで来た方向に目を向けた。
そこには大型の弓『ウルフボウ』を構えたウルフマーキュリーがいた。
「サンキュー、冬馬! 助かった!」
「勘違いするな、焔。 獲物を倒して油断した相手を狙おうとしただけだ。 別に君たちを助けた訳じゃない」
「フッ、冬馬も素直じゃないな……」
「う、うるさいぞ、マーキュリー!」
サターンを狙った狙撃は、正確さもタイミングもほぼ完璧だった。後コンマ数秒ずれていたら間違いなく機体本体に命中していた。
弓系の武器は銃系と比べてクセがあり、使い手の腕に大きく左右される筈なのに……凄い技量だ。
三人の中で一番強いと言っていたのは、本当だったのかもしれない。
「もお〜! あたしたちのことも忘れないでよね! 最大火力で行くよ、ジュピター!」
「う、うん……! 任せて、小春ちゃん……!」
鈍重な機体の為、一人だけ接敵が遅れていたゴーレムジュピターが、武器が内蔵された両腕の大盾『ゴーレムマルチシールド』を構えた。
「ドッカーン!!」
盾の内側に取り付けられたキャノン砲を始めとし、機体各部に内蔵された火器などが一斉に発射される。
ビームの雨が降り注ぎ、焔たちの機体が慌てて離脱する中、サターンも美月の目を利用して回避行動を取る。
「まだだ……こんなんじゃダメだ……!」
サターンは最小限の動きで避けながら、アークソードとアークシールドを合体させ、アークXアックスを作り出した。
そして、相手の三機が一直線上に並ぶ位置へと辿り着く。
「どんな敵が相手でも……僕はもう二度と、誰にも負ける訳にはいかないんだッーー!! マジカルスキル! サターンアークブレイク!」
昨日の輝たちとのバトルみたいに負けそうになっている訳でもないのに、サターンはまるで追い詰められている様に悲痛な叫び声を上げる。
その激情が宿った様な暴力的なまでの魔力がビームの雨諸共ブラッドマーズとウルフマーキュリーとゴーレムジュピターを飲み込んだ。
安全対策が施されているスタジアムの外側にまでその衝撃波が伝わって来る様に錯覚してしまう程だった。
マジカルバリアが砕け散る音と共に、三機が戦闘不能になった。
「負けた〜〜!! 悔しい〜〜!! 幻影の炎ならならいけると思ったのにな〜! でもまだだよ! 次こそは絶対に負けない!」
「その意気よ、焔君! 一緒に強くなりましょう!」
「昨日のバトルで見た物よりもさらに凄いマジカルスキルだった……。 僕たちも負けていられない……」
「フッ、そうだな、冬馬。 精進あるのみだ」
「あたしたち三人をまとめて倒すなんて、本当に強いね! でも、あたしたちだって、負けっぱなしではいられないんだから!」
「う、うん……! 頑張ろう、小春ちゃん……!」
三人は負けたことでとても悔しそうだったが、サターンの強さを前にしても驚きこそはあれ、心が折れた様子はなかった。
焔は勿論のこと、冬馬も小春も強くなりたいと言う闘志を燃やしているのが分かった。
(きっとこの三人はもっと強くなる気がします……。 それに比べて私は……私たちは……)
美月はチラリとサターンの様子を見ると、まるで昨日負けた時と同じ様に苦し気に声を漏らしていた。
「もっともっと強くならないと……! お嬢様を守る為に……!」
サターンの強くなりたいは焔たちのとは別の物に見える。
強くなりたいではなく、強くなくてはいけない。そう思っている様に見えた。
(どうしてそこまでして、私を守ろうとしてくれるんですか……?)
自分でもうまく説明できないけど、その姿を見ていると胸が苦しかった。
その姿が命を賭けて自分を守ってくれたあの人と重なった。
*****
――日付を跨いだ週末の金曜日。メカニカルウィッチ学園第三スタジアムにて。
学園の地下にあるスタジアムのバトルフィールドへと繋がる選手用の通路に美月はいた。
いよいよ初のスーパーウィッチバトルと言うことで、朝からクラスメイトたちのテンションの高さと盛り上がりはそれはもう凄かった。
そんな中で、希望通りのペアになった美月たちは一番最初に提出した影響か、タッグ戦の一番手をすることになっていた。
「行くよ、マーズ! 俺たちの新しい伝説の始まりだ!」
「ええ、焔君!」
「「マジカルチェンジ!」」
二人の息ぴったりの声と共に、焔たちの足元に巨大な魔法陣が出現すると、二人は巨大化する魔石の中へと飲み込まれた。
そのまま魔石を核とし、機械の体が再構築されることで、巨大なロボットとなったブラッドマーズが現れる。
『凄い! これがスーパーメカニカルウィッチ! 煌めきカッコいいや!』
『ええ! 今なら私も何だってできる気がするわ!』
通信音声で聞こえて来る焔たちの声から興奮する様子が伝わって来る。
自分の時は状況が状況で、それどころではなかったが、やっぱり感動ものなのだろう。
『それじゃあ、美月! それにサターンも! 俺たちは先に行ってるね!』
「はい、わたくしたちも直ぐに参りますわ」
『分かった! 待ってるね!』
焔たちは機体のスラスターに火をつけると、そのままバトルフィールドへと飛び去って行った。
「サターン、そろそろ私たちも準備をしないと……」
「はい、お嬢様」
美月は本来の口調に戻って声をかけた。
それは焔たちがいなくなったこともあるが、サターンと二人きりの時は何故か自然と素の性格に戻ってしまう。
同じく父が用意したリンや爺やたちでさえ、信じられる様になるのに時間がかかったのに、何故かサターンだけは出会って直ぐから安心することができた。
その理由は……何となく分かっている。いつの間にかサターンのことを大好きだったあの人と重ねてしまっているからだろう。
そんな訳ないと頭では分かっているのに。
「……ねえ、サターンは……」
――それでも、美月がある疑問を問いかけようとした……その時だった。
「――こうして直接会うのは初めましてだな。 黒土美月。 それにサターン」
選手以外立ち入れない筈の通路に女性の声が響きわたる。
それはどこか落ち着いる様で、無機質とは違う、抑揚のない暗く静かな声だった。
すると何者かがバトルフィールドとは反対の通路の奥から歩いて来る。
「何者だ!?」
サターンの警戒する声と共に、謎の人物が姿を現した。
フードを深く被り、顔と全身を隠しているが、声と体格からして女性だろうか?
(あれ……? この人……ううん、違う……この女性は……!?)
美月の魔力の見える目が違和感を感じ取る。その体はサターンと同じく魔力で作られていることを。
警戒を続けたままのサターンと、気づいた事実に驚く美月を他所に、謎の女性がその口を改めて開いた。
「――改めて名乗ろう、私の名はネメシス。 あの方の命で、君たちに試練を与えに来た」




