097 マナコネクト
プロテクトを利用した検証は、無事に成功。
これでより効率的にコメットレプスを狩れるようになった。
「よし、この調子なら今日だけでも、あと何体かは倒せるはずだ」
気合を入れ直し、攻略を再開しようとした矢先だった。
ユイナが申し訳なさそうな表情で口を開く。
「……ごめん、アレンくん。少しだけ待ってもらってもいいかな?」
「っ、怪我か?」
「ううん、それは大丈夫。ただ、少し魔力を使いすぎちゃったみたいで……」
「……そういうことか」
言われてみれば、ユイナの表情には微かに疲労の色が見えた。
コメットレプスは魔法抵抗力が非常に高いのに加え、レベルに関してもユイナより遥かに格上。
その分だけウィングアップの発動時、魔力を大量に持っていかれたのだろう。
「こんなにすぐ使っちゃうのはもったいないけど、仕方ないよね」
そんな言葉とともに、ユイナは道具袋からポーションを取り出す。MPを回復させるつもりなのだろう。
だが、その姿を見て俺は口を開いた。
「待ってくれ、ユイナ。そのポーションの代わりに、俺のスキルを使わせてもらえないか?」
「え? スキル?」
「ああ、これなんだけど……」
困惑するユイナへ、俺はマナコネクトのウィンドウを表示して見せた。
――――――――――――――――――――
【マナコネクト】LV1
属性:無
分類:支援系統の中級スキル
効果:対象者との間に経路を繋ぎ、魔力の受け渡しを行う。
――――――――――――――――――――
それを見たユイナは、「あっ……」と声を漏らした。
「マナコネクト……聞いたことがある。支援職が覚えられるジョブスキルだよね?」
さすが、と言うべきか。
自分が将来的に覚える可能性のあるスキルについては、しっかり予習済みらしい。
しかし初めは納得したように頷いたユイナだったが、すぐに何かに気付いたのか、怪訝そうな表情で首を傾げた。
「だけどこのスキルって、確か変換効率が良くなくて、あんまり使われてないんじゃ……」
「そうだな。LV1の段階で約50%ってのもあって、実質倍の魔力が必要になるわけだし……けど、俺の魔力についてなら心配しなくていい。まだ大分余裕があるし、減ったとしても自分のポーションを使うから」
「そ、そんなの申し訳ないよ……!」
慌てた様子で、両手を左右に振るユイナ。
心優しい彼女らしい反応だが、ここで引くわけにはいかない。
なにせこれは彼女のためだけじゃなく、俺にとっても重要な意味を持っているのだから。
「言っておくが、別にただの親切ってわけじゃないぞ。俺の方にもちゃんとメリットがあるんだ」
「アレンくんにも……?」
「ああ。確かにマナコネクトの変換効率は良くないけど、ポーション使用後のクールタイム中とか、限られた場面じゃ十分に役立つスキルなんだ。スキルレベルが上がれば効率も良くなっていくし……できれば今のうちに、熟練度を稼いでおきたい」
「あ……そっか。使う機会がないと、スキルは育てられないもんね」
「そういうことだ。それに、俺には“これ”もあるからな」
手首に嵌めた黄金の腕輪――【ドラウプニル】を掲げてみせる。
「それって……確かリリアナさんから借りてる、マジックアイテムだよね?」
「ああ。こいつにはレベルアップや不死人形相手の特訓時、MP上昇量に補正をかける効果があってな。しかも、使った魔力量が多いほどその効果は上がっていく。つまり――魔力を大量に消費すること自体、俺にとっては無駄にならないんだ」
懸念があるとすれば、変換効率の悪さで消費が嵩み、ポーション代が増えることくらいだが……メリットに比べれば些細すぎる問題だ。
それこそ、足りない分はこのダンジョンで賄ってやればいい。
(……それに、もう一つ)
俺は内心でもう一つの恩恵について考える。
マナコネクトは、ヒーラーやバッファーといった支援職が獲得できるスキル。
それはつまり原作において、グレイも獲得できたスキルだということだ。
そしてダンアカのグレイには、魔力の受け渡しの他にもう一つ、このスキルを積極的に使うべき大きな理由が存在していた。
――【ドラウプニル】に秘められた、もう一つの機能。
その解放を目指す上で、マナコネクトの運用が最も効率的なのだ。
「――とにかく、だ。俺にとってもかなりメリットが大きくて……ユイナさえ迷惑じゃなかったら試させてほしい」
「……もう。そういうところだよ、アレンくん」
「えっ?」
「ううん、何でもない……それじゃ、お願いしてもいいかな?」
「っ、ああ」
無事に同意をもらえたところで、さっそく実行に移す。
「それじゃ、手を借りてもいいか?」
「う、うん」
他の支援魔法と同様、直接触れた方が効率的……というより、やりやすさが変わるはずだ。
そのため差し出された手を、ゆっくりと握る。
潤いを感じる柔らかな感触……などという感想は頭の片隅に追いやりつつ、
「それじゃ、いくぞ」
「うん……っ!?」
初めてということもあり、慎重に魔力を流し込んでいく。
まず感じたのは、他者にヒールをかける時と同じ抵抗感。
生物が有する当然の防衛反応によって、俺の魔力が弾かれていく。
そんな中、抵抗を突破した分の魔力だけが、少しずつユイナへと注がれていくのだが――
「んっ……な、何だか不思議な感じがするね。くすぐったいっていうか……ヒールをかけてもらった時とは、また違うっていうか……」
「……まあ、治療に消費されるんじゃなくて、魔力そのものが相手のものになるわけだからな。治癒魔法や強化魔法とは、仕組みが違うんだろう」
他人の魔力――言ってしまえば異物が体内へ入り込んでくるわけで、そこに違和感があるのだろう。ユイナは僅かに頬を赤らめ、身をよじっていた。
それだけくすぐったかったりするのだろうか?
……初めからあまり長く続けるのはよくなさそうだ。
「――ひとまずは、この辺りだな」
「あっ……」
30秒ほど経過したところで、いったんスキルを止める。
完全回復には至っていないだろうが、攻略を再開する分には十分なはずだ。
そう考えながら視線を上げると――供給が止まったことへの安堵なのか、それとも別の何かなのか、ユイナは何とも形容しがたい複雑な表情を浮かべていた。
……ふむ。
「何か問題があったか? もしそうなら、これから使うのは控えようと思うが……」
「え? ……う、ううん、そんなことないよ! 全然嫌じゃなかったから!」
「そうか? だったらいいんだが……」
「うん。だから、その……これからもまたお願いして、いいかな?」
「ああ、もちろん。むしろこちらこそ頼む」
少し疑問は残るが、特に問題があったわけではなさそうだ。
「――よし、それじゃそろそろ、攻略を再開するか」
――その後、攻略を続けること約2時間。
最初の2体を含めて、俺たちは合計10体のコメットレプスの討伐に成功した。
獲得できた彗煌石は計8つ。
ゲーム通りの攻略手段なら、同じ時間で稼げるのは平均2個といったところ。どれだけ効率的に進められたかが分かるだろう。
そうして獲得した彗煌石は、俺とユイナで半分ずつ分けることになったのだが――
「ほ、本当にいいのかな? 私が半分ももらっちゃって……」
山分けを終えた後も、ユイナはまだ遠慮がちだった。
「今日の攻略が上手くいったのは、ほとんどアレンくんのおかげだし……」
「何言ってるんだ。そもそもユイナのウィングアップがなかったら、討伐すらできていなかったんだぞ。それに、これから先も付き合ってもらうつもりなんだ。報酬が不公平なままじゃ、こっちが頼みにくいからな」
「……うん。ありがとう、アレンくん」
微笑みながら頷くユイナ。
ようやく納得してくれたところで、話題は次へと移る。
「それでアレンくん、この彗煌石ってどうするの? 素材にするか売るかって話だったけど……」
「そうだな……彗煌石は魔力の伝導率が高いから、ゆくゆくは矢の素材として使いたいところだけど、しばらくは売却を優先するべきだろうな」
「そうなの?」
「ああ。矢の製作費を稼ぐのはもちろんだが……それより先に、最優先で買っておいた方がいいものがある――異空庫の指輪だ」
弓使いは矢を持ち運ぶ関係上、どうしても手荷物が多くなる。
弓本体に矢筒、それに道具袋。今はまだ何とかなっているが、これから矢の消費量が増えていけば、いずれ持ち運びの限界が来るのは目に見えていた。
荷物の量は、そのまま戦闘中の取り回しにも直結する問題だ。
それを一挙に解決してくれる収納系のマジックアイテムは、何を差し置いてでも確保しておくべきだろう。
「そっか……確かにそうだよね」
自分の背負う弓と矢筒、それに道具袋を見下ろしながら、ユイナは頷いた。
「じゃあ当面の目標は、異空庫の指輪が買えるくらいまでのお金稼ぎ、だね」
「ああ」
方針はまとまった。
あとはこの調子で狩りを重ねていくだけ――なのだが。
(とはいえ――顔つなぎくらいは、しておいてもいいか)
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
どうせ矢の製作で、これから世話になる場所なんだ。早いうちに彼女を紹介しておいて損はないだろう。
「ユイナ、この後ちょっとだけ時間あるか? 寄りたいところがあるんだけど」
「うん、大丈夫だよ。どこに行くの?」
首を傾げるユイナに向かって、俺は告げる。
「――魔道具工房だ」
◇◆◇
ダンジョンを後にした俺たちは、その足でアカデミーの魔道具工房へと向かった。
放課後になってからかなりの時間が経ち、鍛錬場に残っていた連中もほとんど帰っている頃合いだが……問題はない。
彼女ならまず間違いなく、まだ残っているはずだ。
やがて魔道具工房に到着し、俺は迷わず奥の一室を目指す。
「……ここだな」
目的の部屋の前に立ち、扉をノックする。
(……あれ?)
しかし、返答がない。
彼女にしては珍しく留守か――そう思った直後だった。
ドゴォォォォォン!!!
「「――――!?」」
部屋の中から爆音が轟き、扉が勢いよく吹き飛んできた。
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